第18話 カミングアウト
片付けが終わりかけたとき、フィナが来た。
「……今日、この後、時間ありますか」
「あるよ」
「部屋に来てもらえますか」
フィナから呼ばれたのは、はじめてだった。
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フィナの部屋は隣だ。扉を開けると、蝋燭が一本、窓の傍に立っていた。
フィナが先に入って、床に座った。こちらも、向かいに座った。
しばらく、何も言わなかった。フィナが何かを言おうとして——整えているのがわかった。
(この子が——最近、何かを言いかけて止めている)
気づいていた。
「……一つ、聞いてもいいですか」
「どうぞ」
フィナは少し間を置いた。
「なぜ——こんなことが思いつくんですか」
「こんなこと、というのは」
「評判を設計するとか、客層を変えるとか」フィナは膝の上で手を組んだ。「貴族のご出身だから——とか、そういうことなのかもしれないけれど。でも、そういう話じゃない気がして」
静かだった。
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一瞬、迷った。
あの日——フィナは隣で、全部聴いていた。吟遊詩人との話も、帰り道も。
「元貴族」という説明は、ずっと使ってきた。でも——フィナには、もう通じない気がした。そのうえで、この子は今日、自分から呼んできた。
(この子は、毎晩ここで客の顔を見ている。この店の変化を、一番近くで見ているのも、この子だ)
「……正直に話す」
フィナが顔を上げた。
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「私は——この体の持ち主じゃない」
フィナは何も言わなかった。
「別の世界から、来た。この体に、気づいたら入っていた」
少し間があった。
「……別の世界」
「ええ。時代も、場所も、こことは全然違う世界で。そこで、仕事をしていた」
「……どんな仕事ですか」
「店や商品をどう売るか、どう伝えるか——それを考える仕事を。長い間、それだけをやってきた」
「……それが」
「今やっていることと、繋がっている」
長い沈黙があった。
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フィナは下を向いていた。
しばらくして、ゆっくり顔を上げた。
「……信じます」
「理由を、聞いてもいいですか」
「貴族の方が、こんなことをするはずがないから」フィナは少し笑った。「……私たちに、こんなに真剣に——」
そこで止まった。続きは出てこなかった。
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「……あなたがいた世界には、こういう場所がありましたか。私たちがいるような」
少し考えた。「……あった」
「そこでも——同じことを?」
「違う形で。でも、似たことを」
フィナはしばらく黙っていた。
「……こういう場所は、なくなりましたか」
「……なくなりつつある。長い時間がかかったけれど」
「長い時間」
「ええ」
また静かになった。
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「……『会社員』とは、どういうものですか」
止まった。
「……以前、そういう言葉が出ていたことがあって」フィナは少し恥ずかしそうにした。「聞くつもりはなかったんですが」
(口から出ていたのか)
「……長くなる」
「聞きたいです」
その夜、少し長く、話した。
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翌朝。
フィナが来た。
いつもより少し——足が速かった。




