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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第9章 捨てる、場を変える、場が動く

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第40話 ジレンマ

翌日、仕込みが終わった後にイルゼに声をかけた。


「少し話せますか」


「……部屋に来な」


---


前と変わらない部屋だった。イルゼは向かいに座って、腕を組んだ。


「次の手を考えたくて。今の状況、整理しながら」


「聞いてる」


「売上が伸び悩んでいます。吟遊詩人は向こうに流れてる。引き抜きもある。このまま続けても、じわじわ削られていく気がして」


「わかってるよ」イルゼが言った。「続けな」


---


「旅人の取り込み方を変えたい、と思っていて。今、旅人はここを知らないまま帰っていく。宿に着いたらそのまま、翌朝また出ていくだけで」


イルゼが少し考えた。


「宿の主人と話したことあるか」


「ないですね」


「あそこの主人とは顔見知りだ。旅人が着いたときにここを案内してもらえれば——向こうも悪い話じゃないだろ」


「それは動きやすいですね」


「話してみる」イルゼが続けた。「他には」


「テクラのことも考えていて」


「テクラ?」


「あの子、うまいんですよ。自然に声をかけて、話を引き出す。今もやってはいるけど、もっと前に出してもいいと思う。顔にする」


イルゼが少し間を置いた。


「……テクラなら、いいんじゃないか」


「あと——」


少し間があった。


「旅人が持ってくる情報——道の状態、仕入れ先、相場。あれ、話して消えていくだけだろ」


「もったいないんですよね」


「ずっと思ってた」


「見えるようにしたい。書き付けを貼れる板を出す。来た人が書き残して、来る人が読める」


「……それは面白いな」


---


しばらく、黙った。


悪くない。三つとも筋が通っている。全部やれる。


「やろう」とイルゼが言った。


「うん……いや」


出した案を、頭の中でもう一度並べた。


「……しっくりこないんですよね」


「何が」


「……何がって言われると」


間があった。


イルゼは何も言わなかった。


---


その夜、閉店後に扉の外で音がした。


イルゼが開けた。そのまま、動かなかった。


俺は後ろから覗いた。


扉の向こうに、フィナが立っていた。


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