第39話 パジャマパーティー
閉店後、片づけを終えて戻ろうとしたとき、テクラに声をかけられた。
「マーケタ、ちょっと部屋に来ない?」
「いいけど、どうしたの」
「いいから来て」
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テクラの部屋に入ると、ベッドの端を叩かれた。座れ、ということらしかった。
「マーケタ、最近キツそうだよ。大丈夫?」
「そうかな」
「いっぱい抱えて辛いんでしょ」
「……そんなことは」
「今日はお姉ちゃんに甘えていいんだよ」
「テクラ、同い年じゃん」
「あはは、よしよし」
頭に手を置かれた。払いのけようとしたが、なんとなく、できなかった。
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しばらくそのままでいた。
「ちょっとは落ち着いた?」
「……うん」
少し、間があった。
「ありがとう」
「よかった」
テクラが床に足を投げ出して、壁にもたれた。
「ねえ、マーケタ。私が来る前、ここはどんなだった? この街の生まれだから、ここが他の店と同じだったのは知ってる。どうやって変わったの?」
「……ちょっと長くなるよ」
「いいよ。眠くなったら寝るから」
笑いそうになった。
「私とフィナは、買われてここに来た」
テクラが少し、目を細めた。
「当時——当時って言っても、半年前なんだけどね。あの頃は、他の店と変わらなかった。上の階があって、女中は客を取る立場だった」
「……うん」
「このままじゃいられない、と思った。だから、変えようとした」
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話した。
「最初にやったのは、客を観察することだった」
「観察?」
「誰が来て、誰が来ないか。何の話をしているか。どこへ向かうか。毎晩、ずっと数えていた」
「それで何がわかったの」
「この街、旅の人が必ず通るんだよね。補給の街だから。その人たちは情報を持ってた——道の状態、仕入れ先、相場。でも、どの飲み屋にも来ない。宿に泊まって、翌朝また出ていくだけで」
「じゃあ飲み屋には来ないじゃん、そもそも」
「そう。だから、来たくなる場を作った。酒の出し方を変えた。給仕が先に声をかけるようにした——客が黙って飲むだけじゃなく、話せる場にした」
「それって……今の感じじゃん」
「うん。それから弦弾きを呼んだ。吟遊詩人が来ると、場の空気が変わる。商人たちが話しやすくなる」
「なんで」
「弦の音が、話の隙間を埋めるから。沈黙が怖くなくなる。だから、知らない客同士でも話し始める」
「へえ」テクラが言った。本当に初めて聞いた、という顔だった。「それで変わったの?」
「少しずつ、変わった。最初はほとんど変わらなかった。でも半年かけて——来る人の種類が、変わっていた」
「フィナって子も一緒にやってたの?」
「そうだね。最初からいた。よく見ていた子だった」
しばらく、二人とも黙った。
「……それで、今どこで詰まってるの」
「強みはわかってる。客が話せる場所を作れた。でも——売上は伸び悩んでるし、吟遊詩人は向こうに流れてるし、女中への引き抜きもある。じわじわ、追い詰められてる感じがして。次をどうすればいいか、見えなくて」
テクラが首をかしげた。
「うーん。難しいね、それ」
「そうだね」
「……私も、声かけられたしね。断ったけど」
「……大丈夫だった?」
「うん。ここのほうがよかったから」
少し間があった。
「……残ってくれて、ありがとう」
テクラは何も言わずに、頭に手を置いた。
「でも、なんか——ここまでできたんだから、また何か出てくるんじゃないの」
「根拠あるの?」
「根拠はないけど」テクラがこちらを見た。「今まで、なかったの? ちゃんと変えてきたじゃん」
返す言葉が、すぐには出なかった。
「……そうだね」
テクラが少し、あくびをした。
「今日は一緒に寝よっか」テクラが言った。「難しいこと考えるの、一回やめて」
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その夜、お互い眠くなるまで話をした。
仕事の話でも、店の話でもなく、テクラが前の店にいたころの話だとか、この街で子供のころに行った祭りの話だとか、そういう話を。
久しぶりに、肩の力を抜いて話ができた気がする。
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翌朝、寝坊した。




