第46話 同居一日目
翌日、クレメントが午前中にもう一度やってきた。
「物件は動かせます。今の場所から歩いて少しのところに、広めの建物が空いています。個室は大きめが二つ、小さめが六つ取れる」
三人でテーブルを囲んだ。フィナが薬草茶を運んできた。カップを手に、クレメントが新しい店の間取りを言葉で描いていく。イルゼが頷いた。
移転の間は店を閉める。二週間あれば十分だという。
話を聞きながら、クレメントの顔を見ていたら——昨夜のことを思い出していた。
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帰りかけられた瞬間、頭が真っ白になった。
あのとき俺がやったことは、計算じゃなかった。「あの」と声をかけたのは、一か八かだ。立ち去ろうとする背中を見ながら、このまま終わったらまずいという焦りだけがあって——気がついたら口が動いていた。
クレメントには、落ち着いた提案に見えたかもしれない。でも内側では、取り繕いながら話していた。
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話し合いが続いた。移転後の住まいのことになった。
「住み込みの女中たちは?」クレメントが聞いた。
イルゼが俺を見た。「あんたはどうする」
「……外に出ます」
「そうか」イルゼが頷いた。
「新しい店には個室の商談スペースを作りましょう」俺が言った。「クレメントさんが言ってた通りに」
クレメントが、少し口元を動かした。
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話し合いが終わって店を出ると、フィナが隣に来た。
「マーケタさんは」フィナが言った。「どこに住むんですか」
「まだ決めてない」俺は言った。「フィナは?」
「……私もです」
少し間があった。一緒に探そうか。自然と言葉が出てきた。フィナは少し悩んだような間があったが、微笑みながら頷いてくれた。
いくつか見て回った。天井が低すぎるとか、通りから遠いとか、そういう部屋だった。
見つかった部屋は二人で住むには少し小さかった。でも、日当たりが良くて、窓から通りが見えた。フィナが部屋に入って、少し見回した。それから窓に歩み寄って、開けた。外を見た。
「ここがいいです」
俺も同じことを思っていた。
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同居の一日目。
朝、光が差した。フィナがすでに起きていた。窓際に見覚えのある鉢植えが一つ。棚には、小さなぬいぐるみが置いてあった。
「おはようございます」少し弾んだ声だった。「日当たり、いいですね」
「……おはよう」
鉢植えを見た。昔、フィナの部屋の窓に置いてあったやつだ。ここに連れてきたんだ、と思った。部屋に物が増えていた。生活が始まっている感じがして——じわっと、温かかった。
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ふと、思った。
——俺が決めたのか、この子が望んだのか。
俺にもフィナにも住む場所が必要だった。それは本当だ。でも——本当にそれだけか。
心の中でこの子に問いかけてみたが、答えはなかった。
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夕食のとき、フィナが話した。
「王都では、こういうとき——宿の食堂で食べることが多いんです。住み込みの仕事が多いから、自炊するひとがあまりいなくて」
「そうなのか」気がつくと、少し前のめりになっていた。「王都って、どんなところ?」
フィナが少し考えてから、話しはじめた。人が多いこと。食べ物の種類が全然違うこと。路地が複雑で、最初は迷ってばかりだったこと。
聞いていると、自然と頭の中に絵が浮かんだ。
「行ったことありますか?」フィナが聞いた。
「ない」
「「いつか——」」声が被った。目が合って、少し笑ってしまった。
「いつか一緒に行ってみよう」
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> "Think Win-Win is a frame of mind and heart that constantly seeks mutual benefit in all human interactions."
> 「Win-Winの思考とは、あらゆる人間関係において常に互いの利益を求める心の枠組みだ。」
> ― Stephen R. Covey
ここまで読んでくださっている皆様へ。
感想やリアクション、ブックマークや評価で応援してくださっている方、本当にありがとうございます。
2部、これで完結です。
2部から登場したクレメントが、最終的にパートナーになりました。最初から「こうなる」と決めていたわけではなく、書いていたら自然とそうなっていました。あの場面を書けたことが、2部を書いてよかったと思う一番の理由です。
そして、フィナが戻ってきました。ずっと気になっていた子なので、よかったです。テクラも、書いていて大好きになったキャラクターです。
3部では、エストハルトの外へ出ます。旅が始まります。まだまだ続きます。
ここからしばらく、更新が不定期になりそうです。ゆっくりお付き合いいただけると嬉しいです。
正直、なかなか届いていない実感があって——もし続きを楽しみにしてくださっているなら、ブックマークや評価で応援していただけると本当に助かります。「こういう話が好きな人に届いてほしい」と思っているので。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。




