表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾いた樽と真珠 ~転生先は酒場兼娼館だった。武器は、前世の知識だけ~  作者: 華雪β
第4章 壁と突破口

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/31

第15話 数字を設計する

目標は決まっていた。


来た客が、誰を目当てに来たか——その数で並べたとき、上にいること。


ぬいぐるみたちの間に座って、考えた。


(どうやって「上にいること」を示すか)


自分の指名数が要る。でも——それだけでは足りない。他の女中たちと比べたとき、上にいることを見せなければ、証拠にならない。


イルゼのことを思った。几帳面に積まれた書き付け。「もっと見せてみな」という言葉の、あの静けさ。この種の人間は、数字を見せなければ動かない。「増えた」では足りない。「他より上にいる」という形にしなければ——それが、証拠になる。


自分の数字を積むこと。そして——他との比較が見える形にすること。


どちらも、まだない。


---


翌朝、仕込みの途中でフィナに話しかけた。


「一つ、お願いがある」


フィナが顔を上げた。


「お客さまが誰を目当てに来たか——わかる?」


フィナは少し考えた。「……わかります。指名の仕方が違うんです。最初からお名前を出す方と、席に着いてから選ぶ方と」


止まった。


(この子は、もう分けて見ていた)


「これからしばらく——誰が誰を目当てに来たか、覚えておいてほしい。私だけじゃなく——皆さんの分も。できる?」


「……やってみます」


それだけ言って、フィナは仕込みに戻った。でも——少し、背筋が伸びた気がした。


---


一週間が経った。


フィナが、少し早足で来た。「今日——最初からお名前を出してくださった方が、一人いました」


「……昨日は?」


「……ゼロでした」


「……ありがとう」


小さかった。でも——はじめての変化だった。


---


動き方は変えなかった。変えたのは細かいところだけだった。


旅の商人が帰る夜には一言添えた。客の席を立つタイミングを見て、声をかける間を測った。うまくいく夜と、そうでない夜があった。


ある夜、帰り際の客に一言添えた。「また来てください」——そこまでは良かった。続けた言葉が、一言多かった。客の顔が少し固まった。厄介なことを頼まれた、という顔だった。


部屋に戻ってから、繰り返した。何が違ったかを。


次の夜は、短くした。


「……また来ます」


そう言って帰った客がいた。


手応えのある夜と、そうでない夜を繰り返した。


数週間が経った頃。片付けが終わりかけた夜、フィナが来た。前より少し、足が速かった。


(この子も、積んでいる)


「今日は三人、最初からお名前を出してくださいました。私は二人です」


「——他の皆さんは?」


フィナは少し考えた。「……一番多い方で、二人です。あとは一人かゼロです」


止まった。


(上にいる)


「……それと——」


フィナが少し止まった。


「それと?」


「最初からお名前を出してくださった方は——帰り際に、席を立つのが一番遅いです」


止まった。


(来たくて来ている客は、帰りたくない)


数えていなかった。数えようとすら、思っていなかった。フィナが見えていて——俺には見えていなかったことが、そこにあった。


「……よく気がついたね」


フィナは少し首をかしげた。耳が、ほんの少し揺れた。「気になっていたので」


---


持っていける数字が、できてきた。


指名数。評判で来た客の累計。そして——帰り際の時間。数字ではない。でも、数字より雄弁かもしれなかった。


(これを持って、イルゼのところへ行く)


前回は手ぶらだった。今回は違う。


部屋に戻った。ぬいぐるみたちが、いつも通りに並んでいた。


次は——見せる番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ