第19話 ガルムナートの顔
「ガルムナート様っ!」
屈託のない笑みでイレーヌは答えた。意外な人物の名が出てきたため、カーネルは動揺している。
「ガルムナートさんが……君に協力するように言ったのかい?」
「うん! 奴隷商からわたしを買い戻してくれたのもガルムナート様なの。だからとても感謝してるし、わたしに役立てる事があったらやりたいなって思って……」
『正義の天秤』は自分たちでイレーヌを買ったと発言していた。だが買われた本人はガルムナートによって自由を獲得したと主張している。一見すれば矛盾にも思えるこの構造は、実は矛盾でもなんでもない。
「そういう事か。すべてが繋がったな」
「ガルムナートさんが……ぼくの死亡を願っていた、って事だよね……なんで……」
「人には裏の顔がある――――なんて陳腐な理由じゃないのは確かだ」
状況を整理すれば対立構造が見えてくる。ガルムナートがどのような目的を持って動いているかはわからないが、カーネルをギルドから追放したがっているのは確実である。オレはカーネルをじっと見つめた。
「……え? グレイくん、どうしたのそんなにじっと見つめて」
「おまえがガルムナートの恨みを買っている可能性を考えていた。心当たりは?」
「心当たり……っていうほどの事ではないけれど……前に二度、ガルムナートさんのやり方に反論した事はある」
「具体的には」
「……グレイシャル支部では常識になってるんだけど、すべての依頼の割振りやパーティー編成を担っているのがガルムナートさんなんだ。うちで唯一のBランクだから実力ももちろんすごいから、彼の采配に任せておけばみんな良い思いができると信じて任せている」
なるほどな。掲示板に依頼が残りすぎている理由が見えてきた。
「基本的には不満はないよ。だけど……たまに『え? なんでぼくがこの依頼を?』みたいな采配をする事もある。これは逆も同じで、『あの子たちにその依頼は早いんじゃない?』って事もね」
「今朝おまえがパーティー参加を止められていたのは」
カーネルが頷く。
「パーティーを組んでいない人員の配置もガルムナートさんが担っているからね。勝手な行動だと捉えられたからこそぼくは吹っ飛ばされたわけなんだけど……そのやり方に違和感を覚えた時には何度も意見してきたかな。でもこれだけで恨まれるかな?」
「ガルムナート様はそんな事で怒りはしないよっ!」
イレーヌがカーネルの頭頂部をぽこぽこ叩く。よほど器の小さい人間であればそういう事もあるだろうが、ガルムナートの場合は異なるだろう。
「可能性としては低いな。あの男が主張されたくらいでおまえに死んでほしいと思うはずがない。もしそうであれば、今日意見したオレすらもターゲットに設定されるはずだ」
「でもじゃあ、なんでだろう」
考えて導けるタイプの問いではないため、オレは口を閉ざした。ガルムナートか。どうやらカーネル追放に関わる情報は、ヤツの目的を探って見つけるしかないようだ。
「ともかくギルドに戻るぞ。『正義の天秤』の審問が続いているはずだ。そこでイレーヌの名前が出てくる可能性も否定はできない」
「……! そうだね、早くイレーヌの無実を証明しにいこう!」
グレイシャルに向かう足が速くなる。息切れをするかしないかの速度で進んでいると、カーネルが満足げな様子である事に気がついた。
「なにかいい事でもあったのか」
「グレイくんがイレーヌを助けたいと思ってくれているんだと思ってさ」
オレがギルドに戻ろうと言った事を、イレーヌ救出の意志だと解釈したようだ。
「ほら、正直に言うと君って結構ドライなとこあるでしょ? だから意外な一面を見れたなーっと思って」
「オレも人の心は持っているつもりだ」
「あはは、そうだよね。ごめん失礼な事言って」
謝る必要はないぞカーネル。なぜならおまえの発言は強ち間違っていないからだ。悪いがオレはイレーヌを助けたいと思った事は一度だってない。
『正義の天秤』の審問が続いている中で、彼女の証言を引き出せればガルムナートもまとめて投獄できると踏んでいるだけだ。そこに情なんてものは存在していない。
オレはオレの目的を達成するために追放者としてここにいる。ただそれだけの話だ。




