妙子
「私はジェニファー。よろしく」
互いに挨拶し終えたところに京子がおしぼりを持ってやってきた。
「いらっしゃい。尚子ちゃん」
「すみません。今日は友達を連れてきました」
「うん、ゆっくりして行って」
京子は微笑みながらオーナーの息子亮に頭を下げて行った。
「知り合いなの?」
アマンダが不思議そうな顔をして聞いた。
「ここが私のアルバイト先」
「わあ、素敵。いつも着物を着て仕事するの?動きにくくないの?」
「大丈夫」
「いいなあ、一度着物着てみたい」
日本好きのアマンダは着物にあこがれていた。
「じゃあ、夏に浴衣着せてあげる」
「本当!」
アマンダはテンションが上がって尚子に抱きついた。
「さて、何を注文しようか?」
尚子がメニューを見ようとすると鈴木妙子が
おどおどとして亮に前に立った。
「こんばんは」
「あっ、お待ちしていました」
亮は立ち上がって妙子に席を空けた。
「お邪魔じゃないですか。綺麗な女性ばかりのところに」
「こちらこそすみません」
「あっ」
妙子は尚子の顔を見て声を上げた。
「あのー。AKKの白尾尚子さんですか?」
「そうです。よろしくお願いします」
英語のあまり得意で無い妙子は元アイドル日本人の女性がいてほっとしていた。
デザイナーの妙子にとってアイドルのコスチュームデザインはあこがれだった。
「さあ、好きなもの頼んでください。尚子さんみなさんに料理の説明をお願いします」
亮はジェニファーとアイリーンとアマンダにメニューを見せた。
「團さん、白尾さんとお知り合いなんですね」
「ええ、ボストンでたまたま知り合って」
「警察にお勤めなんですよね」
「それが・・・僕はハーバード大学に留学中でボストン
警察の日本人通訳をしています」
「ハーバード大学!そうなんですか」
妙子は世界一のハーバード大学と聞いて目に色が変わった。
「鈴木さんの隣にいる巨乳の女性がボストン警察の刑事さんです」
亮がジェニファーに声をかけてジェニファーに警察官の身分証を出させた。
「帰国したら鈴木さんのデザインを見てみたいと思っています」
ファッションに詳しい亮は妙子のデザインに興味があった。
「ありがとうございます。でもレディスですけど・・・興味あるんですか?」
「あっ、そうですか・・・」
「どこのブランドですか?興味ある~」
尚子は亮の立場を気遣って助け船を出した。
「青山のブリリアンスショーです。ご存知ですか?」
「知っています。青山の大学の近くですよね」
「そうです。ありがとうございます」
妙子は年齢の高い客層の高級ブランドを
元アイドルの尚子が知っている事が嬉しかった。
「しまった!」
亮は婦人服の興味があるゲイに誤解されたのかと不安になった。アメリカでは
ファッション系、美容系の男はほとんどがゲイだからである。
亮は美宝堂の仕事をしている関係でファッションに詳しいが、
自分の興味があるものが周りの人間も興味があると思い込んでしまう悪い癖があった。
「ねえ、亮。さっきから私たち付き合っているのかって、アイリーンとアマンダの
二人が聞いているんだけど」
「ま、まさか」
尚子が聞くと亮は首を振って慌てて否定した。
「そうよ、全然」
尚子も否定したがその笑顔は引きつっていた。
「本当、じゃあ大学にいるの?」
「いいえ」
アマンダの問いに亮が答えるとアイリーンが聞いた。
「じゃあ、日本にいるの?」
「いいえ」
亮が答えると二人が変な顔をした。
「いいえ、ゲイじゃないですよ。忙しくて女性と付き合う暇が無かっただけです」
亮は必死でいい訳をした。
「うふふ」
妙子が大きな声で笑った。
「分かりました?」
亮は笑っている妙子に聞いた。
「それくらいの英会話分かります。アメリカって思った以上にゲイが多いんですね」
「そうなんです。女性と付き合っていないと怪しまれちゃうんです」
「團さんのような高学歴でイケメンに彼女が居ないのが不思議だわ。
アメリカの女性は誘ってこないの?」
「そうですね。全然」
亮はパティや尚子やハーバード大学の女子大生が
亮に好意を持っている事に全く気付いていなかった。
「へんね。もてそうなのに・・・」
「そうかなあ、アメリカ人にとって日本人は恋愛の対象にならないかもしれませんね」
日本にいた時亮に声をかけてきたのは沙織と良子くらいしか記憶がなかったと言うより
気づいていなかった。
「そうかしら?日本人男性は語学や体格の劣等感で自分に
自信が無さすぎなんじゃないかしら」
尚子はすべてパーフェクトな申し分ない男性なのに女性に奥手なので
亮を勇気づけようと思った。
「ねえダン、あなたはサムライ?」
アイリーンはモップでピストルを持っている男を倒した亮に憧れていた。
「いいえ、剣道を少し」
「ケンドー!」
アイリーンは握りこぶしを重ね両手を前に出した。
それはアイリーンの亮への思いだった。
亮に付き合っている女性がいないと聞いたアイリーンは亮の日本での生活、
アメリカでの生活、将来の目標など質問責めにした。
亮がアイリーンと話をしていて退屈そうな顔をしている妙子に尚子が気づいた。
「鈴木さん、付き合っている男性いるんですか?」
「いいえ、仕事が忙しくてなかなか出会いが無いんですよ。
アイドルは男女交際禁止と聞いたんですけど、本当ですか?」
「そうね。せっかくアイドルになれたのに男女交際ごときで
クビになりたく無いからそれは守っていたわ」
「うふふ、そうよね。本当に團さんと付き合っていないんですか?」
妙子は次第に尚子に心を開いてきた。
「そうね。彼とは時々ニューヨークで会うけどそういう感情にはならないわ」
尚子は交際を否定する亮に従うしかなかった。
「鈴木さんはお付き合いしている男性は?」
「いません。憧れの男性はいますけど」
妙子は曖昧に返事をして亮の方向を見ると
アマンダとアイリーンとジェニファーが親しく話をしていた。
「憧れの男性がいるだけでも羨ましいわ。私なんか男性と縁がない世界で育って
男性慣れしていないから相手の気持ちがわからなくて・・・」
「そうそう、女子高で育った女性が大学や社会に出て恋愛で失敗するのは
それが原因よね」
妙子は元アイドルを目の前にして畏まっていたが共通の話題で
急に親しくなったような気がした。
「ねえ、メールアドレス交換しましょう。日本の様子も教えてほしいし」
「良いんですか?」
妙子は元アイドルとメール交換して嬉しかった。
そこに亮の元に尚子からメールが来た。
「鈴木さんの方は任せて、何を聞き出せばいい?」
「アメリカに友達がいるか聞いていただけますか?」
亮は返事を返した。
「OK」
尚子は亮に返事を返して妙子に聞いた
「鈴木さん、アメリカには友達がいるんですか?」
「いいえ、いません」
「じゃあ、私がアメリカの友達ね」
「うん」
妙子はニコニコと笑った。
二人の会話を聞いていた亮はテーブルを人差し指と中指でトントンと叩いた。
これは中国の風習でお酒やお茶を注いでくれた人へのお礼の合図で有った。
「ねえ、亮のアドレスも聞けばいいのに、彼は奥ゆかしいところが有って
言わないけど、銀座美宝堂の息子よ。きっといい事有るわよ」
「本当!だから私のデザインした服が見たいと言ったのね。ジェニファーぜひ見てほしいわ。
私スタジオDの服が好きなの」
「亮のお姉さんがチーフデザインをなさっていて、時々ニューヨークに来た時会っています」
「本当ですか!」
「ええ、上のお姉さんは宝石デザインをしているんですよ」
「すごい!すごすぎる」
妙子が亮に対する見る目が変わった頃、亮は妙子に聞いた。
「鈴木さん、好きなスポーツは何ですか?」




