第28話 ベルベティー救出
娘が留守番をしているブランドン家に乗り込んだ2人の男女はため息をついている。
「リビングから1階、収穫ゼロだ。そっちは?」
「2、3階も全然ダメ。あの風貌でセキュリティ対策めちゃくちゃしてんのね」
見た目は関係ないだろ、と男は苛立ちながら思う。
「ちくしょう、どこに保管してやがる……死ぬ気で探さねぇと」
「可能性があるとしたらグレイシャル支部の執務室かしらね。書斎にも仕事関係の書類はほとんど見当たらなかったし。全部そっちで保管してるとか?」
「いま『上』の連中がグレイシャルに向かってるはずだ。ブランドンの身に何が起きたか現場検証をするみてぇだが……ま、執務室に残ってんなら問題ねぇ」
2人はしんとした室内を見渡している。おそらく彼らの頭に浮かんでいる事は同じだ。
「……むしろヤバいのは支部にも書類が保管されていなかったケースかしらね」
「あるいは誰かが既に持ち出してしまっている、とかな。……そうなったら最悪だぞ」
生唾を飲み込む音がする。
彼らが探している書類が手に入らずとも、当然それは彼らの責任ではない。ブランドンがセキュリティ対策を万全にしていた事。その一点のみが、書類を見つけられない原因だからだ。
しかし、それを懇切丁寧に説明したからといって、『上』が納得するかは別の話。
2人が想像しうる最悪の未来は、この仕事から足を洗わされる事――マイルドに言えばそうだが、意味する所は命を絶たされる事に等しい。『上』の実態をある程度把握できている彼らだからこそ、その未来をなまじ想像できてしまう。
ゆえに男の判断がこう下るのも頷けた。
「念のため、もう一回くまなく探すぞ。念のため《記録》もつけておけ。もしもの場合、俺たちに落ち度がない事を証明する材料はあったほうが良い」
「オーケー。そしたら今度はあたしが一階を、あんたが2階以上をやりましょ。違う視点を入れて盲点を補完しあえば見落としが減るわよ」
「俺は見落としてなどいない」
「それが慢心だって言ってるのよ」
そうと決めたら行動あるのみ。
縛りつけた娘ベルベティーを気にかける素振り一つなく、任務へと足早に戻っていく。
その時、
「誰かいるか?」
玄関口から聞こえてきたノックの音と呼びかける声。
階段を登り始めた男の足がぴたりと止まり、女もまた妙な緊張を肌で感じる。目を合わせ、来訪者を出迎える合意を取り合う。
男は玄関口まで足音を立てないように移動する。あえて返事はせず、ゆっくりと扉を押した。
玄関先に立っていたのは2人の男。ノックをしたと思われる男が片手をあげて「よ」と挨拶をしてきた。
「……驚かせるな」
同じ濃緑のコートを身にまとった2人を見て、男は警戒を解いた。
「悪い悪い。こっちの方が早く片付いたから合流しようと思ってさ」
その返答を聞き、男は眉間にしわを刻む。
「片付いた? 殺したのか?」
「バカ言え、やるわけないだろ。どこまで漏れているかわからない以上、夫人の命を奪ったりはしないさ。拘束して森の中にくくりつけてある」
「それならいい。――そうだ、ちょうどいい。手を貸してくれ」
男は2人の仲間を室内に招き入れながら状況を説明する。
「『上』がブランドンに送っていた指令書や伝書が見つからないんだ。俺たちでくまなく探してはいるんだが、念のためにもう一度探してみる事にした。お前たちも参加してくれ」
「あちゃー、そいつはマズいんじゃないか」
「だから焦ってるんだ。紙切れ探す任務ごときで殺されるなんてまっぴらごめんだからな。1階から頼んでいいか」
「了解。おい、いくぞ」
指示を受けた男たちはリビングへ進んでいく。
話を聞いていた女が彼等をじーっと見つめながら歩いてきた。
「おい、どこ見てるんだ。俺たちも探すぞ。3階からだ」
「んー……ここ来るときあんな感じだったっけ? あの人たち」
「こんな感じとは?」
「いやに素直というか、もっと剣呑な雰囲気振りまいてた気がするんだけど」
「気のせいだろ。現に自分たちの担当が終わったらこっちに駆けつけてくるような連中だ。第一印象ですべてが決まるわけではないからな。急ぐぞ」
「……りょーかーい」
女はどこか納得しきれない部分を残しつつも、階段を登っていく。




