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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第11章 新しい店と噂

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第49話 噂

昼を少し過ぎたころ、カルロが顔を出した。


荷を担いで入ってきた。旅の埃を引きずったような顔で、広間を見渡した。


フィナが仕込みの手を止めた。「カルロさん」


「久しぶりですね、フィナ」カルロが言った。「元気にしていましたか」


「はい。カルロさんは」


「まあ、いつも通りに」カルロは少し笑った。「旅の話、後で聞かせますよ」


フィナがうなずいた。「ぜひ」


カルロがカウンターの端に荷を置いた。こちらを見た。「久しぶりですね」


「久しぶりです。どこまで行っていましたか」


「北の方まで。山越えの手前まで行って戻ってきました」


薬草茶を出した。カルロが一口飲んだ。「ここ、変わりましたね」


「少し整えました」


広間をもう一度見渡した。「悪くない。いい感じになってきましたよ」


---


旅の話をした。道が荒れていた、宿が高かった、山の手前の村で新しい市が立っていた。カルロの話は、聞いていると旅の埃が飛んでくる気がした。


「そういえば」カルロが言った。「王都の商人通りで見かけましたよ。ここに似た店が」


手が止まった。引っかかった。


「どのくらい似ていましたか」


「薬草茶を出していた。仕切りがあって——商人が入っていきました。出てきた顔が、ここで見る顔と似ていた。何かを決めた顔、といいますか」


「いつごろですか」


「ひと月くらい前でしょうか」カルロが言った。「気になりますか」


少し間を置いた。「気になります」


---


偶然の一致ではない、と思った。


形を、誰かが持ち出した。形は移せる。それが問題だった。


証拠はなかった。遠すぎて、手が届かない——そう思いかけたとき、奥の扉が開いた。


クレメントだった。後ろに、落ち着いた身なりの男が続いた。旅装ではなかった。物腰が、この街の商人とは違った。


こちらを見て、クレメントが言った。「マーケタ、少しいいですか。イルゼさんも」


---


四人でカウンターの端に立った。


クレメントが男を紹介した。王都の役所に席を置く者だと言った。


男が口を開いた。最近、王都でも商人同士が静かに話をできる場を求めている動きがある、と言った。宿の食堂でも酒場でも、話が漏れる。金を出してもいいから、そういう場が欲しいという声がある。


「どのくらいの人数を想定していますか」


「二人から四人程度でしょうか。多くなくていい。静かで、外に出ない話ができれば」


「頻度は」


「月に数回。定期的に使えるなら、それ以上でも」


聞きながら、カルロの話が頭に浮かんだ。


「この店は、参考になりました」男が言った。「クレメントから話を聞いて、実際に来てみた」


イルゼが短くうなずいた。


クレメントが言った。「また連絡します」


男が店を出た。扉が閉まった。


---


イルゼと目が合った。何も言わなかった。


カルロが見た店。今日の男が求めていた場。


向こうにも、同じ需要がある——確信に変わった。


---


フィナに聞いた。「王都の商人通り、知ってるか」


フィナが顔を上げた。「どのあたりですか」


「橋の近く、だと思う」


「あの通りなら」フィナが言った。「よく歩きました。旧市街の橋ですよね。宿から近かったので」


フィナの答えに、迷いがなかった。


---


夕方から、動きながら考えていた。


カルロが見た店。今日の男が求めていた場。フィナが知っている通り。


客の杯を下げながら、テクラの言葉が頭を流れた。「見つかったら教えて」。


テクラ、答えが、見つかったよ。


---


閉店後、フィナと並んで歩いた。


「王都に行こうと思う」


フィナが少し間を置いた。


「……いつですか」


「来月。クレメントに話をつけてもらう」少し間を置いた。「一緒に来てもらえないか」


フィナがうなずいた。「私も行きます」


フィナの目が、こちらをまっすぐ見ていた。


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