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追放者アッシュの始末録 ~最強の執行官、最低ランクの冒険者に扮して闇を狩る~  作者: りさき


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第30話 アッシュ無双

 死んでない、よな?

 オレはダリウスの口元に耳を寄せる。呼吸はしているな、問題ない。

 だが虫の息である事も事実。ひとまず《解魔》で彼を圧迫する氷塊を消し飛ばす。


「だ、誰だお前は……!」


 吹き飛ばしたコートの男女が起き上がってくる。当然だが露骨に敵意を向けられているな。両者ともに、すぐにでも魔法を打ち放つ構えだ。というか、もう放たれていた。

 オレの目を潰すように飛来する衝撃波と氷の槍。首をかしげてかわしておく。

 背後で爆散する魔法を見て、2人は何かを感じ取ったのだろう。


「そうか、襲撃者というのはお前の事だな」

「何の話をしているかサッパリわからないな」

「とぼけるな‼」


 男が怒鳴る。怒りと焦燥をないまぜにした震えた声が続く。


「お前が余計な事をしてくれたせいで、俺たちは殺されるんだぞ……!」

「なぜオレのせいになる」

「支部の『コアシステム』は門外不出の結晶知だぞ。理事会がアレをどれだけ重宝ちょうほうしているか……そもそもどうやって支部の場所を割り出した!」

些末さまつな問題だな」


 オルテンシアの存在を匂わせる必要はない。聞かれたからといって答える義理もないからな。


「まぁいい。お前をここで始末すればどうとでもなる話だ。恩赦おんしゃくらいはもらえるだろう」


 始末、か。


「重みがないな。オレが理事会ならおまえたちを手足として使いもしないだろうな」


 女が氷魔法を射出する。その軌道を外し、オレの盲点を突こうと男が接近してくる。

 まずは着実に魔法を無効化。顔面めがけて飛んでくる拳を避け、男の腹に膝蹴りを叩きこむ。

 隙が生まれるも、男はすぐに次の拳を突き出した。同時に足場から飛び出す氷柱。オレは空き缶を踏みつけるように床を蹴って出現を食い止める。かがんだついでに男のみぞおちに肘を叩きこんだ。


「人を脅す時にすぐに血をちらつかせるのは三流がやる事だ」

「うるせぇ! こっちは命かかってんだよ!」

「理事会に手を貸すと決めた時点でわかっていたはずだ。今更被害者面づらをするのは虫がよすぎるんじゃないか」


 瞬間、氷の針山が津波のように迫ってきた。

 大抵の魔法使いであればなすすべなく飲み込まれそうな圧倒的な魔力。彼らに一定の実力があるのは間違いないだろう。ダリウスやシールズがしてやられるのも無理はない。

 どう対処するか悩んでいるうちに、オレは氷山に飲み込まれた。


「や、やったか……」

「反応がないわね……襲撃者を始末できたなら上出来よね……」


 いつまでも、どこまでも保身。理事会の軍門ぐんもんに下っておきながら、理事会のために尽くそうとする意志がない。


「自分の人生の操縦桿そうじゅうかんを他人に握らせているうちは、オレには勝てない」


 氷山を《解魔》で打ち消した。さらさらと散っていく霧氷むひょうの奥で、濃緑のコートたちが驚愕しているのが見える。

 その中でも次の一手を講じてこようとする。そのひたむきさだけは認めてやってもいい。まぁ、そんな事は許さないんだが。

 加速し、2人の懐に飛び込んでいく。男はとっさに防御のポーズを取った。


「悪くない反応だ。だが防御が機能するのは攻撃が防御を上回る時だけだ。覚えておけ」


 渾身こんしんの一撃を防御する腕にそのまま突き出す。

 しまっていたはずの顔面への盾は痛みに割れ、その空間をオレの拳が貫く。鼻頭はなあたまをへし折る音が響いた。

 転がっていく男を終えたら次は女。いくつかの魔法が放たれるが、消すまでもない。それを上回るだけの魔力でねじ伏せるだけ。究極的に、魔法とはシンプルな魔力のぶつけ合いにしかならない。


「このフィールドで戦いたいのであれば、まずはフィールドに立つ事だな」


 《圧壊》。すべてをなぎ倒す魔力の壁。何人なんぴとたりとも阻む事のできない質量を打ち出す。


「なんなのよあなた……ッ‼ いや! いや‼ こないで‼」


 拒絶する女の手から打ち出される数々の魔法をこっぱみじんに吹き飛ばし、オレの魔法が彼女に着弾する。女は壁と魔力の板挟み。追撃の圧迫をかけて解除する。女は床にひれ伏した。


「さて」


 オレはまだ意識の残っている男に振り返る。男は鼻血の止まらない顔に手をあてながら、後ずさりをしている。


「知っている事を話してもらおうか」


 理事会に尽くそうという忠誠心を持たないゆえ、回答は明白だった。頷く以外の選択肢を持たない男の前に立つ。


「理事会はブランドンに指令書を出していたな。なぜカーネルを追放したがっている」

「な、なぜ指令書の事を……!」


 男の脇腹に蹴りを入れる。


「質問にだけ答えればいい。今はオレが質問する時間だ」

「何も知らない! 俺たちは理事会の指示に従うだけなんだ!」


 もう一度蹴りを入れる。


「ほんと、なんだ……何も知らないんだ。無関係なんだ!」

「ここまでの事をしておいて無関係は無理がある。おまえたちが受けた指示は?」

「『ブランドンという男の生体反応が消えた。その男には理事会の重要な秘密を握らせている。その秘密の書類を回収・処分し、情報を知っていると思われる人間を消せ』……これだけだ」


 あくまで理事会はブランドンを切り捨てるつもりのようだ。全国のギルドを統括する組織。暗躍の証拠を残したくないと思えば当然の指示か。


「他に狙われている人物は」

「夫人とメイドのアリア。それからグレイシャル支部にも捜索が入っているはずだ」


 そこでオレの冒険者カードが反応する。

 オルテンシアからの連絡だ。夫人とメイドは既に保護下にある、という暗号がマップ上に示されている。

 これ以上は期待できなさそうだな。オレは引っかかっている事を聞いておく事に決めた。


「おまえはさっき『コアシステム』と言っていたな。あれは何の事だ」

「俺もそこまで詳細に知っているわけじゃないが……それだけは言えない」

「どの道おまえは理事会に狙われる。自分を始末しようとする相手に情が湧いているのか」

「違う、そんな理由じゃない……これが知られれば、多くの人間が不幸になる。俺だってこの国で暮らす人間だ。わざわざ世界を渾沌こんとんに陥れるような真似はしたくない」


 理事会の最重要機密、コアシステム。これが連中の権力基盤を作っている要素であり弱点である事は明白だ。知られれば人間が不幸になる。その実態が何であるか、今のオレには見当のつけようがない。

 だが生憎あいにくと、そういう性質のものを何も知らない訳じゃなかった。他でもないオレがそうだからな。


「間違っていたら忘れてくれ。コアシステムは――――」


 男の顔面が蒼白そうはくになる。口をぱくぱくとさせ、信じられないものでも見るような眼差しを向けてくる。


「その反応で十分だ」


 すべてが繋がった。理事会の思惑おもわくも、ガルムナートがやろうとしている事も。そして――ノエル=レティシアールの現状も。

 オレは手首に巻かれたブレスレットに指先で触れた。


「安心してくれ。誰かに話すつもりもない」


 オレは止まらない鼻血を抑え続ける男に背を向けてダリウスを起こす。


「ど、どうするんだ、これから。俺たちの存在をギルドに報告するのか?」

「投獄が望みならそれでもいい。オレも情報をもらったからな。おまえの意向に沿って動く事を約束しよう」

「あ、ありがとな」


 これは等価交換だ。感謝されるような事は何もしていない。


「ダリウス、起きれるか」


 オレはダリウスの頬をぺちぺち叩く。


「むにゃ……ほえ、オルテン姉さん、俺は胸よりもお尻派なんでせぇ……」

「……、」


 なんて夢を見ているんだ、コイツは。

 オレはシールズを先に起こし、オルテンシアに《信号》を送っておく。

 それから1分も待たず転移魔法陣が出現した。


「シールズ、悪いがダリウスを叩き起こしてくれ」

「え、まじすかおれがやるんすか」


 オレはそれとなくベルベティーを背負う。


「見ての通り、オレは彼女を背負っていて手がふさがっているからな」

「今背負ったじゃないすか‼ 絶対ダリウスさん起こすの面倒くさかっただけっすよね⁉」


 当たり前だ。

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