第十七話 夢の設計図
翌日、リアンは八百屋でのバイトを終え、商店街振興会事務所へと向かった。今日は建築士の山崎にリアンの夢が詰まった模型を見てもらう日。模型作りでお世話になった桐谷、商店街組合の会長久保も参加予定だ。リアンは少し緊張した面持ちで早めに到着してしまった。
事務所の扉を開けると、久保が事務仕事をしている姿が見えた。
「あら、リアンさん、早かったわね。あれから、どう?模型は出来たの?」
「こんにちは。はい!出来上がりました。私のすべてを詰め込んで、桐谷さんと一緒に制作しました。模型は桐谷さんが持ってきてくれます。」
「そう。楽しみだわ。」
顔も緩みニコニコと二人でこれからの事を話していた。リアンが発案してから、長い時間かかってしまったが、ようやく改装の一歩手前まで来ていることに二人で喜び合い、沢山の思い出話で花を咲かせていた。そんな時、入口の扉が開いた。
―ガチャリ
二人は扉の方に目をやった。そこには桐谷と山崎の二人が扉から入ってくるところが見えた。
「「こんにちは。」」
「ちょうど下で会って…。」
事務所前の道でばったりと出会ったみたいだ。桐谷は大きな紙袋をぶら下げ、山崎は分厚い鞄を提げていた。桐谷のぼさぼさの髪型はいつも通りだ。
全員揃ったところで、雑談が始まり、久保の用意してくれたお茶を飲みながら、リラックスムードで会話が弾んでいた。本題に入るきっかけはやはりこの人だった。
「さぁ、そろそろいいかしら?楽しくて本題忘れそうになっちゃうけど、改装の件で話しを進めないとね。」
久保の一声で会話を中断し、仕事モードへと雰囲気もガラッと変わっていった。桐谷は紙袋からゴソゴソと模型を取り出した。形が崩れないように緩衝材も巻かれており、丁寧に緩衝材を剥がす。そして、テーブルへと置いた。接着剤はしっかりとくっついており、ちょっとした事では、部品が取れることが無いようにはなっているみたいだが、慎重に扱ってくれていたのが印象的だった。
「桐谷さん、ありがとうございます。これには私の夢を全部詰め込みました。この模型を見ながら、説明をしていきますので、最後に指摘があればおっしゃってください。」
リアンは淡々と理想をすべて話した。全面に土を敷き詰めたいこと、天井は開閉式の天窓にしたい事、雨水を再利用したいこと、そのために循環式のポンプを使用したり、フィルターで濾過して、極力、有害物質を取り除けないかという事もすべて話しをした。山崎は眉間にしわを寄せながら、真剣に話しを聞いていた。時折、渋い顔はするものの表情を見る限りはとてもいい反応だった。
「これが、私の考える改装の概要です。いかがでしょうか?」
「リアンさん、あなたの理想は素晴らしいと思います。しかし、法律や環境の面でいくつか指摘しなければなりません。まず、この土地は農業向きの土地ではないので、土の重さに耐えられるのかの不安があります。土は思っているより重量があって、全面を畑にするのは難しいと思います。そして、水の再利用ですが、これも苔やカビなどの発生が心配です。建物自体が湿気で傷む可能性があって…。しかし、私はすべてを否定したいわけではなく、リアンさんと一緒に改善策を考えたいと思っているんです。リアンさんがどこまで許容できるのかわかりませんが、畑を縮小して、一部プランター栽培とかでもいいと思いますがどうでしょうか?」
「そうですか…。難しいですね…。」
リアンは少し頭を抱えていた。広い畑で、作物を育てることを理想としていたので、縮小は考えていなかった。リアンのアイデアではプランター栽培はあまり考える事が出来なかった。だが、現実問題、耐荷重で人を危険にさらしてしまう恐怖もある。頭の中で順番に整理をして、長い時間をかけて考え抜いて結論を出した。
「畑の範囲を縮小して、プランター栽培を増やしたいと思います。水回りに関しては一か所に集中して排水出来るようにしたらどうでしょうか?」
「そうですね。それなら、問題は解決すると思います。それを踏まえて、製図しながら材料なども算出していこうと思います。今回は法律も関わってきますので、こちらに任せてください。」
「はい。よろしくお願いします。」
リアンは深々と頭を下げた。法律で出来る事出来ない事があるなんて、今まで考えることが無かったリアンは新鮮な気持ちでもあった。しかし、もうすぐ、リアンの発案した都会の畑が理想ではなくなることを感じていた。理想ではなく現実として動き出し、周りの人に助けられながら、一歩一歩確実に進んでいること。それが凄く嬉しい。キラキラとした目をして、晴れやかな心で突き進んでいく。
まだまだ、やる事は沢山あるけれど、どんなことも頑張る決意をしたのだった。理想の形とは少し違っても、それでも、この畑は前に進み始めていた。




