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追放者アッシュの始末録 ~最強の執行官、最低ランクの冒険者に扮して闇を狩る~  作者: りさき


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第9話 標的との接触

 ギルドを後にしたオレは《信号》を受け取る。

 冒険者カードに内蔵されている地図を起動し、信号の位置と照らし合わせた。

 オレが向かった先は寂れた商店街の一角。武器屋の前あたりだ。

 《信号》通り、すでに人だかりができている。


「こんなのは間違ってる‼」


 すべての会話は聞き取れないが、何かの間違いを指摘しているようだ。

 人混みをかき分け、その最前線へ到着する。


 もめているのは、ある冒険者パーティーらしい。

 男4と女3の中規模パーティーか。1対6の構図になっているのは明らかだ。


「何が間違いだと言うんだ、カーネル」


 男のひとりが仁王立ちで問いただす。

 間違いを指摘した男が、カーネル=ロックウェルか。


「リーナをダンジョンに置いてきた事に決まってるだろ! なんで一緒に連れてこなかったんだ⁉」

「サポートで加入したお前にはわかるまい」

「君たちの間にどんな事情があったのかは知らない。でも……あんな小さな女の子を、ましてやお母さんの病気の治療代を稼ぐために頑張っている子を見捨てるなんて……お母さんの写真が入ったペンダントをいつも大事そうに持ってるのも知ってるだろ⁉ どうかしてる‼」


 カーネルは今にも飛びかかりかねない勢いで男の前に踏み込む。

 断片的ではあるが、背景は見えてきたな。


 このパーティーは先ほどまでダンジョン攻略に挑んでいた。しかし何かしらの不測の事態が発生。命を守るためにとった選択が、リーナという少女を生贄にする事だった。

 そしてカーネルは、その選択を叱責しっせきしている――そんな状況だろう。


 ブランドンから聞いた事前情報との乖離かいりに、オレは思考を組み替えていく。


「どうかしているのはお前だカーネル。リーナは盗人ぬすっとだ。お前の知る由もないことだが、彼女は俺たちの懐から幾度となく装備や金品を盗んでは闇市に横流ししているんだ。リーナが幼いのも母の病気の治療代を稼いでいることも事実だ。だがそれは悪事を許す理由にはならない」

「だからって……だからって命を奪う必要はなかったはずだ! つぐなうべき罪はしかるべき方法によって償わせればいい、それだけの話じゃないか!」


 一歩も引かないカーネルに、今度は女のひとりが追撃する。


「それにねぇ、リーナったらいろ~んなパーティーのオトコに声かけてるのよ? なぜだかわかる?」

「……、」

「自分がいつパーティーから追い出されてもいいように、常に寄生先をストックしてるからよぉ。あの子はわたしたち『正義の天秤てんびん』のビジョンに賛同して加入した訳じゃないの。あくまでお金を稼ぎやすいラクな働き口のひとつくらいにしか考えてなかったのよぉ。能力もないからランクも低い。かと言ってパーティーに貢献しようとガンバるわけでもない。わたしたちもウンザリしちゃうわよ~わかるでしょぉ?」


「……! はじめから……はじめから置き去りにするつもりでダンジョン攻略に挑んだのか⁉」

「でなければ帰還魔法の使い手を3人も同行させたりはしない」


 完全に仕組まれたうえでのリーナ置き去り、という訳か。

 冒険者同士の紛争は基本的に禁止されているとはいえ、まともに機能しているルールではないな。

 反論する言葉がでてこないカーネルは奥歯を噛みしめる。辛うじて声を振り絞る。


「冒険者の仲間殺しは禁じられている……罪悪感はないのか」


 男は顔をしかめる。


「仲間殺しだと? 買いかぶるな。俺たちが天秤にかけたのは『一人の盗人の命』と『潔白けっぱくな冒険者たちの未来』だ。リーナは我々の資産を盗み、信頼を裏切った時点で仲間という枠組みから自ら踏み出したのだ。俺たちはリーナの支援をやめた。だから彼女は本来いるべき過酷な現実を見なければなくなった。ただそれだけのことだろう」


 カーネルが男に掴みかかる。野次馬から悲鳴があがる。それでも男は冷徹れいてつに言い切った。


「それにな……リーナの死は彼女の能力不足が原因だ。要するに自業自得じごうじとくなんだよ。もし彼女に力があればダンジョンの最奥だろうがドラゴンの巣窟そうくつだろうが自らの足で帰ってくる。冒険者に必要なのは人情でも優しさでもない。力だ。ランクだ。違うか?」

「クソ野郎」


 カーネルは男を突き飛ばして距離を取る。生まれた時間で腰に吊り下がる剣のつかに手をかける。


「……俺たちとやる気か、Eランク」


 一触即発いっしょくそくはつ。カーネルに敵対する6名が各々戦闘準備に入った。

 野次馬たちは巻き込まれまいと蜘蛛くもの子を散らしていく。


「リーナを迎えに行くぞ」

「行きたければ勝手に行け。俺たちを巻き込むな」

「これはぼくたちで挑んだ依頼だ。責任は全員にある。もう一度言う。ぼくと一緒にリーナを迎えに行くんだ」


 柄を握るカーネルの手が力んでいく。


「何度も言わせるな。彼女はもう仲間じゃないんだ。助けに行く理由がない」


 カーネルが剣を抜く。ものの十秒もなかっただろう。帰還魔法用に雇われた男女3人の杖がすっぱりと切り落とされた。


「……次は武器じゃ済まさない。最後だ。ぼくと一緒に行くんだ。この剣を血で染めたくない」


 オレはブランドンの言葉を思い出していた。

 Eランクながら、その剣術の才は他の追随を許さない。

 つまり、もしカーネルの言葉が本気だとしたら、想定される未来は必然――オレにとって不都合なものになるだろう。


「三流の脅しだな。何でも答えてやる。リーナの元へ向かうつもりはない」


 カーネルの足が地面を蹴りあげた。

 黙って見届けるつもりだったが仕方がない。


 カーネルの振り抜く一閃いっせんは、確実に男の首を捉えていた。

 剣術の天才の一手には男たちも後手に回るしかなく、反撃に転じることができないでいる。


 魔法を打とうにも的が早すぎて狙えない。

 接近しようものなら絶命のリスクを最大限受け入れる必要がある。

 反撃という選択肢をことごとく奪ってしまうカーネルの剣技。勝敗が決しようとしていた。


「……ッ‼」


 回避のタイミングがずれたのか、剣の軌道上に男の首が残ってしまう。

 カーネルの瞳に同情の色はない。彼は迷うことなくその剣を振り抜くだろう。


「リーナが失うものを君たちも失え――――‼」


 男の顔に諦めが滲んだその瞬間、カーネルの剣が停止した。


「……?」


 いや、正確にはオレが停止させた。


「もういいだろう」


 オレの言葉にカーネルの眉間にしわが刻まれる。

 というよりも、自分の剣技が封じられたことに対する驚きと不快感からだろうな。


「……どこの誰だか知らないがジャマしないでもらえないか」

「そういうわけにはいかない。オレにはオレの事情があるんだ」

「ぼくの剣をさえぎっていい理由にはなっていないね」


 カーネルの剣にさらに力が込められていくことを指先で感じ取る。

 するとバックステップで距離をあけ剣を構え直す。


「ぼくの剣を指先で止めるなんて、君ただものじゃないね。誰だい?」

「そんなことはどうでもいい。だが、おまえにはやるべきことがあるんじゃないのか」

「やるべきこと?」

「ダンジョンの中に置き去りにされたやつを助けに行かなくていいのか。少なくとも自分の正義感を油のように売るよりもはるかに優先すべきことだとオレは思う」


 カーネルは頭が冷えたのか、ハッとして剣を降ろす。それでも納得できないのか口を尖らせている。


「でも……ぼくは彼らを許すつもりはない」

「だが行けるのはおまえしかいない。こいつらが自発的に動く事は期待できないし、オレもリーナというヤツの顔を知らない。おまえの目的はなんだ。制裁を加える事か?」


 ここまで言えばわかっただろう。

 カーネルは一呼吸おいて、剣をさやに納める。


「……ありがとう。このお礼はまた後日に」

「ここはオレに任せてくれ」


 強く頷くと、カーネルは身を翻して走っていった。危機一髪だったな。

 オレはオレで残った問題を片づけるとしよう。


「おい、そこのお前」


 振り返ると、『正義の天秤』たちが戦闘態勢を維持していた。相当ご立腹なのは真っ赤になった顔を見ればわかる。


「お前が誰だかは知らんが、よくもジャマをしてくれたな」

「アイツの尻拭しりぬぐいを引き受けただけだ。戦う事に変わりはない」

「そういう問題じゃない‼」


 武器屋の立て看板を蹴り倒す男。この反応、間違いないな。

 オレは男の瞳を貫くように見つめる。


「そんなにカーネルを殺したかったのか?」

「……なんだと?」


 空気が一瞬にして張り詰めた。警戒心を隠そうともしていない。


「戦う相手がオレではなくカーネルでなければならないんだろう? おまえたちが困るからだ」

「ハッ、何を言っているのかサッパリわからんな。俺たちは挑まれた戦いに応じただけ。カーネルを殺すつもりなど微塵もない」


 この手で葬ったレントの顔が浮かぶ。


「いくつ筋書きを描いていたんだ?」

「なんの話だ」

「カーネルを殺した理由を説明するための筋書きだ。リーナを殺した犯人を咎める、リーナを置き去りにした罪を着せる、リーナを助けられなかった事に激昂げっこうされたから正当防衛した……他にも7つほど考えられるが、おまえたちの目的はカーネル殺害なんだろう?」


 リーナは『正義の天秤』で犠牲を強いられただけの駒にすぎない。ちょうど今日、オレが追放させたレントと同じだ。


「面白い妄想だな。なぜ俺たちがカーネルを手にかける必要がある? サポートとはいえ、貴重な戦力である事に変わりはない。自らパーティーの総力をる意味はどこにもない。違うか?」

「違わない。が、オレの頭の中では既に結論が出ている」


 つばを飲み込む音が聞こえた気がした。

 男たちがじわりと距離を詰めてくる。オレが気づいている事に勘づかれたとみていいだろう。

 血走った目がオレを捉えて離さない。


「お前……お前はなんなんだ‼」

「ただの冒険者だ。カードも今日もらったばかりでな」


 嘘じゃないことを証明するためにポケットからカードを取り出して掲げる。

 その間にも男はオレに飛びかかってきていた。後方では魔法の発動準備も済ませている。


「やらなくちゃいけない仕事が増えたな」



 ――――追放されるべきはカーネルじゃない。

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