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都会のシャッター街で畑を作ることにしました  作者: 凪野 リアン


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第十九話 土の重み


 大森の知り合いである農家さんに会いに郊外へやってきた。土の温かなぬくもり、そして、空気の綺麗な場所でリアンの心も綺麗に洗われていくような気がした。畑にはこの時期に獲れる春キャベツが一面に成っていた。

 土の香りと春キャベツの香りで、リアンの鼻からも畑を感じていた。


「大森、久しぶりにこっちに来たんじゃねぇか?そっちはどうよ。奥さんも元気にやっているか?」

「あぁ、母ちゃんは相変わらず元気だ。そういえば、母ちゃんから手土産渡されたんだ。受け取ってくれ。」


 大森は軽トラに戻り、鞄に入れていたまんじゅうを早瀬に渡した。


「おぅ、悪いな。有難くいただくよ。」

「すみません…。私…手ぶらで来ちゃいました…すみません…。」


 リアンは恥ずかしそうに声を発した。そして、気が回らない自分に腹を立てていた。


「全然、気にしないでくれ。あ、そうだ。今日は畑について、勉強しに来たと聞いているんだが、合っているかな?ちょうど、春キャベツが収穫時期で、手伝ってほしいんだ。」

「勿論です!何でもやります!やらせてください!」


 リアンは前のめりに返事をした。久しぶりに畑作業が出来る事が嬉しかった。子供の頃に農業体験をやった時以来の本格的な農作業だ。都会では、ここまで大きい畑で農作業することは難しく、リアンの心も高ぶっていた。


「いい返事だ!キャベツは大きさもまばらだから機械も使いづらくてな。俺の畑は全部手作業なんだ。腰には気を付けてやれよ。」


 早瀬から、春キャベツの収穫方法を学んで、包丁とプラケースを持って、いざ畑へ。大森は少し散歩がてら出かけてくるらしい。

畑での作業となると、収穫時期の見極めは素人には難しく、早瀬と一緒に収穫することにした。


「リアンちゃん、春キャベツはな。大きさと巻き具合が肝心なんだ。まず、外観を見て、大きさ、そして、病気や虫などの害虫がいないかを確認してから、触って少し押して確認する。弾力があるかを見ていくんだ。巻き具合が悪いと柔らかくて、まだ成長途中なんだ。」

「触ってみてもいいですか?」


 リアンは何個かキャベツを触って硬さを確認した。するとなんだか、身が締まっているようなキャベツがあるのを感じた。


「たぶん…これ…ですかね?一番硬いですし…。」


 リアンは早瀬の顔を見て、不安そうに聞いてみた。


「本当にそれでいい…?本当に、本当?」


 早瀬の問いにさらに不安になるリアン。ドキドキしながら、首を縦に振った。


「…………ざんねん…。ハハハ、実は、これは育ちすぎて、市場には卸せないんだ。味自体は多少落ちる程度で、食べられない訳じゃないから。我が家で食べているよ。市場に出すにはもう少し柔らかいやつを卸しているんだ。」

「収穫時期って難しいんですね。一個一個、成長を見ているなんて知らなかったですし…。」

「最初はみんなそうだから心配するな。沢山経験を積んで、見極めが出来ていくんだよ。」

「ありがとうございます。」


 キャベツ一つとっても、農業の奥深さにリアンは目がキラキラとしていた。もし、公民館跡地で畑が出来るようになったら、キャベツをいつかは育てたいと思っていた。その為にも、今日の経験が生かせるようにしたいと考えていた。


「それじゃ、それを踏まえて収穫できるキャベツを探してみて。」

「はい!やってみます!」


 静かに触りながら、一つ一つ確認していく。手の指先に感覚を研ぎ澄まして、先ほど間違えたキャベツの硬さを思い出しながら、選んでいった。


「これ…このキャベツが収穫できるやつだと思います。たぶん…。」


 リアンは自信がなかったが、一つ選んでみた。早瀬の顔を見て、様子を伺っていると、少し早瀬の口角が上がっているのが見て取れた。


「正解だ!このキャベツはとてもいいキャベツだ。この短時間でよくわかるようになったなぁ。素人はそんなにすぐには見つけられないぞ。」


 その言葉がリアンには嬉しかった。なんだか誇らしくなった。


「よし、その調子で頼めるかな?ゆっくりやってもらっていいからな。休憩もはさみながら、頼むよ。腰に負担がかかるからな。」


 沢山のキャベツが並んでいる畑で、リアンは一生懸命に選別しながら収獲していった。プラケースが満タンになるほどに収穫をして、立派なキャベツがゴロゴロとしている。持ち上げようとすると結構重い。春キャベツは普通のキャベツよりは一回り小さいにしても重さはあった。腰を入れて、持ち上げる。八百屋での力仕事がここでも役に立った。


「ありがとな~。そこに置いてくれるか?」


 リアンは傷をつけないように静かに置いた。


「結構、大変だっただろう?腰は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。でも、毎日のこの作業は大変ですね。いい経験になりました。」

「ハハハ、そうだ、何度やめたいと思ったことか…。でも、生活のために働かないとな。農作業は嫌いじゃないんだが、腰痛が出ると、やめたくなるんだ。」


 早瀬は笑いながら語っていた。日頃からスーパーで並ぶ野菜も農家さんが丹精込めて育ててくれているのを間近で感じ、リアンは感謝を忘れちゃいけない気がした。


「ところで、大森は何処まで行ったんだ?散歩だとか言って…本当、相変わらずだなぁ。自由っていうかなんというか…。」

「野菜を見にいったんでしょうかね?」

「ところで、大森の住んでいる商店街で畑を作るって聞いたんだが、出来そうか?」

「はい、今も準備を進めています。しかし、耐荷重問題とか色々あって、完璧に理想通りにはいかないかもしれないですけど、着々と進んでいると思います。」

「土って、意外と重いしな。ちょっとバケツに土入れて持ち上げてみな。」


 そういうと、小さめのバケツを持ってきて、リアンに渡した。そのバケツ一杯に土を入れて、持ち上げてみた。ズッシリとする重みが手を通って腕や肩に伝わる。見た目以上に重量がある。これに水を含ませるとさらに増えるだろう。


「なっ!意外に重いだろ?結構地盤がしっかりしてないと、難しいぞ。」

「そうですね…。本当に難しいです。法律なども関わってきちゃうので建築士さんと相談しながらやっていますよ。」

「もし、畑が出来上がったら、教えてくれよ。俺も見たいから。」


 土の温かさ、野菜の重み、そして、育てることの難しさ。今日一日だけでも、リアンは沢山の事を学んでいた。

 都会の畑への道は簡単ではない。だが、それでも前へ進みたいと思えた。春の風が吹く畑の中で、リアンは静かに空を見上げていた。


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