表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾いた樽と真珠 ~転生先は酒場兼娼館だった。武器は、前世の知識だけ~  作者: 華雪β
第4章 壁と突破口

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

第16話 売上と利益

イルゼの部屋へ向かう前に、頭の中で並べた。


自分の指名数。フィナとの合計、数週間分の累計。評判を聞いて来た客の数。他の女中たちとの比較。


(前回は手ぶらだった。今回は違う)


でも——これで十分かどうか、わからなかった。イルゼが動くのに「どれだけ」が要るのか、まだわかっていない。だから——出してみるしかない。足りなければ、もっと積むしかない。


---


イルゼの部屋は、前と変わらなかった。几帳面に積まれた書き付け。使い込まれた椅子。蝋燭が机の端に立っていた。


「数字を持ってきました」


イルゼは黙って、こちらを見た。


話した。指名数の推移、数週間分。フィナと二人の合計で、他の女中の一番多い者を上回っていること。評判を聞いて来た客の累計。


「それと——」


フィナが気づいたことを話した。最初から名前を出して来た客は、帰り際に席を立つのが一番遅い。


「数字ではありません。でも、そういう客が増えています」


イルゼは何も言わなかった。書き付けに目を落としていた。


しばらく間があった。


「……なるほどね」


イルゼが考え込んでいた。


(通じた——のか)


イルゼが、重々しく口を開いた。


「たしかに、客足は伸びた。売上も上がった。つけている書き付けにも、数字で出ている」


(——通じている。よし)


イルゼが続けた。


「——でも、利益は下がっている」


止まった。


「……どういうことですか」


「あんたが呼んでいる客は、酒だけで帰る。上の部屋を使わない」イルゼは書き付けに目を落とした。「客が増えても、その客が上の部屋を使わなければ——売上が上がっても、利益は薄くなる。わかる?」


わかった。——わかりすぎた。


「あんたの客層は、この店の一番稼げる部分を使わない。それが、今起きていることだ」


「……でも」


イルゼが目を上げた。「なんだい」


言葉が出なかった。


「……いえ。何もありません」


間があった。


「……よくやったとは思うよ」イルゼは書き付けに目を戻した。「でも、現実を見ないとな」


「……はい」


---


廊下に出た。


頭の中で、分解した。


売上が上がっている。これは本当だ。評判で来た客が増えた。良い客が続けて来るようになった。——でも、その客たちは酒だけで帰る。


上の部屋の稼ぎが、この店の利幅の軸だ。酒や食事には仕入れがかかる。売上が上がっても、利幅は一定の範囲に収まる。でも——上の部屋を使う客には、原価がほぼない。受け取った分が、そのまま稼ぎになる構造だ。その部分が、空いている。


良い客を呼べば呼ぶほど——上の部屋は使われなくなる。売上は伸びても、利幅は下がっていく。


(構造が、逆に働いている)


一人で、棄却していった。


単価を上げれば?——根拠がない。今の客層に値上げを飲んでもらえる理由がない。離れる客のことを考えれば、イルゼにとって大きなリスクになる。売上を大きく増やせる「何か」がない限り、イルゼは首を縦に振ることはないだろう。


旅の客を、上の部屋まで使う客にすれば?——それは、今の仕組みをそのまま続けることだ。上の部屋に客を送り続ける構造は、何も変わらない。フィナに安全な場所を作ることにならない。本末転倒だ。


(詰んでいる)


正しいことをやっている——つもりだ。でも——正しいことが、店の構造と噛み合っていない。


壁に手をついた。石が冷たかった。


詰んでいる、ように見える。でも——詰んでいると思ったとき、まだ一手があるはずだ。


(息が苦しい)


猛烈に、外の空気が吸いたくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ