第十八話 土のぬくもり
翌日、この日は八百屋がお休みで店主の大森と知り合いの農家に会いに行くことになっていた。朝9時に店の前で待ち合わせ、おなじみの軽トラで向かうことになっている。
「リアンちゃん、おはよう。」
「おはようございます。」
軽く挨拶を済ませ、軽トラに乗り込んだ。荷台には空のプラケースが置いてあり、車が走り出すとカタカタとケースが荷台にぶつかる音が響いていた。リアンは窓を少し開け朝の風の気持ちよさと、たまに香るエンジンの匂いと長年でこびりついたのであろう青物の香りを感じていた。道も綺麗に舗装されており、揺れも少ない。そして、朝の時間帯は車も多い。窓を全開にすると、排気ガスが車内を襲う。それほど、交通量も多い地域だ。
「リアンちゃん、今から行くところは1時間ぐらいで着くと思うから、ゆったり寝てもいいぞ。まぁ、いうても、軽トラの座席じゃゆっくりは出来ないかもしれないけどな。ガハハ。」
軽トラの座席は後ろに荷台がある分、座席もほぼ直角で少し窮屈さがあった。それに、リアンは気持ちが高ぶり、ゆったり寝ることなど出来ない状態だった。
「おじさん、これから行く農家さんはどんな人なの?」
「そうだなぁ~。結構、面白いぞ。俺の学生の頃の同級生なんだ。」
大森は学生の頃の話を、懐かしそうに話してくれた。どうやらこれから、会う農家さんは最初、青果流通科というところで学んでいたらしい。途中から、農業科に転科して、今は農家として生活しているのだとか。
リアンはその話を聞いて、流通も農業も知っている農家として働いていることが格好いいとまで思った。リアンが目指すべき方向性がそこにはあったからだ。
「私も農業のエキスパートになって、みんなと笑いあえる農家になりたいですね。そこまで行くには勉強をもっと頑張らないと…。」
「リアンちゃんは最初の頃よりも野菜について詳しくなってきただろ。あとは栽培について、今日はあいつに質問して勉強したらいいんじゃないか?」
その時リアンはハッとした。大森の優しさにグッと来た。農家の疑問は農家に聞くのが一番いい。それをわかっていて、リアンの勉強のために会わせてくれるのが嬉しかった。ちょっと不器用な所はあるけど、大森の優しさが嬉しかった。
「さぁ、着いたぞ。」
そこは広大な畑が広がり、遠くの方では田んぼがある。都会の空気とはまるで違う透き通った土の香りと野菜の緑の香りがしていた。山々に囲まれ、そのふもとに畑がある。気持ち空も近く感じた。
リアンは軽く深呼吸をして、自然の香りを満喫していた。美味しい空気を吸いながら、心が癒されていくのを感じていた。
「ここ凄いだろ?あいつの畑は結構広くて、野菜も栄養たっぷりで評判もいいんだぜ。土の香りも嗅いでみろ。」
大森は畑の土を一握り、持ち上げリアンの手にのせた。その触感はふかふかで柔らかく、上手に言葉に出来ないほどだった。そして、なにより、土が温かくまるでお布団のようで、ぽかぽかとしていた。
そんな事を話しながら歩いていると、声を掛ける人が現れた。
「おぅ、おはよう。」
「早瀬、元気にしていたか?相変わらず、ここは広いなぁ~。」
「あぁ、手入れが大変だから、本当は縮小したいんだけどな。まぁ、何とかやってるよ。その子が八百屋の子か?」
「あぁ、八百屋でバイトしているリアンちゃんだ。畑を作りたいってことで、勉強のために連れてきた。」
「あ、え~と…翔峰リアンです。よろしくお願いします。」
リアンは、頭を下げて軽く挨拶をした。土の香りに包まれながら、自然の空気を感じ、何もかもが新鮮な気持ちに浸っていた。
大量の野菜たちが綺麗に並び、いまかいまかと、収穫を待っているような気持に不思議となった。




