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傾いた樽と真珠 ~おっさんマーケターが美少女に転生、気がついたらそこは場末の酒場兼娼館だった~  作者: 華雪β
第9章 捨てる、場を変える、場が動く

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第39話 パジャマパーティー

閉店後、片づけを終えて戻ろうとしたとき、テクラに声をかけられた。


「マーケタ、ちょっと部屋に来ない?」


「いいけど、どうしたの」


「いいから来て」


---


テクラの部屋に入ると、ベッドの端を叩かれた。座れ、ということらしかった。


「マーケタ、最近キツそうだよ。大丈夫?」


「そうかな」


「いっぱい抱えて辛いんでしょ」


「……そんなことは」


「今日はお姉ちゃんに甘えていいんだよ」


「テクラ、同い年じゃん」


「あはは、よしよし」


頭に手を置かれた。払いのけようとしたが、なんとなく、できなかった。


---


しばらくそのままでいた。


「ちょっとは落ち着いた?」


「……うん」


少し、間があった。


「ありがとう」


「よかった」


テクラが床に足を投げ出して、壁にもたれた。


「ねえ、マーケタ。私が来る前、ここはどんなだった? この街の生まれだから、ここが他の店と同じだったのは知ってる。どうやって変わったの?」


「……ちょっと長くなるよ」


「いいよ。眠くなったら寝るから」


笑いそうになった。


「私とフィナは、買われてここに来た」


テクラが少し、目を細めた。


「当時——当時って言っても、半年前なんだけどね。あの頃は、他の店と変わらなかった。上の階があって、女中は客を取る立場だった」


「……うん」


「このままじゃいられない、と思った。だから、変えようとした」


---


話した。


「最初にやったのは、客を観察することだった」


「観察?」


「誰が来て、誰が来ないか。何の話をしているか。どこへ向かうか。毎晩、ずっと数えていた」


「それで何がわかったの」


「この街、旅の人が必ず通るんだよね。補給の街だから。その人たちは情報を持ってた——道の状態、仕入れ先、相場。でも、どの飲み屋にも来ない。宿に泊まって、翌朝また出ていくだけで」


「じゃあ飲み屋には来ないじゃん、そもそも」


「そう。だから、来たくなる場を作った。酒の出し方を変えた。給仕が先に声をかけるようにした——客が黙って飲むだけじゃなく、話せる場にした」


「それって……今の感じじゃん」


「うん。それから弦弾きを呼んだ。吟遊詩人が来ると、場の空気が変わる。商人たちが話しやすくなる」


「なんで」


「弦の音が、話の隙間を埋めるから。沈黙が怖くなくなる。だから、知らない客同士でも話し始める」


「へえ」テクラが言った。本当に初めて聞いた、という顔だった。「それで変わったの?」


「少しずつ、変わった。最初はほとんど変わらなかった。でも半年かけて——来る人の種類が、変わっていた」


「フィナって子も一緒にやってたの?」


「そうだね。最初からいた。よく見ていた子だった」


しばらく、二人とも黙った。


「……それで、今どこで詰まってるの」


「強みはわかってる。客が話せる場所を作れた。でも——売上は伸び悩んでるし、吟遊詩人は向こうに流れてるし、女中への引き抜きもある。じわじわ、追い詰められてる感じがして。次をどうすればいいか、見えなくて」


テクラが首をかしげた。


「うーん。難しいね、それ」


「そうだね」


「……私も、声かけられたしね。断ったけど」


「……大丈夫だった?」


「うん。ここのほうがよかったから」


少し間があった。


「……残ってくれて、ありがとう」


テクラは何も言わずに、頭に手を置いた。


「でも、なんか——ここまでできたんだから、また何か出てくるんじゃないの」


「根拠あるの?」


「根拠はないけど」テクラがこちらを見た。「今まで、なかったの? ちゃんと変えてきたじゃん」


返す言葉が、すぐには出なかった。


「……そうだね」


テクラが少し、あくびをした。


「今日は一緒に寝よっか」テクラが言った。「難しいこと考えるの、一回やめて」


---


その夜、お互い眠くなるまで話をした。


仕事の話でも、店の話でもなく、テクラが前の店にいたころの話だとか、この街で子供のころに行った祭りの話だとか、そういう話を。


久しぶりに、肩の力を抜いて話ができた気がする。


---


翌朝、寝坊した。

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