第19話 最後の一手
三度目だった。
一度目は言葉だけで行った。二度目は数字を持っていった——でも、構造が噛み合っていなかった。
今回は、違うものを持っていく。
(それは賭けだ)
扉の前に立った。一呼吸置いた。
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「前回——利益が落ちていると言ってもらいました」
「そうだよ」
「正しかった」
イルゼが少し顔を上げた。
「上の部屋への依存を減らし、なおかつ利益を確保するためには——単価を上げるしかない。でも、今の店に値上げを飲んでもらえる理由がない」
「……続けな」
「だから——他の店にないものを作る。吟遊詩人を呼ぶ。あの人たちが来る店には、情報を求める商人が来る」
「……吟遊詩人が、毎晩来るわけじゃないだろ」
「そうです。でも——商人が集まれば、吟遊詩人がいない夜でも商人同士で話が動く。そういう場所には、また商人が来る。そういう客は、金払いがいい」
イルゼは少し黙っていた。「その吟遊詩人とやらが、来るか」
「一人、すでに話しました」
イルゼは少し間を置いた。「……筋は通っている」
「問題は、その仕組みを作るのにどれくらいの期間かかるか、だな」
「動き出せれば——半年で形にできます」
イルゼは黙って、目を閉じた。しばらく、何も言わなかった。
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「一つ——聞いていいですか」
イルゼが静かに待った。
「……あなたも昔、こちら側でしたか」
静かになった。
イルゼは何も言わなかった。でも——ゆっくりと、目を開けた。
「答えなくていいです。でも——」
間を置いた。
「フィナのような子が、この先もここにい続けることになる。それでいいと思いますか」
長い間があった。
棚の端の布の人形を、イルゼが一瞬だけ見た。
「……あんたは、ずいぶん踏み込んでくるね」
「はい」
もう一度、目を閉じた。何かを整理しているようだった。
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長い間が、あった。
やがて、目を開けた。こちらを、まっすぐ見た。
「……やってみよう」
「……一緒に、ということですか」
「あたしが動かなければ、この店は変わらない。それくらいはわかってる」
イルゼは立ち上がって、棚の方へ歩いた。「明日、もう一度来な。今度は——あたしも話す」
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廊下に出た。扉が閉まった。
フィナが壁に背をもたせて立っていた。こちらを見ていた。
何も言わなかった。でも——顔を見れば、わかった。
「……やってみよう、って言ってくれた。イルゼが、やってみようって」
フィナの耳が、ぴんと前を向いた。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
熱いものが来た。あのときの誓いとは、違う種類の熱さだった。あのときより、遠くまで来た。そして今度は——一人じゃない。
廊下が、少し明るくなった気がした。
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> "Marketing is not the art of finding clever ways to dispose of what you make. It is the art of creating genuine customer value."
> 「マーケティングとは、作ったものを売りさばく術ではない。真の顧客価値を創造する術だ。」
> ――フィリップ・コトラー




