第40話 ジレンマ
翌日、仕込みが終わった後にイルゼに声をかけた。
「少し話せますか」
「……部屋に来な」
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前と変わらない部屋だった。イルゼは向かいに座って、腕を組んだ。
「次の手を考えたくて。今の状況、整理しながら」
「聞いてる」
「売上が伸び悩んでいます。吟遊詩人は向こうに流れてる。引き抜きもある。このまま続けても、じわじわ削られていく気がして」
「わかってるよ」イルゼが言った。「続けな」
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「旅人の取り込み方を変えたい、と思っていて。今、旅人はここを知らないまま帰っていく。宿に着いたらそのまま、翌朝また出ていくだけで」
イルゼが少し考えた。
「宿の主人と話したことあるか」
「ないですね」
「あそこの主人とは顔見知りだ。旅人が着いたときにここを案内してもらえれば——向こうも悪い話じゃないだろ」
「それは動きやすいですね」
「話してみる」イルゼが続けた。「他には」
「テクラのことも考えていて」
「テクラ?」
「あの子、うまいんですよ。自然に声をかけて、話を引き出す。今もやってはいるけど、もっと前に出してもいいと思う。顔にする」
イルゼが少し間を置いた。
「……テクラなら、いいんじゃないか」
「あと——」
少し間があった。
「旅人が持ってくる情報——道の状態、仕入れ先、相場。あれ、話して消えていくだけだろ」
「もったいないんですよね」
「ずっと思ってた」
「見えるようにしたい。書き付けを貼れる板を出す。来た人が書き残して、来る人が読める」
「……それは面白いな」
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しばらく、黙った。
悪くない。三つとも筋が通っている。全部やれる。
「やろう」とイルゼが言った。
「うん……いや」
出した案を、頭の中でもう一度並べた。
「……しっくりこないんですよね」
「何が」
「……何がって言われると」
間があった。
イルゼは何も言わなかった。
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その夜、閉店後に扉の外で音がした。
イルゼが開けた。そのまま、動かなかった。
俺は後ろから覗いた。
扉の向こうに、フィナが立っていた。




