第43話 仮説検証
数日が経った。
修道院から荷が届いた。薬草の束が、小さな布袋に分けて入っていた。
イルゼが匂いを確かめて、少し目を細めた。
「この配合だ。間違いない」
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フィナはあれから、宿屋に世話になっていた。
イルゼが話をつけていた。翌日には荷物を持って宿屋に移っていた。
薬草茶が届いた昼前、俺が宿屋に顔を出した。フィナは帳場の近くで書き付けを広げていた。
「届いたよ」
フィナが顔を上げた。「薬草茶ですか」
「うん。今日、試してみようと思って」
「……わかりました」フィナが書き付けを畳んだ。「少し待ってください」
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二人で市場に向かった。
薬草茶の包みを三つ、懐に入れておいた。
「宿屋はどうだった」
「よくしてもらっています。主人が厳しいですけど、悪い方じゃなくて」
「旅商人が来るのは昼頃だよね」
「はい。大体、昼前後です。荷物を下ろして、それからすぐ街に出ていく方が多くて。でも——あそこに戻る場所がないから、時間を持て余しているみたいで」
少し歩いた。
「フィナと一緒に外に出るの、久しぶりだね」
「そうですね」
「あの頃は——こんなふうになるとは、思ってなかった」
「どんなふうに、ですか」
「フィナが前に出て、私が後ろにいる、みたいな」
「……そんなこと、ないと思います」
「あの頃、私はずっとフィナに教わってたよ」
「え」フィナが少し驚いた顔をした。「私が、ですか」
「目が合ったら笑うだけで全然違うって、言ってくれたよね。最初の頃に」
フィナがしばらく、黙って歩いた。
「……そんなこと言いましたっけ」
「言ったよ。朝、階段を降りる前に」
「覚えていないです。当たり前のことだと思っていたので」
「私には全然、当たり前じゃなかった」
ふとフィナのほうを見ると、フィナはふっと目をそらした。耳がムズムズと動いている。それから、また前を向いた。
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久しぶりに来た市場は、変わっていなかった。露店に声が飛び交い、地元の客が値を確かめている。旅人たちはざっと見回して、少し立ち止まって、また歩き出す。目当てが見つからないような足取りだった。夜の店の客層とは、全然違う。
市場の手前で、旅荷を下ろして壁際に立っている男が目についた。
暇を持て余している感じがした。
「話しかけてみよう」
「あ、あの人だったら。私声かけますね」
フィナが少し、こちらを確かめるように見た。それから、前に出た。
「こんにちは、先ほどはありがとうございました」
男が顔を上げた。少し目を細めた。「——ああ、さっき宿で受付してくれた。何してるんだい?」
「はい」フィナが少し微笑んだ。「少し、お聞きしてもいいですか。昼間、時間があるときって、どこかに行かれますか」
「そこの食堂で飯を食って、市場は一回りした。あとは……特にないな」
「時間を持て余していますか」
「ああ、持て余してる。夜になれば酒場に行くんだがな」
「昼間に腰を落ち着けて、他の旅商人と話せる場所があれば——使ってみたいですか」
男が少し考えた。「あればいいな。王都だったらギルドで情報交換とかするんだが、この街にはないからな」
「ありがとうございます」フィナが懐から包みを取り出した。「よろしければ——これ、試してもらえますか。旅の疲れに効く薬草茶です」
「へぇ、薬草茶」男が包みを受け取って、鼻を近づけた。「……いい香りだ」
「感想、後で聞かせてもらえると嬉しいです」
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次の男。連れが市場に入っている間、一人で待っているようだった。
フィナが同じように声をかけた。答えも同じだった。「時間はある。でも、どこにいればいいかわからない」
三人目。少し年かさの商人で、最初は警戒した顔をしたが、最後は包みを受け取った。
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帰り道、フィナが少し早足になっていた。
「三人とも、同じことを言いましたね」
「うん」
フィナが、まっすぐこちらを見た。
「やれます、マーケタさん」
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イルゼに話した。
時間を持て余している。情報を交換できる場を探している。薬草茶の香りへの反応は悪くなかった。フィナが話した内容を、そのまま伝えた。
「三人、全員か」イルゼが言った。
「はい」
少し間があった。
「やれるな」
「やれます」




