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追放者アッシュの始末録 ~最強の執行官、最低ランクの冒険者に扮して闇を狩る~  作者: りさき


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第11話 リーナの役割

 ギリギリだった。あと少し遅れていればカーネルは死んでいただろう。

 魔法を準備する。

 相手はガーゴイル。石の翼と鋭利な爪が特徴の魔物だ。先決はカーネルからガーゴイルを引きはがす事。シンプルに考えた結果、物量で押すのがまずは手っ取り早いという結論に至った。


「《圧壊あっかい》」


 オレの言葉に呼応して魔法が放たれる。

 魔力を質量として顕現けんげんさせ、カーネルを踏み潰そうと足をあげるガーゴイルへ差し向ける。

 回避も絶叫も許さず、ガーゴイルは壁面に吹き飛んだ。


「生きてるか、カーネル」


 粉塵が舞う中、オレはカーネルのもとへ歩いていく。消え入りそうな意識を保とうとしている彼は呆気あっけに取られているようだった。


「ど、どうして君がここに」

「おまえの後を追ってきたんだ。場所を特定できたのは誰がどこにいるかを探れる味方のおかげだ」


 最初にカーネルを探すために使った《信号》もあの男がいてこそ成立している。


「置き去りにされたやつは見つけられたのか?」


 手を貸して身体を起こしてやる。


「あ、ああ。さっき合流して、先にダンジョンを抜けてもらうように伝えてある」

「……そうか」


 ここに来るまでの事を話そうとしたが、ガーゴイルが動き出したためオレは口を閉じた。


「魔物の対処をしてくる。おまえはそこで休んでいてくれ」

「待ってくれ。ぼくにも戦わせてくれ。まだやれる」


 共闘を申し出たカーネルの全身を観察する。外傷はいくらかマシだが、骨のいくつかは折れているのは手を貸した時にわかっている。


「やめておけ。完治まで長引くぞ」

「だとしても、君だけが責任を負うのは違う。あまりにも重荷だ」

「おまえも一冒険者なんだろ? 自分の状態は自分が一番よくわかっているはずだ。オレの心配はいらない」


 足手まといになられても迷惑だしな。しかしそれでもカーネルは引き下がろうとしない。目がそう訴えてくる。


「オレの言葉が信じられないか? 『ここはオレに任せてくれ』――オレはそう言ってお前を見送ったはずだ」


 そのオレが、ダンジョンに辿たどりついている意味。それが分からないほどカーネルはバカではないだろう。

 彼自身もその事を思い出したらしく、強張こわばった声で聞いてきた。


「まさか……『正義の天秤』を倒したのか……?」

「正当防衛だ。オレから手を出した訳じゃない」


 嘘はついていないからいいとしよう。

 ガーゴイルが動き出す。無駄口を叩いている時間はなさそうだ。オレはカーネルに動くなよ、と視線で釘を刺して歩き出す。

 石の翼を片方失った魔物が血走った目を向けてくる。魔物の討伐か。


 【追放者】の仕事を引き受けるようになってからは、率先してやらなかった仕事だな。久しぶりの感覚に精神が研ぎ澄まされていく。

 まだ魔法を使えなかったあの時。剣一本でどうにかなると本気で考えていた頃のオレ。


 ガーゴイルが地面を蹴る。石の翼で斬撃を飛ばし、両腕を荒れ狂うごとく振り回す。

 駆け出し冒険者だった時のオレでは、どうあがいても勝ち目のなかった敵だろう。だが、今のオレには。


「お前じゃ物足りないな」


 鍛えられ、育て上げられた魔法がある。

 《圧壊》。魔力を質量に転換。ガーゴイルを取り囲むように空間に配置。

 襲来する斬撃をかわし、鋭い爪をいなし、着実に配置する質量の塊を増やしていく。その数が10を超えたこの瞬間、チェックメイトだ。


「潰れろ」


 配置したすべての質量がガーゴイルへ集中する。言ってしまえば、あらゆる方向から肉体へ圧力がかかり続ける状態。

 石の翼を羽ばたこうが、鋭利な爪で切り裂こうが、硬質な体を持っていようが。オレが魔法を使うと決めた段階で、もう結末は決まっている。


 次の瞬間、ガーゴイルの巨大な肉体が、不可視の拳に握りつぶされたかのように内側へ向かってすさまじい音を立てて陥没した。

 回避や防御すらもはさませない、純粋な物理法則による蹂躙じゅうりん。ガーゴイルは悲鳴を上げる事すら許されない。

 その強固な皮膚は瞬時に粉砕され、つぶてとなってオレたちに降り注いだ。


「立てるか」

「あ、ああ……」


 呆然ぼうぜんとしているカーネルに肩を貸し、8階に昇ってきた階段へ移動し始める。


「戦利品、持ち帰らなくていいのか? このダンジョンの攻略者は君だよ」

「オレは道中何もしていないからな。手柄の横取りだと言われる可能性は否めない」


 階段を一段一段降りていく。背負っても良かったが、胸部の傷が痛むとのことでこうするしかない。


「……なぁ、聞いてもいいか」

「なんだ」

「君は何者なんだ。あんな魔法、ぼくは今まで一度も見たことがない」


 そうだろうな。オレは誰にでも開かれた場所で魔法を学んだわけではないからな。だが根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だ。適当にはぐらかそう。


「おまえは剣術に長けている。魔法の事を知らなくても不思議じゃない。自分が知っている事だけを想定していると足元をすくわれるぞ」

「て、手厳しい……一応ぼくケガ人なんだけど」

「それとこれとは別の話だ」


 7階フロアが見えてくると、カーネルが落ち着かなさそうに首を振る。


「リーナがいない……先に脱出したのかな? 無事だといいけど」

「おまえ、リーナの事が好きなのか?」

「全然そんなんじゃないよ。ただお母さんのために頑張っているあの子を見ていると、ぼくももっと頑張ろう、強くなろうって思えるんだ。きっとお母さんもリーナの事を心配しているだろうし。絶対に家に送り届けてあげたい」


 お人好しと呼ばれる性質を持つ人間が一定数いるのは知っている。こういう人たちは、いつでもお人好しでいられるのだろうか。そんな純粋な疑問と好奇心がオレの心をくすぐってくる。


「……どうしたの? ぼく何か変な事言った?」

「いや言ってない。おまえという人間に少し興味が湧いていたんだ。ともかくダンジョンを出るぞ。いつ閉じるかわからないからな」

「ちょっと待ってよ。もしリーナがまだダンジョン内にいたらどうするの? それに脱出するって言ったって、結構時間かかるよ。こんな状態だし」

「リーナはすでにダンジョンを出ている。後者に関しては問題ない」


 オレは薄暗闇に声をかける。すると『正義の天秤』に雇われていた3人の帰還魔法使いが重い足取りで姿を見せる。そんなに怯えた目でオレを見ないでほしい。


「彼らの力を使えば一瞬だ。準備はいいか」

「待ってってば! どうしてリーナがダンジョンを出てるってわかるんだ? リーナと会った訳じゃないだろう?」


 そこでオレはある物をカーネルの前にぶら下げる。カーネルは開いた口を塞げないまま、それを手に取った。


「これは……リーナのペンダント……? なんで君がこれを」

「ここに来るときに拾ったんだ」


 オレはペンダントをカーネルに手渡し、考えていた事を話す。

 黙って聞いていたカーネルの顔から血の気が引いていく。


「でも……本当にそんなことが……」

「あいつらならやりかねない。帰還魔法使いを3人雇っていたのも仮説の補強材料だ」


 カーネルは沈黙し、考えたすえに顔をあげた。決意が滲んでいる。


「ダンジョンを出よう。『正義の天秤』に会いに行ってくる」

「その必要はない」

「……どういう意味?」


 オレは帰還魔法使いたちに指示を出し、ダンジョン入り口への転送を指示する。地面に浮かび上がる模様の光を浴びながら答える。


「出ればわかることだ」

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