妙子の偽証
「個性を重んじる欧米ではそんなこと言ったらセクハラで訴えられますね」
「うふふ」
「日本ではまだおしゃれとファッションの区別がついていないようです。
服を買うのは女の贅沢みたいで、男性は否定的です」
「うふふ、さすがですね」
「何が?」
「さすが美宝堂の息子さんですね」
「そうかなあ」
亮は子供の頃から美宝堂の息子なのでいい物を持っていると思われるのが
嫌で決して家の事は口にしなかった。
「そういえば、昨日バレーボールをやっていましたね」
亮はニューヨークで妙子がバレーボールファンと聞いていたので
話題にはちょうど良いと思っていた。
「はい」
妙子は嬉しそうに答えた。
「誰のファンなんですか?やはりロバート」
「いいえ、木村健吾さんです?」
「ああ、背番号12番の選手ですね」
「知っているんですか?」
「昨日見ただけですけど。センターからのスパイクは強烈ですね」
「はい」
妙子は嬉しそうに答えた。
「それでボストンの事をもう一度聞きたいんですが?」
「はい」
亮とすっかり打ち解けた妙子は嬉しそうに亮の目を見た。
「他にボストン空港で他の日本人と会ったとかありませんでした?」
「日本人?」
妙子は上に目をやって必死に記憶をたどろうとしていた。
「関係が無いけどあの時ボストンで
バレーボールの試合が有ったみたいですよ。
背の高い男性が市内を観光していました」
「どうしてバレーボール選手ってわかったんですか?」
背に高いスポーツ選手はバレーボール以外にいるはずだが
妙子はわかっていた様子で亮は驚いて聞いた。
「長年ファンをやっているので
バレーボールの選手の体つきはわかります」
「えっ、日本人選手もいたんですか?」
「残念ながら日本人選手は見かけませんでした」
「ありがとうございます。試合の件は調べてみます」
亮は犯人像はバレーボール経験者と当たりを
付けていたのに、バレーボールの
試合を調べなかったことがとても悔しかった。
亮はすぐにジェニファーに試合の調査依頼をした。
「おはようございます、亮です」
「ああ、亮。おはよう」
低めの張りのあるジェニファーの声が聞こえた。
「早すぎました?」
「ううん、6時半だからジョギングへ行くところ」
「すみません、佐藤敦子さんが殺された日、
ボストンでバレーボールの試合が有ったか
調べてほしいんですけど」
「わかったわ、調べたらメールしておく」
「お願いします」
「夏になったら休暇取ったから遊びに行くよ」
「お待ちしています」
亮が電話を切ると妙子が聞いた。
「向こうは何時?」
「ひっくり返してマイナス2時間、今8時半だから6時半です」
「ちょっと早かった?」
「いいえ、今からジョギングへ行くところだったそうです」
「本当に映画みたいに毎朝ジョギングするんですか?向こうの女性」
「まあ、彼女は警察官だからかなり走りますが。
一般の女性も走っていますよ。
アメリカ人は健康志向が高いですからね」
「私、毎日だらけた生活しているから無理。
それに家の周り走れる環境じゃないから」
「確かに狭い道は車との接触があるから気を付けた方がいいですよ。
ゆっくりと息が上がらない程度に」
「スピードはいらないんですか?」
「はい、220マイナス年齢=最大心拍数
そこから安静拍数を引くと予備心拍数それの5~60%
プラス安静時の心拍数が目標心拍数で、その心拍数で走ると
脂肪が燃焼します。だからスポーツジムで汗をかいて必死で走っている人は
ダイエットより心肺機能のトレーニングをしているんです」
「そうなんですか。汗をかくのがダイエットだと思っていました」
「もちろん、脂肪を燃焼させるんだから汗をかきますけど、
それほどひどくなる必要はないですね」
「そうか、ジムでやってみようかな」
妙子は自分のお腹を触った。
「一般の女性の体脂肪率20~25%アスリートは体脂肪一桁ですから」
「うふふ、バレーボール選手はすごいですね」
妙子は自分の体脂肪率が平均でホッとしたことと
アスリートの体脂肪率が一桁を思い出して大好きな
バレーボール選手を思い浮かべ
ニコニコと笑った。
「実は佐藤敦子さんを殺害した犯人の目途がまだ付かないんですよ」
亮は開き直って捜査状況を話した。
「そうなんですか?まだ・・・アメリカは恐ろしいですね」
「もう一度聞いていいですか。本当に佐藤敦子さんを目撃したんですね」
亮は妙子が佐藤敦子を目撃した事が重要な目撃証言として気にかかっていた。
しばらく妙子の無言が続くと妙子は亮の顔を見つめた。
「すみません。頼まれて嘘をつきました。すみません・・・・」
「えっ?誰に?」
亮は妙子がニューヨークで何か言いたそうだったのを思い出した。
「私に声をかけてきたニック・リードという男です」
「えっ!本当ですか?」
「市内観光の案内をすると言われそれを断ったら、
ボストンで無事でいたかったら、
警察に佐藤敦子を見たと言ってくれと言われました」
「という事はあなたが警察に聞かれることを予測していたわけですね」
「私の他に日本人が2人いたけどそれを言ったか知らないわ」
「ニック・リードと言う男は。本名がフレッド・カーペンターと
言って詐欺の前科があるんです」
「詐欺師だったんだ、あの男」
妙子はもしニックに付いて行ったらどうなっていたか、
想像すると鳥肌が立った。
「佐藤さん、ニックに殺されたんですか?」
「いいえ、まだわかりません。ニックという男が
フレッド・カーペンターと分かったばかりですから」
そこにジェニファーからメールが届いた。
「事件があった日、ボストン大学で大学バレーボールリーグの試合が有ったわ」
「了解、ありがとう」
亮はすぐにメールを返した。
「妙子さん、確かにバレーボールの試合が有ったそうです」
「良かった、私が見かけたのはやっぱりバレーボールの選手だったのね」
「そのようです」
亮はその選手の中に佐藤敦子を殺した犯人がいると確信した。
ただ、亮の頭の中に引っかかるものが、
それはフレッドがどうして鈴木妙子に偽証をさせてまで
佐藤敦子の存在を作っていたかだった。
それは妙子と話しても解決するものではなかった。
「團さん、今度の日曜日1時から大学バレーボールの
試合が有るんだけど一緒に行きませんか?」
「良いですよ。ぜひ」
亮はバレーボール観戦で何かヒントが出るかと思って返事をした。
「じゃあ、日曜に原宿駅の改札に12時に」
「はい、お昼どうしますか?よかったらその前に食事でも」
「ああ、そうですね。ではその1時間前に」
亮と妙子は次会う約束をして別れた。
亮は妙子と別れるとジェニファーに電話を掛けた。
「鈴木妙子が言うにはフレッドに頼まれて、佐藤敦子を見たと偽証したそうです」
「えっ?なぜ、フレッドが佐藤敦子の存在を作ったのかしら?」
「わかりません、やはりフレッドを探し出さないと」
そう言っても日本の25倍の面積、10倍の人口密度のアメリカで
一人の人間を探し出すことは容易ではない
しかも、犯罪人ならまだしも目撃者を探し出すのは困難としか言いようがなかった。
「私たちも頑張っているんだけど・・・」
「すみません、こちらでもう少し手掛かりを探してみます」
亮は佐藤敦子の痕跡をたどってみることにした。
亮はまず父親に電話を掛けた。




