第47話 新しい店
移転が終わった。
二週間、店を閉めた。作業の間、常連から何度か声をかけられた。「どこへ行くんだ」「次はいつ開く」。場所が変わること、新しくなること、それだけ告げてその場を切り抜けた。
今日が開業初日だった。
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朝、フィナと並んで新しい店へ向かった。
「今日からですね」フィナが言った。
「そうだね」
少し間があった。
「うまくいきますかね」
わからない、と正直に思った。でも——
「やってみないとね」
フィナが少し笑った。「そうですね」
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新しい建物は、以前の場所から少し歩いたところにある。通りに面した一角で、市場に近い。
着くと、すでにイルゼがいた。カウンターの端に立って、広間を見渡していた。こちらに気づいて、目が合った。
何も言わなかった。腹の決まった目だった。
「開けるよ」
「はい」
奥に個室が二つある。小さなテーブルと椅子が二脚ずつ。人に聞かれたくない話がある客は、こういう場所を求めている。以前の店には、こういう場所がなかった。テクラが広間の椅子を並べ直した。フィナが昼の準備を始めた。
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昼を過ぎたころ、クレメントが来た。
一人ではなかった。旅装の男を連れていた。目が細く、荷の重さを体で知っている感じがした。
「場所を借りますよ」
「どうぞ」
奥の個室に二人を案内した。扉を引いて、クレメントが入った。商人が続いた。
扉が、閉まった。
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広間に戻った。
テクラが旅の客に薬草茶を運んでいた。フィナが常連に何かを説明していた——薬草茶の種類だろうか、手振りを交えていた。何かが足りなければ、誰かが動いていた。
それを確認したくて、しばらく端に立って見ていた。
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しばらくして、奥の扉が開いた。
商人が出てきた。顔が、来たときと違った。少し軽くなっていた。
何かが、決まったのだと思った。
クレメントが続いて出てきた。
「少しいいですか」
商人が店を出るのを待って、クレメントが言った。「イルゼさんも」
三人でカウンターの端に立った。
「改善点は追って話します」クレメントが言った。「それより——次に連れてきたい相手がいる。来月、時間を作れますか」
「はい」
それだけだった。
クレメントが店を出た。イルゼと目が合った。何も言わなかった。
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夜、客が引いた。
帰り道、フィナと並んで歩いた。
「うまくいきましたね」フィナが言った。
朝「うまくいきますかね」と言っていた子が、今は「うまくいきましたね」と言っている。
「うまくいった」
個室の扉が閉まった瞬間を、思い出した。あの一言を。
動いた。新しい仕組みが、今日初めて動いた。




