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第7話 4人の朝食

 スマホのアラーム音で目が覚めた。眠い目をこすりながら上半身だけ起こす。


 見なれない景色だ。そうだ。自分の部屋ではなく客間に寝たのだった。


 昨日の出来事がまるで嘘のように、客間はシンと静まり返っている。いつもと同じ、色の無い灰色の世界。


 だが、昨日はマコトに出会って初めて色を見た。そして、一緒に夕飯を食べて剣道も教えてもらった。そんなことがありありと思い出される。


 リビングに入ると、まず食卓にいるマコトの背中が目に映る。赤い着物の色だ。この色は、赤だということをマコトに教えてもらっていた。


 4人がけの食卓には、父と母が奥に並んで座っていて、マコトは父の向かい側に座っている。


 父も母もマコトの存在を気にする様子はない。見えていないというより、そこに居て当然といった具合だ。


「おはよう。朝ご飯できてるわよ。早く食べなさい」


 母が明るく声をかけてくれた。テーブルの上には、ご飯とみそ汁、目玉焼きと鮭の切り身が並んでいる。


「勇樹殿の母御の料理は美味いのう。目玉焼きの半熟加減も我の好みじゃ」


 朝食は当然のようにマコトの分も用意されていて、マコトが美味しそうに食べている。


 マコトの隣に座り父を見た。疲れた顔で朝食をとっている。


「父さん。昨日も帰りが遅かったの?」


「ん? ああ。帰ったのは午前2時くらいだったかな。夜間パトロールがあってな」


「そんなに毎日遅くまで働いて、体は大丈夫なの?」


 思わず心配になって尋ねる。しかし、父は笑って答えた。


「大丈夫だ。心配するな。昼間に仮眠もとってるからな。もう4人目の犠牲者が出た。早く犯人を捕まえないとな」


 式部町近辺で起きている令和の辻斬り事件。被害者は今のところ男性ばかり。いずれの被害者も夜中に刃物で斬り殺されていた。


 1人目の被害者は、ストーカー殺人の犯罪者。出所して道路工事のアルバイトをしていた。


 2人目の被害者は、元不良グループのリーダーの少年。集団暴行で大学生を死なせている。


 3人目の被害者は、児童虐待死させた疑いのある二十代の男。まだ起訴はされていなかった。


 そして、6日前に殺されたのは暴力団の組員。強盗や殺人の前科があるらしい。


「父さん。不思議に思うんだけどさ……」


 ずっと疑問に思っていたことを口した。父が食べるのをやめてこちらを見る。


「辻斬りの犯人には、何で被害者が犯罪者なのが分かるんだろう? 最近殺された暴力団組員は見た目で分かるかもしれないけど。1人目や3人目の被害者は、見た目は普通の一般人と変わらない訳でしょ?」


「なかなか鋭いな、勇樹。確かに、お前の言うとおりだ。特に3人目の児童虐待死させた男性は、まだ起訴前で報道もされていなかった。どうやって犯罪者だと分かったのか謎なんだ」


 犯人は、犯罪者ばかり狙って斬り殺している。しかし、どうやって相手が犯罪者だと知ることができたのか。


「お、いかん。もうこんな時間か。行ってくる。母さん、今日も遅くなるから夕飯はいい」


 父は慌ただしく立ち上がる。玄関まで母と見送った。


「行ってらっしゃい。父さん」


「ああ。勇樹も母さんも絶対に夜に出歩いたりするんじゃないぞ。じゃあ、行ってくる」


「あなたも気をつけてね。行ってらっしゃい」


 心配そうな顔で母は父の背中を見送った。


 リビングに戻ると朝食を食べ終える。そして、学生服に着替えた。


「じゃあ、僕も学校に行ってくるよ」


 洗いものをしている母に声をかけて家を出た。


「うむ。今日は良い天気じゃの。空が青々としておる」


 マコトの声が聞こえる。色の見えない自分には、空の青さは分からないが。


「マコトさんもお出かけですか?」


 そう尋ねると、マコトはキョトンとした顔をした。


「何を言ってるのじゃ? 我もお主と一緒に学校に行くのじゃ。我は義務教育すら受けておらぬからのう。学校とは、どういう場所なのか楽しみなのじゃ」


「え? 学校までついて来るんですか? さすがに、それはちょっと……」


 それを聞くと、マコトはむくれた表情になる。


「それはちょっととは何じゃ? 我の姿は、お主しか見えぬ。我は寂しいのじゃ! ウサギは寂しいと死んでしまうであろう? 我もウサギと同じじゃ。お主がおらぬと寂しくて死んでしまうのじゃ!」


 それは、さすがにオーバーだと思う。3年間もの間、誰からも見られずに生きてきたくせに。


「グズグズするでない。早く行くのじゃ」


「分かりましたよ。でも授業の邪魔はしないでくださいね」


 仕方ないので、マコトと一緒に学校に行くことにした。本当は、正直うっとうしいが。


 駅まで住宅街の道を歩く。途中で、マコトと初めて出会った公園の前に通った。


 駅に着くと改札の駅員に定期を見せてホームに入る。当然のようにマコトも後ろからついて来る。無賃乗車だが、それをとがめる者はいない。


「我は、あの自動改札がダメでのう。人間には我の姿は見えぬが、機械には通用しないのじゃ。扉が閉まって通してくれないのじゃ」


「へぇー。そうなんですか……」


「あと最近は、防犯カメラも多いじゃろ? 人間に姿は見られぬが、カメラには我の姿は映るのじゃ。だから迂闊うかつなことはできぬのじゃ」


 機械のセンサーには反応される。カメラには映る。マコトの奥義には、まだ謎が多い。



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