表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/9

第3話 夕暮れの公園

「僕の名前は、白河しらかわ 勇樹ゆうきです。隣町の高校に通ってます」


 制服を着ているので、高校生なのは見て分かるだろうが、一応言っておいた。


「勇樹というのか、良い名じゃな。勇ましい感じがしておる。何か武道の心得はあるのか?」


「はあ、部活で剣道部に入ってますが」


「ほう。あの竹刀遊び…… いや、失礼。剣道か…… なるほど。ちょっと、この木刀を持ってかまえてみてくれぬか?」


 マコトから木刀を渡されたので、立ち上がってかまえてみせた。背筋を伸ばし木刀をかまえる。


「ふむ。筋は良いようじゃな。じゃが、まだ学生レベルじゃな」


 マコトは、かまえを見ただけで勇樹の剣道の実力を見抜いたらしい。


 確かに、自分は剣の才能がある訳ではない。それほど機敏な動きができる訳でもない。


 しかし、地区大会で優勝するだけの実力を持っている。それは勇樹の色が見えないという特性のおかげであった。


 全てが灰色の色が無い視界において、普通は見えないあるものが勇樹には見えた。


 それは、相手が動き出す前の揺らぎのようなものだ。それが見えるおかげで、相手の動作を予測することができた。相手の動きが読めれば簡単にカウンターをとることができた。


 つまり、勇樹の戦い方はカウンタータイプ。フェイントで相手にプレッシャーを与えて、相手が先に攻撃してくるのをじっと待つ。そして、相手が攻撃しようと動き出した瞬間を狙ってカウンターをとるのだ。


 この戦法で地区大会優勝までは簡単にできた。しかし、全国レベルになるとそうはいかない。


 カウンターをとろうにも相手の動きが速すぎてついていけなかったり、相手の反射神経が良すぎてカウンターのカウンターを逆にとられたりする。


 全国優勝を目指すには、まだまだ相当な練習が必要だ。


「分からぬのう…… お主が剣の達人ならともかく。どう見ても普通の高校生じゃ。何でお主には我の姿を見ることができるのじゃ?」


「たぶんですけど。僕は、生まれつき色を認識することができないんです。正確に言うと、あなたに出会うまでは色を認識することができなかったんです」


 木刀をマコトに返してベンチに腰掛ける。そして、自分が色を今まで見えなかったこと。マコトに会って初めて色が見えたことを説明した。


「そうか…… お主、普通の高校生かと思ったら色々と苦労しておるのじゃな。お主が我の姿を見ることができるのは、その普通の人間とは違う、色が見えないという特性に原因がありそうじゃのう」


 マコトは腕を組んで考え込む素振りを見せた。


 気がつくと、日が沈もうとしている。辺りは薄暗くなってきた。


 色が見えない勇樹にとっては、夜は普通の人間より視界が悪くなる。だから、いつも日が暮れる前に帰宅することにしていた。


「すみません。そろそろ家に帰らないと」


「うむ。すっかり長話をしてしまったのう。もうこんな時刻か。この辺りは夜になると物騒じゃからのう。辻斬りが出るそうじゃ」


 マコトが言ってるのは『令和の辻斬り事件』のことだ。最近、式部町の近辺で夜中に人が斬り殺される事件が起きている。


 被害者は、男性ばかり。それも犯罪者だったり不良グループの人間だったり。そういう人間が狙われて斬り殺されている。辻斬りではなく、令和の新選組とも呼ばれている。


「じゃあ、僕帰ります。マコトさん。あなたのおかげで初めて色を見ることができました。ありがとうございました。じゃあ」


 礼を述べてベンチから立ち上がった。今日の日を忘れないだろう。初めて色を見た日を。勇樹は、ゆっくりと歩き出す。


「うむ。遅くなると親御さんも心配するであろう。早く帰らねばのう」


 マコトの声が後ろからついてくる。マコトもベンチから立ち上がったようだ。ここで解散か。


 今日は、初めて色を見れた。明日からは、またいつもと同じ色の無い世界が待っている。それは悲しくもあるが、今日初めて見た色を思い出せば、明日から新鮮な気分で生きられそうだ。


「それにしても腹が減ったのう。今日の夕飯は何であろうな?」


 背後からマコトの声が聞こえる。


 ん?


 立ち止まって振り返ると、マコトが当然のような顔をして後ろからついてきている。


「あのー。僕は、もう家に帰らないといけないんですが……」


「うむ。じゃから早く帰ろう。腹も減ったからのう」


 もしやと思い恐る恐る尋ねる。


「もしかして、僕の家について来る気ですか?」


「うむ。決まっておろう。お主は、我の姿が見える3年ぶりの人間じゃ。我が今までどれだけ孤独であったか…… じゃから、しばらく勇樹殿の家に世話になろうと思う」


 マコトは当然のような顔をしている。慌てて言った。


「ちょっと、それはダメですよ! 父と母になんと説明すれば? 今日出会ったばかりの人を急に泊めるなんてできないです!」


「心配無用じゃ。お主の両親に我の姿は見えぬ。それに冷たいことを言うでない。我と勇樹殿は、共に剣術を極めんとする同士ではないか!」


「いや、そんなこと言われても……」


 走って逃げようか? それとも警察に通報するか? いや、警察に通報しても警察官にマコトの姿は見えないのか……


 勇樹は、頭を抱え込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ