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追放者アッシュの始末録 ~最強の執行官、最低ランクの冒険者に扮して闇を狩る~  作者: りさき


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第21話 ガルムナートの策略

 ふたりから話を聞いたガルムナートは深いため息をつく。


「つまり……カーネルが木こりの家をぶっ壊して、弁償を求めに来たら攻撃された――っつー事か?」

「ちょっと待ってくださいガルムナートさん! ぼくはただ!」


 有無を言わさず吹き飛ばされるカーネルの体。ギルドの壁面に激突し、全身を打撲だぼくした。

 痛みにもだえるカーネルを一瞥いちべつしたガルムナートは静かに告げる。


「俺は事実かどうかだけを聞いてんだ。余計な口開いてんじゃねぇぞ」


 もちろん木こりは便乗する。


「そうやねん。そこの兄ちゃんが俺に暴力を振るってきたんや。こっちは家を壊されて困っとる言うのに。ほんま手に付けられんわ。逆ギレもほどほどにしといてくれんと」

「そうか」


 ガルムナートはギルド内にいた冒険者たちから声を募った。


「今の木こりの話に相違があるか? もしあれば挙手して申告しろ」


 ガルムナートが睨む。その視線にとらわれないよう冒険者たちは目を伏せた。揃いも揃ってだ。


「そ、そんな……」


 信じられないものを見たかのようなカーネルの目。

 当然だ。庇ったはずの冒険者たちから当たり前のように見捨てられているのだからな。絶望に近い感情を持っても不思議じゃない。

 ガルムナートがひと息ついて導いた結論はこうだった。


「カーネル、こういう話はもう何度目になる?」

「……、」

「一週間前にもあったな。『鉄血の聖域』が全滅した大魔獣の討伐依頼。あれもお前の独断専行が招いた結果だったな。そして『正義の天秤』。奴らは悪事に手を染めたとして現在審問中だが、俺はお前がんでいる可能性を捨てちゃいない。極めつけは今回の強盗紛まがいの行動。……グレイシャル支部に所属する冒険者のひとりとして、お前の悪行を見逃すつもりはないぞ」

「ガルムナートさん聞いてください。すべて誤解なんです!」

「追い詰められた人間は常にそう言うよな。誤解だと。何かの間違いだと。だがそんなものは何の意味も持たない。疑われた時点でお前は負けてんだよ。……ギルドマスター」


 いつの間にかブランドンまで姿を現している。

 ガルムナートはブランドンの方を確認しながらある提案をする。


「カーネルをこのまま放っておくのは危険だ。王国に引き渡し、然るべき量刑りょうけいで罪を償ってもらう必要があると俺は思う。支部を代表する戦力として言わせてもらうが、カーネルを放置しておく事は何の利にもならない。どう思う?」


 ボールを渡されたブランドンはワインレッドのジャケットの襟を正して間を置いた。


「……そうだな。これ以上他の冒険者たちの足を引っ張る行為は慎んでもらわなければならん。カーネル、私はお前ほどの戦力を失うのがひどく残念でならないよ」

「ギルドマスター、ぼくの話を聞いてください!」

「聞く分には構わんよ。もっとも、それでお前の行いがなかった事になるわけではないがな」


 完全に万事休す、だな。

 ガルムナートの説明が恣意的しいてきねじじ曲げられているのには、この場にいる冒険者の誰もが気がついている事だろう。しかし反論はできない。声は上げられない。

 彼がギルドの仕事を割り振る役割を担っている以上、異論を唱える事はすなわち冒険者活動の終焉しゅうえんを意味する。他人のために、それも悪評絶えないカーネルをかばって主張するリスクを取る人間は普通ならいない――――。

 当の本人は、しかしただまっすぐとガルムナートを見つめている。

 イレーヌは懇願こんがんする目をオレに向けてきていた。


「グレイさん、いいんですか本当に……」


 背後ではミラが小声で心配の声を漏らす。

 おまえたちに言われなくてもわかっている。なぜならオレはヤツが来るのを待っていたのだから。


「ちょっと待ってくれ」


 ――――普通ならいないが、今ここにはオレがいる。

 一同の注目が一気にオレに降り注いだ。

 オレはカーネルの側に躍り出る。


「またお前かグレイ。言ったよな? 俺に意見をしたいなら力を証明してからだと」


 付き合ってやる義理もないが、ここは素直に済ませた方が穏便おんびんに進むだろう。


「おまえをいつくばらせればいいか」

「クックック。つまんねえ冗談で虚勢を張っても変わんねぇぞ」

「おまえにやる気がないんじゃこの場ではどうしようもないな――」

「わかったらさっさと下が」

「――だから『正義の天秤』の審問がすぐに終わる証拠を持ってきた」


 ガルムナートが一瞬目を細める。周囲の冒険者たちも騒ぎ出した。

 オレは近くにいたイレーヌの頭に手を置き続ける。


「彼女はイレーヌ。奴隷として『正義の天秤』に雇われてガーゴイルが守衛するダンジョンに連れていかれた子だ。なぜこんな小さな子が魔物うごめく危険なダンジョンに行く事になったのか。それはカーネルを事故死させるためのトラップとして利用されたからだ」


 昨日の出来事を事細かに説明する。

 カーネルがリーナを助けに行くとわかっていたうえで、囮となる少女を準備。そのうえで彼女もろともカーネルを殺害しようとしていたという筋書き。


「イレーヌは被害者であり証人だ。彼女の言葉を聞けば『正義の天秤』の悪行は明らかになる」


 すぐに反応したのは他でもないブランドン。


「き、君。今の話は本当なのか⁉」


 イレーヌはオレの後ろに身を隠し、覗き込むように首だけ出して頷く。

 ブランドンと数瞬目が合った。やってくれたな、と怒気をはらんでいるのがわかった。

 立場上、それを顔に出す訳にはいかないブランドンはスイッチを切り替えて、


「なんて事だ……辛い思いをさせたね。もう少し詳しい話を聞かせてもらっていいかな? 私の部屋に来てもらってもいいかい」

「いいやダメだブランドン」


 まさかオレから制止が入るとは思わなかったのだろう。

 逃がす訳がない。彼にはこの場で続きを聞いてもらう必要がある。


「まだ面白い話があるんだ。……ガルムナート、自分の口で言ってみるか」

「何の話をしてるかサッパリわからんな」

「そうか、なら続けよう。このイレーヌという少女は『正義の天秤』に雇われたと言ったな。だがその前に彼女を買い戻した人物がいる――」


 『正義の天秤』に奴隷として死地に送り込まれた少女。その身柄を、身銭みぜにをはたいて買い戻した人物がいるという事実。

 ふたつの事柄を直線的に結び付けて考えてしまうのが人間だろう。


「――おまえだ、ガルムナート」


 冒険者たちから騒めきが消える。その視線はガルムナート本人に降り注がれているように感じた。


「グレイシャル支部の実質的な権力者であるおまえはカーネル殺害を目論もくろんだ。そこで手駒のひとつである『正義の天秤』とたとえ死んだとしても誰も気に留めない奴隷を利用し、パーティーランクに見合わないダンジョン踏破とうはに向かわせた。これは立派な仲間殺し未遂みすいにならないか? ブランドン」

「ひえっ⁉ そ、そうかもしれないな……」


 語尾を濁されたか。

 ブランドンの意識のり処を確認する。やはり仮説は正しそうだな。


「イレーヌに聞けば『正義の天秤』の審問はすぐに終わり、そしてガルムナート。おまえも一緒に投獄だ。少しはオレの力の証明になっているか?」

「クックック……」


 黙って聞いていたガルムナートは髪をかき上げて不敵に笑む。


「グレイ、お前は底抜けのバカだ。そんなクソガキの妄言を誰が信用する? 俺に濡れぎぬを着せるために随分と教え込んだな」

「発言の信頼性に年齢は関係ない」

「今お前が話した事は木こりの家をぶっ壊した件に自分も関与していると自首したようなもんだろ。おまえもカーネルとまとめて罰を受けろ」


 ガルムナートは立ち上がり、状況を楽しむようにギルド内を歩き回る。


「そもそもだ。なぜ俺がカーネル殺害を計画する必要がある? 俺はこんな小物に微塵みじんも興味なんてない。他の連中にしても同じだ。俺ほどの実力になると自分より弱い人間への関心が地の底に落ちちまうんだよ」


 歌うように続ける。


「それにだ。お前は俺が買い戻した奴隷を『正義の天秤』の奴らに斡旋あっせんしたと考えているようだが、そこを結び付ける根拠は何がある? 先に言っとくがクソガキの発言はなしだぜ? 俺に罪を着せるためにいくらでも嘘はつけるからな」


 どうやら言い逃れができると本気で思っているようだ。

 確かにガルムナートの言うように、彼と『正義の天秤』を直接的に結びつける物証はない。考えれば当然だが、そんな事を残していれば言い逃れという手法が使えなくなる。ガルムナートの強気な態度は、あえて残さなかったからこそのものだと取れるな。

 だが、そんなものはどうとでもなる。


「どうだ? あんのか証拠は」

「証拠はない」

「クックック。そうだろう? そうだよなぁ‼ 当たり前だろ、俺と『正義の天秤』の間に繋がりなんてもんはねぇんだか――」

「が、証言ならある」


 ガルムナートの言葉が止まる。いっそうの静けさが場を包む。


「ブランドン。おまえはオレにある案件を依頼しているな。その時になんて言ったか覚えているか」

「! グ、グレイ、お前、今その話は」

「去り際こう言った。『この件は私だけの意向ではない』と。これはおまえ以外にも関係者が存在している事を意味する。一体誰の事を指している」


 答えない。答えられるはずもない。


「『正義の天秤』に吐かせてもいい。連中は今回のカーネル殺害計画を自ら望んで実行していた訳じゃないみたいだしな。脅されて実行したのであれば酌量しゃくりょうの余地はある」

「いや、それはその、私のギルドでは拷問や自白の強要は認めておらずでして……」

「そんなもの必要ない。なんならオレが話してもいい」


 イレーヌの証言だけでは弱くとも、関与を示唆しさする証言が二つ三つと増えていけば話は変わってくる。ガルムナートがどれだけの権力者であっても、疑いの目を向けない訳にはいかなくなる。

 冒険者ギルドが機能しないのであれば王国を頼るだけ。王国が隠蔽いんぺいに走るのであれば他国に協力を要請するだけ。難しい事はなにもない。


「オレから話しておきたい事は以上だ」


 しばしの沈黙。

 その均衡を破ったのは木こりの男だった。


「待て待て待て! わしの家が壊された件はどうな――」


 怒気を孕んだ言葉が最後まで紡がれる事はなかった。いや許されなかった。


「クックック……」


 ばたばたと冒険者たちが気を失って倒れていく。ひとりの男の不気味な笑みだけがギルドに反響している。


「グレイ……くん……逃げ……!」


 側にいたカーネルまでもが意識を飛ばしてしまう。残ったのはオレとガルムナートただ二人だけ。


「驚いたぜグレイ。新参者が俺の計画に勘づくとはな」

「……重力操作系の魔法か」


 ガルムナートの両腕が暗黒の蜃気楼しんきろうをまとっている。体の重心が下に引っ張られる感覚はその効果のせいだろう。


「《重力付与グラビティハンド》。俺が冒険者として最強たる理由さ」

「おまえの計画そのものは知らない。だが状況証拠と証言をつなぎ合わせていけば、カーネル殺害の裏では何者かが糸を引いている事は明らかだ。目的はなんだ」

「素直に喋ると思うか?」


 ボールを投げるように腕がしなる。打ち出される暗黒の奔流ほんりゅうがいびつな軌道を描きながらオレを飲み込んだ。

 体が重い。まるで地面から生えた手がオレの胸倉を掴んで引き寄せようとしているみたいだ。


「クックック……これすらも耐えるのか。お前何者だ?」

「ただの冒険者だ。最低ランクのな」

「悪いが新米には見えねぇな。普通ならそこらの連中みたいに気失って終わりなんだからよ」


 加重していく魔法。

 オレも両足だけでは踏ん張りきれず、片膝を地面につけてしまう。その圧倒的な魔力と洗練された魔法に――オレは素直に感動した。


「なに笑ってやがる」

「膝をつかされたのは何年ぶりだろうと思ってな」

「ハッ、強者の発言は違うね。なにが最低ランクの冒険者だ」

「それは事実だからな。確かめたければオレの冒険者カードでも見ればいい。――――だが」


 《解魔かいま》。

 奥の手のひとつである魔法をオレは唱え、放つ。

 その瞬間、全身を襲っていたおもりのような負荷が一瞬にして消え去った。

 ガルムナートの笑みから余裕だけが切り取られた。


「何をそんなに驚く事がある」


 立ち上がって膝に着いたほこりを払う。


「……初心者が披露できる芸当じゃないな」

「何か勘違いしているようだから言っておこう」


 床を蹴り上げ、加速。彼我ひがの距離を瞬きひとつされる前に詰めて、《圧壊》をまとい握りしめた拳をガルムナートのみぞおちに叩き込む。


「冒険者としては新米だが、魔法使いとしてはそれなりにつちかってきたつもりだ」

「がはッ……⁉」


 後方に吹っ飛んだガルムナートは受け身を取りながら片膝をつく。これでフィフティフィフティだな。


「聞かせてもらおうか。お前の目的を」

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