第15話 数字を設計する
目標は決まっていた。
来た客が、誰を目当てに来たか——その数で並べたとき、上にいること。
ぬいぐるみたちの間に座って、考えた。
(どうやって「上にいること」を示すか)
自分の指名数が要る。でも——それだけでは足りない。他の女中たちと比べたとき、上にいることを見せなければ、証拠にならない。
イルゼのことを思った。几帳面に積まれた書き付け。「もっと見せてみな」という言葉の、あの静けさ。この種の人間は、数字を見せなければ動かない。「増えた」では足りない。「他より上にいる」という形にしなければ——それが、証拠になる。
自分の数字を積むこと。そして——他との比較が見える形にすること。
どちらも、まだない。
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翌朝、仕込みの途中でフィナに話しかけた。
「一つ、お願いがある」
フィナが顔を上げた。
「お客さまが誰を目当てに来たか——わかる?」
フィナは少し考えた。「……わかります。指名の仕方が違うんです。最初からお名前を出す方と、席に着いてから選ぶ方と」
止まった。
(この子は、もう分けて見ていた)
「これからしばらく——誰が誰を目当てに来たか、覚えておいてほしい。私だけじゃなく——皆さんの分も。できる?」
「……やってみます」
それだけ言って、フィナは仕込みに戻った。でも——少し、背筋が伸びた気がした。
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一週間が経った。
フィナが、少し早足で来た。「今日——最初からお名前を出してくださった方が、一人いました」
「……昨日は?」
「……ゼロでした」
「……ありがとう」
小さかった。でも——はじめての変化だった。
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動き方は変えなかった。変えたのは細かいところだけだった。
旅の商人が帰る夜には一言添えた。客の席を立つタイミングを見て、声をかける間を測った。うまくいく夜と、そうでない夜があった。
ある夜、帰り際の客に一言添えた。「また来てください」——そこまでは良かった。続けた言葉が、一言多かった。客の顔が少し固まった。厄介なことを頼まれた、という顔だった。
部屋に戻ってから、繰り返した。何が違ったかを。
次の夜は、短くした。
「……また来ます」
そう言って帰った客がいた。
手応えのある夜と、そうでない夜を繰り返した。
数週間が経った頃。片付けが終わりかけた夜、フィナが来た。前より少し、足が速かった。
(この子も、積んでいる)
「今日は三人、最初からお名前を出してくださいました。私は二人です」
「——他の皆さんは?」
フィナは少し考えた。「……一番多い方で、二人です。あとは一人かゼロです」
止まった。
(上にいる)
「……それと——」
フィナが少し止まった。
「それと?」
「最初からお名前を出してくださった方は——帰り際に、席を立つのが一番遅いです」
止まった。
(来たくて来ている客は、帰りたくない)
数えていなかった。数えようとすら、思っていなかった。フィナが見えていて——俺には見えていなかったことが、そこにあった。
「……よく気がついたね」
フィナは少し首をかしげた。耳が、ほんの少し揺れた。「気になっていたので」
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持っていける数字が、できてきた。
指名数。評判で来た客の累計。そして——帰り際の時間。数字ではない。でも、数字より雄弁かもしれなかった。
(これを持って、イルゼのところへ行く)
前回は手ぶらだった。今回は違う。
部屋に戻った。ぬいぐるみたちが、いつも通りに並んでいた。
次は——見せる番だ。




