佐藤家
「これはうちで取れた米をオヤジが囲炉裏であぶって、
入っている野菜は全部うちで取れた物です」
亮はあまり美味さに箸が止まらなかった。
「さてそろそろ」
亮が立ち上がろうとすると
日本酒の酔いで亮はふらついた。
「あれ?」
「あはは、秋田の酒は美味いから飲み過ぎたんでしょう。
うちに泊まっていってください。
部屋はたくさんありますから」
「そうだよ。泊って行って」
祥子と子供たちが亮の手を引いた。
「それにみんなお酒を飲んじゃって誰も送っていけない」
「はあ」
亮は仕方なしに泊まることにして子供たちの話し相手になった。
「敦子さん私のあこがれだったの!」
祥子が涙を流すと亮はこの家族のためにどうしても犯人を捕まえたかった。
「敦子さんのSNS知ってる?」
「うん」
「外国人のロバートと付き合っていたみたいだけど」
「あれはね、大学の同級生に対しての見得。
大学では結構いじめられたみたい」
「どうして?性格よさそうなのに」
「美人で性格が良くて男に持てると、いじめにあうんだよ。女子は」
「そうか、嫉妬か・・・」
今まで生きていて嫉妬を感じたことが無い亮はピンと来なかったが
女性の感情の難しさ何となくわかった。
亮は遅くまで祥子に勉強と勉強のやり方を教え、
朝早い農家に合わせて起床し
帰って行った。
帰りの秋田新幹線の中では少し敦子の人間像がわかり、
どんな思いで生活を送って想像していた。
次に敦子を知るべき会社の同僚を訪ねることにした。
亮は警視庁の森に電話を掛けた。
「森さん、ボストン警察のダンです」
「ああ、ダンさんどうしたんですか?」
「殺された佐藤敦子さんの事で元同僚の人に話が聞きたいのですが、
連絡先わかりますか?」
「ああ、いいですよ、同僚で中良いのが・・・水瀬華さん電話番号は・・・」
森は亮が日本にいると思っておらず個人情報を簡単に教えてしまった。
「ところで犯人の目途はつきましたか?」
「はい、一人手配中の男がいるんですが、アメリカは広いので中々・・・」
「そうですよね。早く捕まるように祈っています」
「ありがとうございます」
互いに犯人を捜すという共通の思いに友情が芽生えたような気がしていた。
亮が連絡を取ると水瀬と7時に会う約束が取れた。
亮はそれまで秋田土産を美宝堂の社長室に届けた。
「お父さん、いぶりがっこと稲庭うどんです」
「おい、それは家に持っていけ」
「家の分はあります。これは蝶のママに・・・」
「それなら、自分で持っていけ!」
「行けないですよ。あんなに高いところ」
「今晩行くか?」
「はい!」
亮は嬉しそうに笑った。
「秋田県はあまりお土産が無いんです」
「ん~。確か行った事無い県1位じゃなかったか?」
「ええ、魅力度最下位が茨城県で行った事
無い県の最下位が秋田県みたいですね」
「どちらも農業が盛んな県だな」
「はい、加工できる農産物やフルーツは魅力があるんですが、
生ものはあまり人気は無いですね」
「うん、おいおい旅行代理店がやりたいと言わないだろうな」
「いいえ、でもきりたんぽ鍋がおいしかったですよ。
比内地鶏のスープ、香ばしいきりたんぽ、
ゴボウの風味。最高です」
「なるほど、比内地鶏か・・・食べてみたいな」
「はい、比内地鶏の肉買ってきています。
きりたんぽも囲炉裏で焼いてもらいました。
今夜夜食に食べましょう」
「うん。そうだな」
秀樹は亮が蝶に行くのをやめようと言わない所が面白く思った。
亮は水瀬と銀座4丁目で待ち合わせをした。
「初めまして、團亮と申します」
亮はDUN製薬の水瀬に両手で名刺を渡した。
「はい、水瀬と申します」
「亡くなった佐藤敦子さんの事でちょっと話を聞かせてください」
亮はそう言って華をル・フルールへ連れて行った。
「ここ入りたかったんです。でもいつも混んでいて」
「良かった。予約を入れておいたんです」
「ありがとうございます」
製薬会社の研究員を疑っていた華は途端に機嫌が良くなっていた。
「それで何が知りたいの?」
「佐藤敦子さんの交際関係ですけど」
「製薬会社の研究員がどうして?」
「あっ、すみません。僕はボストン警察の通訳をしていて、
佐藤敦子さんの捜査を手伝っているんです」
「えっ、ボストンに住んでいるんですか?」
「はい、留学中です」
「まあ、どこの大学?」
「ハーバードです」
亮は信用を得るために学生証を見せた。
「本当だ!なんでも話ちゃぅ 」
華は学費の高いハーバード大学は亮が金持ちの息子であると分かって
態度が急変した。
「佐藤さんとは水瀬さんが一番親しかったそうですね」
「そうね。机が隣だったから」
「佐藤さんは営業の仕事をしていたそうですね」
「うん、外国人のクライアントがいるのでその対応をしていました。
プレゼン資料の翻訳や通訳で忙しくしていました。
本当はクリエーターをやりたかったみたいだけど」
「でも、職場に不満な有ったわけではないですよね」
「ええ、得意な英語を生かせるからと言っていました」
「他に親しい人は?」
「言っていいのかな?」
華はニコニコ笑った。
「ぜひ、教えてください」
「ケーキもう一ついい?」
「はい、どうぞ」
華はメニューを見て追加のケーキを注文した。
「佐藤さん、不倫していたみたい」
「不倫ですか?」
「会社の上司」
「まさか、櫨場俊夫さん」
「そうそう、ロバートさん」
「ロバート?」
「みんな、櫨場っていう漢字難しくて読めないからみなさん
ロバさんて読むんですよ。
その説明が面倒なのでロバートと呼ばせていたみたいですよ。
まあ、見た目も外人っぽいし違和感はなかったからね」
「そうか、ロバートか・・・・」
亮はニューヨークで会った櫨場が全くそれを言わない事に
疑念を持った。
「それで、櫨場さんと関係が?」
「たぶん、時々親しげに息子さんの話をしていましたから、
時々家にも行っていたみたいです」
「家に行ったら不倫はできないような気がしますけど」
「堂々とすれば奥さんの目も欺けるでしょう」
「確かに堂々とすればだれも疑わないですね」
亮は華の言ったことに納得した。
「ありがとうございます」
亮は立ち上がって頭を下げた。
「もう帰るんですか?」
「えっ」
「私お腹すいちゃった」
亮が時計を見ると7時54分だった。
華は亮のタグホイヤーの時計を目ざとく見た。
「それタグホイヤー?」
「はい、丈夫なので・・・すみません、食事は次回に」
「えっ、また会ってくれるの?」
「はい、何が食べたいですか?」
「肉!」
華はいかにも肉食系だった。
「わかりました。明日でいいですか?」
「うん、いいわよ。他に約束有ったけどキャンセルする」
「いえいえ、約束キャンセルしなくても・・・」




