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グッド・ジョブ エピソード0  作者: 渡夢太郎
五章 ナチュラル・グリル
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秋田

「おとうさん、名刺が欲しいんです」

「どうした?」

「ちょっと、調べたいことが有って

自分の身分の説明が難しいものですから」

「ああ、それならDUN製薬の研究員でいいだろう。

実際に在籍して研究結果を出しているんだから

嘘偽りはないはずだ」


亮は薬学部を4年で卒業している為、大学院在学中にDUN製薬の研究員として

所属していて薬剤師の国家試験を持っていた。


「なるほど、給料も貰っていますからね」

「ああ、社会保険、厚生年金もな。庶務課に

連絡すれば1日もあればできるだろう」

「そうですね」


亮は出来上がった名刺を持って佐藤敦子の故郷秋田県秋田市に向かった。

秋田県は山形、新潟継ぐ豪雪地帯だが辛抱強い県民性のおかげで、

精密機械産業が発達してコンデンサーの出荷が日本一である

佐藤敦子の母洋子はそのコンデンサー工場で働いており、

就労後会う事になっていた。


洋子とはボストンで通訳をした事があり、快く会ってくれることになった。

仕事を終えたばかりの洋子は、ボストンで会った時より元気を取り戻していた。

60歳過ぎには見えない肌艶が良く色白の美しい女性だった。


「あの節はお世話になりました」

体を90度に曲げ丁寧にお辞儀をした。

「飛んでもありません、突然押し掛けて」

「いやいや、ゆっくりしていってください」

「何か美味しいものありますか?」

「秋田は米と酒くらいしかないですね」

地元に住む者は地元の美味しいものを意外と知らないものである。


工場から白い軽自動車に乗って敦子の実家へ行って

亮は仏壇に線香を上げ手を合わせた。

仏壇には敦子と男の写真がかざってあった。

「この男性は旦那さんですね海で亡くなった」

「はい、敦子の父親です」

そう言って洋子はこらえられず涙をこぼした。

「そうですか・・・・」

人生経験の少ない亮は慰めの言葉を

なんて言っていいかわからなかった。


「ただいま」

近くの農家に嫁いだ敦子の3歳上の恵子の声が玄関から聞こえた。

居間に来た亮は正座して恵子にあいさつした。

「すみません、突然に」

「あの時はありがとうございました。

ボストンからわざわざ来てくださったんですか?」

恵子は驚いて聞いた。


「いいえ、実家が東京なので帰国したので」

「ありがとうございます。それで犯人は?」

「まだ、今容疑者を捜査中です」

亮は敦子の家族にはそれ以上の事は言えなかった。

「それでも、報告してくれる事はありがたいです」

洋子は小さく手を合わせた。


「日本の警察はこうはいかないですよね」

「はあ」

亮は日本の警察どころか殺人の多いアメリカではもっと連絡など、

してはくれないとは言えなかった。

「ところで、敦子さんの事でちょっと知りたい事があるんですけど」

「何でしょう?」

洋子が体を乗り出した。


「敦子さん、SNS交際相手が外国人と書いてあったんですが」

「それは・・・敦子は東京の女子大学で訛りの事で苦労したんです。

 それで元々英語が得意だったので訛りの無い英語で話せるように

 たくさんの外国人の友達を作っていたんです」

恵子は敦子の外人好きのイメージを払拭したかった。


「わかります。ネイティブな発音ができるように

僕もたくさんの外国人と話して勉強しました」

「その語学力を買われ大手広告代理店に勤めることができたんです」

姉恵子は妹の語学力と言っていたが透けるような白い肌の秋田美人姉妹は

それ以上の魅力を持っていたのかもしれなかった。


「休みの日は英語の家庭教師のアルバイトをしていたんです」

それから先の事は恵子もよくわからなかったが、

年に一度しか帰郷できない敦子の

忙しさは計り知れないものだった。

「努力家だったんですね」

亮は敦子のSNSの内容と恵子の話を頭の中で照合していた。


「はい、冬のボーナスが出ると必ず暖房費として

お金を送ってきてくれたんです」

洋子の質素な暮らしはその金を使った様子がなくおそらく

敦子の結婚資金として用意していたと違いなかった。

亮はこれ以上洋子の涙を見るのが耐えられなかった。

「そろそろ、失礼します」

亮が立ち上がると恵子が手を引いた。


「ちっと待ってください。私の家できりたんぽ鍋を用意したんです」

「えっ?」

「材料が無駄になるのでぜひ」

亮は仕方なしに恵子の家に行った。

「團さん、私の家族です」

亮は恵子の嫁ぎ先の両親と旦那と

その妹と二人の息子を紹介された。

「初めまして團亮です」

亮は深々と頭を下げた。

「まあ、とりあえず一杯」

恵子の夫一郎がぐい飲みを亮に渡した。


亮は注がれた日本酒を飲むと次々に亮の元に酒を注ぎに来た。

最後に来たのは高校生の祥子。

「團さん、ボストンの警察にお勤めなんですか?」

佐々木希似の秋田美人に亮は胸をドキドキさせた。

「いいえ、ボストン警察の通訳です」

「えっ、お仕事は何ですか?」

「大学生です」


「大学は?」

「ハ、ハーバード大学です」

「キャーすごい」

「おお、なんだなんだ」

一郎が体を乗り出した。

「團さん、ハーバード大学なんだって」

「ハーバードってそんなにすごいのか?東大よりすごいのか?」

農家の跡取りの一郎には大学の事など興味がなかった


「ハーバード大学は世界で一番だよ。兄ちゃん」

「おお、世界一の大学生か、サインでも貰っていけ!」

「うん」

祥子はノートを亮に渡した。

「サインしてください」

「えっ?」

「あと、電話番号とメールアドレスも」

祥子はにっこりと笑ってペンを渡した。


「私、来年東京の大学に行くから日本に帰った時

東京を案内してください」

「ああ、そういうわけですね」

亮は名前と住所と電話番号とメールアドレスを書いて渡した。

「ありがとう」

祥子はニコニコ笑ってそれを大切にしまった。

亮はきりたんぽ鍋の美味さに驚いて声を上げた。

「美味しいですね」

「ええ、比内地鶏の出汁が出ているからですよ」

恵子が自慢の料理を褒められて嬉しかった。

「はい、このきりたんぽも香ばしくて美味しいしい、

このゴボウも最高です」


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