第42話 光が、見えた
一歩踏み出す。新しい景色。
「……例えばなんですけど、昼に店を開けるって、どう思いますか」
二人がこちらを見た。
イルゼが少し間を置いた。「……昼か」
「今まで夜の場のことしか考えていなかった。夜にどうやって客を呼ぶか、どう変えるかって。でも——もしかしたら、私たちの強みは昼のほうが生きるんじゃないかって」
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内心で、引っかかりを感じた。
半年以上かけて作ってきた。弦弾きを呼んで、給仕の声かけを変えて、商人たちが話せる空気を作って。
それを——崩すのか。
せっかく、ここまで来たのに。
でも、ずっとしっくりこなかった理由はそこだった。夜の場の中でしか考えていなかった。夜の居心地をもっとよくする、夜の客をもっと増やす——全部、同じ方向を向いていた。
一歩踏み出す、その勇気を持てるかだ。
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「フィナ、昼間は宿にどんな客が多かった?」
「旅の商人さんですね。大体、昼頃に着くんですよ。荷物を置いて、それから街に出られてましたね」
「そのお客さんはどこに行くんだろう」
「王都の場合は、市場が多いみたいです。何人にも場所を聞かれてました。でも——この街には、そんなに大きな市場はないですよね。どうしてるんでしょう」
「一応、市場には出るんじゃないか。物流の中継地点だからな」イルゼが言った。「だが、王都ほど大きくないから、夜まで時間を持て余しているかもしれないな。」
「だとしたら、そこに隙間がある。昼間に情報を交わせる場があれば——他の店には作れないものになる」
「でも何を出すんですか。お酒を出したら、そのお客さんはもうその日仕事にならないですよ」
——たしかに。
(酒じゃなくていい——コーヒーや紅茶みたいな…)
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「酒じゃない、何か別の飲み物を出せれば——目を覚ましたり、疲れをほぐしたり、そういう効果のあるものって、ないでしょうか」
イルゼが少し、目を細めた。
「薬草茶なら、出せるかもしれない」
「薬草茶?」
「王都にいたころ、教えていた学校の隣が修道院でな。薬草を育てていたんだ。それでな——旅の疲れに効く配合があるっていうのを聞いたことがある。眠気を醒ます、足の重さを取る。宿場に近い場所なら、そういうものを欲しい人間は多いんじゃないか?」
フィナが少し、目を見開いた。「王都からここまで、結構な距離があるんですよね。私も今日、昼過ぎに着いて、少し休んでからここに来たんですけど——そういうお茶があったら、嬉しいと思います」
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頭の中で並べた。
昼に開ける。酒じゃなく薬草茶を出す。旅商人が立ち寄りやすい場を作る。
そして、夜の場も昼に合わせて再設計する。
(できる)
「やってみましょう」
イルゼが、少し口の端を上げた。「そうだな」
少し間があった。
「薬草の配合は、試してみればわかる」イルゼが続けた。「修道院とのつながりは残っている——取り寄せることはできる。まず少量から始めよう」
「昼に立てる人間は——フィナ、宿の仕事は抜けられる?」
「相談してみます」
「三人でやれるなら、当面は何とかなる」
フィナが続けた。「旅商人が動く時間帯、わかります。昼過ぎの——荷物を下ろしてからの一時が、一番動きます。そこに合わせれば」
「本格的にやれそうなら、人を追加で確保しよう」
「それで行こう」
光が、見えた。




