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傾いた樽と真珠 ~転生先は酒場兼娼館だった。武器は、前世の知識だけ~  作者: 華雪β
第4章 壁と突破口

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第19話 最後の一手

三度目だった。


一度目は言葉だけで行った。二度目は数字を持っていった——でも、構造が噛み合っていなかった。


今回は、違うものを持っていく。


(それは賭けだ)


扉の前に立った。一呼吸置いた。


---


「前回——利益が落ちていると言ってもらいました」


「そうだよ」


「正しかった」


イルゼが少し顔を上げた。


「上の部屋への依存を減らし、なおかつ利益を確保するためには——単価を上げるしかない。でも、今の店に値上げを飲んでもらえる理由がない」


「……続けな」


「だから——他の店にないものを作る。吟遊詩人を呼ぶ。あの人たちが来る店には、情報を求める商人が来る」


「……吟遊詩人が、毎晩来るわけじゃないだろ」


「そうです。でも——商人が集まれば、吟遊詩人がいない夜でも商人同士で話が動く。そういう場所には、また商人が来る。そういう客は、金払いがいい」


イルゼは少し黙っていた。「その吟遊詩人とやらが、来るか」


「一人、すでに話しました」


イルゼは少し間を置いた。「……筋は通っている」


「問題は、その仕組みを作るのにどれくらいの期間かかるか、だな」


「動き出せれば——半年で形にできます」


イルゼは黙って、目を閉じた。しばらく、何も言わなかった。


---


「一つ——聞いていいですか」


イルゼが静かに待った。


「……あなたも昔、こちら側でしたか」


静かになった。


イルゼは何も言わなかった。でも——ゆっくりと、目を開けた。


「答えなくていいです。でも——」


間を置いた。


「フィナのような子が、この先もここにい続けることになる。それでいいと思いますか」


長い間があった。


棚の端の布の人形を、イルゼが一瞬だけ見た。


「……あんたは、ずいぶん踏み込んでくるね」


「はい」


もう一度、目を閉じた。何かを整理しているようだった。


---


長い間が、あった。


やがて、目を開けた。こちらを、まっすぐ見た。


「……やってみよう」


「……一緒に、ということですか」


「あたしが動かなければ、この店は変わらない。それくらいはわかってる」


イルゼは立ち上がって、棚の方へ歩いた。「明日、もう一度来な。今度は——あたしも話す」


---


廊下に出た。扉が閉まった。


フィナが壁に背をもたせて立っていた。こちらを見ていた。


何も言わなかった。でも——顔を見れば、わかった。


「……やってみよう、って言ってくれた。イルゼが、やってみようって」


フィナの耳が、ぴんと前を向いた。


しばらく、二人とも何も言わなかった。


熱いものが来た。あのときの誓いとは、違う種類の熱さだった。あのときより、遠くまで来た。そして今度は——一人じゃない。


廊下が、少し明るくなった気がした。


---


> "Marketing is not the art of finding clever ways to dispose of what you make. It is the art of creating genuine customer value."

> 「マーケティングとは、作ったものを売りさばく術ではない。真の顧客価値を創造する術だ。」

> ――フィリップ・コトラー


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