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追放者アッシュの始末録 ~最強の執行官、最低ランクの冒険者に扮して闇を狩る~  作者: りさき


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第23話 ブランドンの妻と娘の救出

 ギルドを出てすぐに《信号》を出し、オレはある場所へと向かった。事細かに説明している時間はないからだ。

 結婚相談所の前に着くと、壁には『本日の営業は終了しました』というボードが掛かっていた。構わず扉をくぐると、締め作業に追われているアドバイザーたちの視線が一斉にオレに集まる。ひとりの女が小走りで駆け寄ってきた。


「申し訳ございません、本日のご相談は既に終了させていただいておりまして」


 向こうもあっという顔をした。彼女はオルテンシアを呼び出す前にオレを担当した女性だったからだ。名前はハワードと言ったか。


「悪いが急用だ。オルテンシアはいるか」


 フロアを見渡したところ、彼女の姿はない。


「おそらく事務所にいるかと思います。呼んでまいりますので、かけてお待ちください」


 きびすを返したハワードはすぐにフロアの奥へと姿を消す――と思ったが、突然そのハイヒールの音がぱたりと消えた。ハワードがおもむろに振り返る。


「……つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「ああ」


 ハワードは目を細めた。


「本当に急用なのでしょうか?」

「どういう意味だ」


 ハイヒールが再び近寄ってくる。


「昨日もあなたがいらっしゃった事は覚えております。オルテンシアに無理やり担当変更の申し出を受けた事もあって気になっていたんです。彼女があんな強引な行動に出たのは初めて見ましたから」


 ハワードが何を言いたいのか、いまいちピンとこないな。


「余程パートナー探しにお困りなのだろう、と勝手に思っておりましたが……不思議とあなたのプロフィールはほとんど情報入力がされていない。わかっているのは条件だけ」


 言葉を区切り、間を取って、ハワードは語気を強めた。


「――あなた、もしかしてオルテンシアとお付き合いをされているのではありませんか?」


 意外な角度からの疑念を持たれたものだな。残念ながらそんな事実は存在しないため、オレは明確に否定しておく。


「オレとオルテンシアは親密な関係じゃない」

「う、噓です! わざわざ職場に訪れたのは彼女に会うためですよね⁉ 今だって急用と言っておきながら報告しておく事があって顔を見せに来たんじゃないですか⁉ それならプロフィールの情報が埋まらないのも納得できます‼」

「具体的になんなんだ、その報告しておく事っていうのは」

「た、たとえば……『今日は帰りが遅くなるから先に帰っておいて♡』とか!」


 わなわなと例を必死に絞りだすハワード。ずいぶんとお花畑な脳内だが、仮にそうだったとしてなんの問題があるのか。


「先輩は私との勝負に必死ですものね」


 オレの疑問を解消するべくオルテンシアが現れた。動かしにくそうな左腕は、今日も純白の包帯に包まれている。


「オ、オルテンシア⁉ どこから聞いていたの⁉」

「最初からですよ先輩。私は自分に客人があればすぐにわかるとあれほどお伝えしているではありませんか。まさか先輩がそこまで『勝負』にご執心しゅうしんなさっていたとは」

「ちが、違うのこれは! 気になっただけで!」

「なんなんだ、その『勝負』っていうのは」


 あわあわしているハワードを傍目はために、オルテンシアは極めて淡々と答えた。


「先輩と私、どちらが先に恋人ができるかを競っているのです。かれこれ二年ほどは続いておりますが、昨日グレイさんが私に会いに来てくださった事にとても衝撃を受けておられました」


 なるほどな。

 それにしても結婚相談アドバイザーにパートナーもいないというのは、ブランディング的に大丈夫なのか……とは口にしない。オルテンシアには見抜かれているだろうが。


「ですが安心してください先輩。グレイさんと私は先輩が想像している関係にはございませんので」

「そ、そうなの? なら良かった……」


 ほっとして胸に手を当てるハワードに、オルテンシアが追撃を叩きこんだ。


「言うなれば、幾度とない夜を超え、苦楽をともにし、同じ目的に向かって手を取り合って精進する関係――そんな具合でしょうか」

「恋人もパートナーもめちゃくちゃ超えてるじゃない⁉⁉⁉ ウソでしょ⁉ ……って事はもちろん夜の方も……?」

「男女が同じ屋根の下で眠るんですよ? 相応の事象は生じるのが自然です」

「ああ、後輩に、後輩に先越されたぁぁぁぁぁああああああああああああッッッ‼」


 物は言いよう、という言葉の深みを痛感する。

 その深みの底知れなさを想像したハワードは精神錯乱状態になり、フロアの奥へと走って行ってしまった。


「少々やりすぎたようですね」

「おまえも意地が悪いな。……腕の調子はどうだ」

「経過良好ですよ。もっとも、お医者様によれば完治は難しいとの事でしたが」


 オレはオルテンシアの包帯に優しく触れる。彼女を救い出した時、もっと早く駆けつける事ができていればこうはなっていなかった。


「アッシュくんが気にむ事はありませんよ。元はといえば私がいた種ですし」

「困った事があればいつでも言ってくれ。最大限力になれるようサポートする」

「ありがとうございます。嬉しいお言葉ですね。本題に入りましょうか」


 オルテンシアが《信号》を送り返してくる。冒険者カードを確認すると、地図上にふたつの◎マークがプロットされていた。


「ブランドン夫人と娘ベルベティーさんの位置情報です」


 オレは封書を取り出し、記載された住所と照らし合わせる。


「娘の方は自宅にいるみたいだな。夫人は外出中みたいだな」

「おそらくお買い物に出ているのかと。夕暮れ時ですし、方角的にも市場の方です」


 リアルタイムで移動する◎を目で追う。


「ギルドマスター夫人ともあろう人物が自分の足で食材調達か。上流階級にいる人間はたいていメイドを雇用して家事を任せきりにするものだと思っていたが」

「そこはご安心いただいて大丈夫ですよ。夫人は界隈かいわいでもウワサになるほどの人格者です。家柄や収入によって振る舞いが変わらない、ありのままの善人ですから」


 ありのままの善人、か。気になる事はあるが、これはオレ自身の目で確かめる他ないだろう。


「オルテンシア、事情は伝えた通りだ。ブランドンの生体反応消滅にともない、夫人と娘が危険に晒される可能性が高い。すぐに動かせる人員は?」

「何人でもご用意いたしますよ。アッシュくんのご要望ですからね」

「六人頼む。ブランドンの家に見張りを三人。帰宅途中の護衛に三人だ」

「承知いたしました」

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