第8話 黒木小夜子
「ふむ。ここが勇樹殿の学校か…… なかなか面白そうな所じゃ」
最初のうちは、興味津々といった感じのマコトだったが、授業が進むにつれてあくびをするようになった。
今は、英語の授業だ。マコトは完全に興味を失っている。
「なぜ日本人が英語を学ばねばならぬのじゃ? 日本におるなら日本語を話せば良いではないか。英語は何を言ってるか意味が分からぬ」
ブツブツと文句を言っている。マコトの姿は、教師にも生徒にも誰にも見えていない。
そして、授業は全て終わり放課後になった。
「やっと終わったのじゃ。それにしても学校というのは退屈な所じゃのう。我は退屈で死にそうだったのじゃ」
朝は寂しくて死にそうとか言ってたくせに。学校に来たら来たで退屈で死にそうとか言う。来なければよかったのにと思う。
「どうしたのじゃ? 勇樹殿。早く家に帰ろうぞ?」
「これから剣道部の部活があるんです。先に帰ってもいいですよ」
「部活? ああ、竹刀遊びの…… 仕方ない。ちょっと見学するからのう。授業よりはマシじゃ」
マコトは、部活についてきた。剣道部の部活は、体育館とは別に武道場があり、剣道部と柔道部は武道場で活動している。
武道場は部屋が大きな部屋が2つあり、床が板張りの部屋が剣道部で、畳が敷いてある方が柔道部の練習場所だ。
剣道部の部員は、約20名いる。強豪校というほどではないが、県内でもそれなりに強い方だ。
昨日、マコトから教えてもらったことをさっそく実践する。待ちの戦法を捨てて、こちらから積極的に攻める。その上で相手の動きを予測する。
マコト相手には、一本も取れなかったが、同じ高校生相手なら話は別だ。新しい戦法でも勝つことができた。
ちょっと休憩にする。マコトの側に行き、防具を外した。マコトは意外にも真剣な目で練習を見ている。
「高校生の部活なんか見ても楽しくないでしょう?」
「そんなことはないのじゃ。学生レベルとはいえ、皆一生懸命に練習しておる。この空気は嫌いではない。それに……」
マコトはとある生徒を指差した。
「あそこにいる者は、なかなか筋が良いぞ。竹刀とはいえ、実戦向きな戦い方をしておる。剣が体の一部のように馴染んでおる」
さすがはマコトだ。剣道部で一番強い生徒を早くも見抜いている。
「あれは、3年生の黒木先輩です。この剣道部の副部長ですよ」
マコトが指差した生徒の名は、黒木 小夜子だ。女子の部では、勇樹と同じ地区大会優勝している。全国レベルの腕前だ。
こちらの視線に気づいたのか、黒木小夜子が歩いくる。勇樹の近くまで来ると頭の防具を外した。
小夜子は、まだ幼さが残っいるが可愛いらしい顔をしている。男子にけっこうモテるらしい。
「白河君。何サボってるの?」
可憐な笑顔で言った。胸がドキドキする。実は、ひそかに小夜子に思いを寄せていた。
色の無い世界。全てが灰色に見える世界でも好きな子はいた。小夜子を見ると自然と目で追ってしまう。小夜子のことを考えるとドキドキする。
「黒木先輩、お疲れ様です。ちょっと休憩してるだけです」
「じゃあ、私もちょっと休憩しよ」
小夜子は、隣に座った。優しい笑みを浮かべてこちらを見る。
「白河君。戦い方というか、スタイルを変えたの? 昨日までは、待ちの戦い方というか、相手の出方をうかがう感じだったけど、今日は積極的に攻めてるじゃない」
「ええ。ちょっと、ある人にアドバイスを受けて…… 自分から攻めるスタイルに変えようかと」
そのある人というのは、もちろんマコトのことなのだが。
小夜子は、弾けるような笑顔だ。
「私は、今日の白河君の戦い方、すっごく良いと思う! この調子で頑張ってね」
「ありがとうございます」
思わずニヤけそうになってしまった。慌てて表情を引き締める。
「さあ、次の大会に向けて練習、練習! 休憩終わり! 行くわよ、白河君!」
小夜子が立ち上がる。勇樹も立ち上がって防具をつけた。
部活が終わり、マコトと一緒に帰り道を並んで歩く。
「あの黒木とかいう女子。下の名前は何ていうのじゃ?」
マコトが小夜子のことを尋ねてきた。彼女に興味があるのだろうか。
「黒木先輩の下の名前は、小夜子です」
「ふむ。小夜子というのか、良い名ではないか」
マコトは、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「お主、小夜子のことを好いておるな?」
「えッ!」
驚いて思わず声を上げた。
「何でそう思うんですか……?」
「かははは! 図星じゃったか。お主の反応を見ていたら、女ならすぐに分かるのじゃ」
そんな分かりやすい反応をしていたのだろうか、小夜子にも気づかれていたのだろうか。
「まあ、良いではないか。我の見立てでは、向こうもまんざらではない様子じゃ。脈はあるぞ」
「そ、そんなの分かりませんよ。黒木先輩は誰にだって優しいし……」
小夜子は誰に対しても優しい笑顔で話す。自分だけに特別に向けられた笑顔ではない。
「青春じゃのう。今日は、なかなか楽しかったのじゃ。学校の授業は死ぬほど退屈じゃったが。部活とやらは悪くなかったぞ」
マコトはニヤッとして、こちらの顔を覗き込む。
「それに、勇樹殿の好きな女子も見れたしのう」
マコトは「かははは!」と軽快に笑った。




