第31話 ミラとの会合
ベルベティーの救出を完了させ、オルテンシアたちと合流を終えたオレは、野暮用を済ませて一足先にグレイシャル支部に向かわせてもらう事になった。
『後処理はこちらで対応しておきますから。アッシュくんは行ってください』
……オルテンシアには世話になりっぱなしだな。この後にやる事があるとも特に伝えていなかったのだが、心を読まれているのかもしれない。
理事会の手下の話によれば、支部にも刺客が向かっているとの事だ。場合によってはミラとの話も明日以降にしなくてはならないかもな。
ギルドに入る。ロビーに冒険者たちの姿はない。
争った形跡を探してみるが、これといって取り上げるものも見つからない。刺客は来ていないのか、あるいは来たが穏便に済ませられたのか。
「……グレイさん、戻られたんですね」
あちこち見回していると、受付カウンターの奥からミラが姿を現す。
「冒険者が誰もいないなんて珍しいな」
「今日は早めに閉館したんです。ブランドンさんの事もありましたし、わたしもわたしでやる事があるのでちょうどよかったです」
ちらりとこちらを見上げる瞳に感情は乗っていない。一度は断ったオレからの仕事をやるしかなくなってしまった事への不愉快もあるだろう。
「頼まれた調査は済ましておきました。早速お話しても?」
「ああ。その前に一つだけ確認したい。オレが戻ってくるまで、ブランドンを訪ねてきた人物はいなかったか」
その話題を聞いてミラが口に手を添える。
「いらっしゃいましたよ。ギルド統括理事会から派遣されてきたって方が七名ほど」
「要件は?」
「ギルドマスターが倒れた時の状況を詳しく知りたい、っておっしゃってましたね。ギルドマスター室にご案内してから十分ほどで出ていかれました。また明日もヒアリングにいらっしゃるそうですよ。それがどうかしましたか?」
「いや、なんでもない。純粋に気になっただけだ。念のため、理事会以外の人間は部屋に入れさせないようにした方がいいだろうな。頼めるか」
むやみやたらに理事会の裏の顔について話すのはやめたほうがいいだろう。たとえ受付嬢であろうとも、秘密を知られたとなれば血相を変えて対応するはずだ。
オレはポケットに折り畳んでいる封書を思い出す。わずかな時間でギルドを後にしたのも、これが執務室に置いていないと判断したためか。
「場所を変えようか」
食堂の一画。窓際の席でオレはミラと向かい合う。
光源が窓から射し込む月光だけというのもあり、まさに密談という感じの雰囲気だ。
「まずこちらがグレイさんからご依頼のあった六名の情報です」
手際よく紙が並べられている。名前、年齢、住所、職業、使用魔法、魔力の構成要素、受注案件数、達成案件数、最新の受注年月日、遺体回収記録――そういった情報が事細かに羅列されていた。
一通り確認し終える頃、ミラは更に別の紙をオレの前に差し出してくる。
「これは?」
「支部の主力のひとつだったパーティー『鉄血の聖域』のメンバーたちです。グレイさんが来るほんの一週間ほど前までは本当に活躍されていたんですが、大きな仕事で亡くなられてしまいました」
経緯はブランドンから聞かされている。北の森に現れた大魔獣討伐に失敗し、その時だけ参加していたカーネルのみが生還した、という話だった。だが今となればあの説明が嘘である事は明白だ。
しかし重要なのは説明が嘘だった事ではない。
「ミラ、『鉄血の聖域』の情報まで用意した意図は」
「……ここを見てください」
ミラが並べられた紙面のある一か所を指で示す。
「消息がわからなくなっている六名、それから『鉄血の聖域』のメンバー。ともに遺体が回収されていないんです」
「行方不明になっているんだから当然じゃないのか」
ミラはふるふると首を横に振る。
「冒険者ギルドを統括する理事会は大変な情報網、それから機動力を持っています。特にご遺体の回収については、半官半民の組織として特に注力している事項です。事実、今まで依頼で亡くなられた方のご遺体はすべて発見され埋葬されているんですよ。消息不明の六名に関しては本当に見つかっていないのかもしれません。ですが『鉄血の聖域』に関しては明らかに不自然です」
もしブランドンがオレにした話を彼女にもしているのであれば、おそらくこう聞いているはずだ。
『『鉄血の聖域』は北の森に現れた大魔獣の掃討作戦に挑むも全滅。最前線で剣を振っていたはずのカーネルを除いた最精鋭たちが死んだんだ』
全滅。つまり死んだ事が確認されていなければ決して使われない表現だ。死んでいるとわかっているのに遺体が回収されていない。ミラはそこを違和感として受け取ったようだ。
「もう一つ気になる事があって」
いつの間にか彼女の声は真剣そのものだった。やると決めた仕事への忠誠心の深さがうかがえる。引き入れて正解だったな。
「消息不明者六名と『鉄血の聖域』が過去に引き受けた依頼をすべて洗い出してみたんです。そしたら――」
そこで言い淀むミラ。胸に当てられた小さな手がぎゅっと握られている。
「――そしたら、ある共通点を見つけてしまったんです……」
「どんな共通点なんだ」
しかし、オレの問いに答えたのはミラではなかった。
「失踪直前の依頼でガルムナートと共闘してる、って事でしょ?」
声のする方をオレたちが振り返るのは同時だった。
照明が落とされ薄暗くなったギルドに足音を木霊させるのは他でもないミミロースである。
すると近くでイスが倒れる音がした。ミラが立ち上がった反動で倒れたようだ。
「ミミさん、なんですか……? どうして……? なんで生きて……?」
「久しぶりだね、ミラちゃん。っつってもあたしは毎日会ってるつもりだったけど。ま、覆面被ってたらわかんないもんか」
ミラはテーブルから飛び出し、ミミロースに飛びついた。そのまま彼女の胸の下で顔をこすりつけている。
「生きてたんですね、よかったぁ、よかったぁ……!」
「おーよしよし、かわいいねぇ。これだから合法ロリってのは罪だよなぁアッシュ」
「なぜオレに話題を振る」
一番答えにくい類の質問だ。
年の離れたお姉さんにあやされるようにミラは鼻をちーんされ、ハンカチで涙を拭われ、目尻に貯水されていく涙を拭いてもらっている。
「で、でもなんでミミさんが生きているんですか? それにガルムナートさんの事も……」
「とりあえず三人で座って話そうよ。あたしもいいよねアッシュ?」
ミラの懇願する視線が痛い。頷く以外の選択肢は当然オレにはない。




