接触
ソムリエが持ってきたワインリストを亮が見ていた。
「お肉なので赤ワインでいいですね」
亮はそう言って水瀬の方を見ると水瀬は微笑んでうなずいた。
「エシェゾー・ラスレンセ・マルシェを
お願いします。その前にシャンパンを」
亮はソムリエにワインをオーダーするとソムリエがうなずいた。
「かしこまりました。團様」
「それとラベルお願いします」
「はい」
「すみません、ボルドーとブルゴーニュワイン
どう違うんですか?」
矢島が恥ずかしそうに聞いた。
「そもそも作られる地域がボルドー地方と
ブルゴーニュ地方に分かれていて
地質が違うので基本的に味が違います。
ボルドーは色々なブドウをブレンドして作っているのが
ほとんどが赤ワイン。ブルゴーニュワインは単一品種、
例えば赤ワインはピノノワール、白ワインは
シャルドネとか。ボルドーのワイナリーはシャトー。
ブルゴーニュのワイナリーはドメーヌと呼びます。
ボトルの大きな特徴は細長くていかり肩のボトルが
ボルドーで、なで肩のボトルがブルゴーニュです。
味の違いは飲んでみた方が分かると思います。
今ブルゴーニュワインの赤を頼みました」
「ラベルって何ですか?」
「飲み終えたワインのボトルのラベルを
剥がしてコレクションするんです。
台紙に日付、色、味、香りなんかの
コメントを入れると面白いですよ」
「そうか・・・・面白い」
女子大生たちは同級生の男子大学生に比べ
大人っぽい亮に魅力を感じていた。
女性たちはメニューを見て亮の顔を見た。
「ここ、高いですね。良いんですか?」
「はい、大丈夫です。僕がご馳走します」
「ありがとうございます」
野島は初めて会った男性にフランス料理を
ご馳走になるなんて夢のようだった。
「水瀬さん、焼き肉の方がよかったですか?」
「いいえ、予約が取れないここの方がずっといいです」
「そうですか。よかった」
シャンパンを飲み終えるとワインが注がれた。
そのワインの色は濃い赤いバラのような色で花のような香りに
爽やかなフルーツの味がした。
「美味しい、ワインってこんなに美味しかったの?」
1本2万円以上のワインを飲んだことの
ない女性たちは声を上げた。
「彼女たちとはどういった知り合いなの?」
華は亮の耳元で囁いた。
「昔からの知り合いで日本に帰って
来たので連絡を取ったんです」
「けっこう持てるのね」
「そういう関係じゃないんですけどね」
亮は調査のためとはいえ華に
嘘をつくのに気が重かった。
「昨日の続きですが櫨場俊夫さんの
奥さんってどんな方なんでしょうか?」
「白人のアメリカ人だそうよ」
「そうなんですか。じゃあアメリカに
住んだ方がいいですね櫨場」
「そうみたいですよ。やはりアメリカで
育った人は自己主張が強いので
上司にでも言いたい事言うからかなり
上司には疎まれていたみたい」
「わかります。僕もきっと日本企業には
向かないと思います」
「でも、どうせ美宝堂を継ぐんだから・・・・」
「しっ!彼女たちには内緒なので」
亮は華の耳元で囁くと華は自分だけ
知っている事に満足感を覚えた。
「そうそう、佐藤さんは櫨場さんの息子さんに
勉強を教えていたそうです」
「家庭教師ですか?」
絵里子に愛人は絶対自宅に行かないと言われたが、
家庭教師なら奥さんは疑う事は無いと思っていた。
「櫨場さんはハーフで国語が苦手だし
息子さんも小学4年生まで
アメリカにいたのでほとんど日本語ができなかったそうで
大学受験に向けて佐藤さんが国語と
日本史を教えていたみたいです」
「なるほどそれは大変ですね。外国人は日本語で
カタカナが一番読めないそうですよ」
「えっ?どうして?」
「漢字、ひらがなはセットで勉強をするけど
カタカナは漢字と一緒に勉強することはないから、
カタカナは読めないと言われました」
「わかるような気がする。私だってカタカナは
読みにくいからレシートなんか大変!」
「あはは、確かに読みにくい」
漢字、ひらがな、カタカナと全く違った文字を使いこなす
日本人はすごい国民であると亮は改めて思った。
亮は何故か櫨場俊夫の息子に会ってみたかった。
「それじゃ、櫨場さんの息子さんは大学・・・」
「早大と聞いています。3年か4年か」
「じゃあ、彼女たちと同じ・・・」
亮は体を乗り出して野島に聞いた。
「すみません。櫨場という人同級生にいますか?」
「えっ?はぜばさんですか?」
矢部は野島の顔を見た。
「聞いた事無いし、学部が違うと全く
交流が無いから・・・
明日は土曜日だから大学へ行って調べられないので、
かたっぱしから友達に連絡して調べます。れん・・・」
野島は連絡先を亮に聞こうとしたが水瀬の手前途中でやめた。
「ああ、帰り送っていきます。同じ方向なので」
亮は野島に合図を送った。
「ありがとうございます」
亮が送っていくと聞いて三人は
うらやましそうに野島を見た。
「そういえば團さんってアメリカに
付き合っている人いるんですか?」
「いますよ。背が高くて巨乳で歌が上手くて推理好きな女性が」
亮は相変わらず三人を合体させて話した。
「やはり、持てそうですよね」
「でも、日本人は持てないんですよ」
日本人は外国では持てないと言う持論を亮は言った。
「そうなんですか」
全員が首を傾げた。
「それとも外人が嫌いとか!」
「あはは、日本人の方がいいですよね。
淑やかで。それにアメリカでは付き合うと
恋人握りじゃなくて、人前で抱き合ったり
キスをしたりするので恥ずかしいいですよね」
「いいなあ・・・」
星野が両手を握って恋人ができるのを願った。
食事を終えた六人は美宝堂の前で別れようとしていた。
「ごちそうさまでした、良いんですか?
かなり高かったけど」
亮が払った金額を知っていた水瀬は心配していた。
「大丈夫です」
「團さん、いつまで日本にいらっしゃるんですか?」
「夏休み終わりの八月末までです。
時々向こうに帰るかもしれませんが」
「じゃあ、また会えますね」
「ええ、まあ」
亮は華の問いに答えた。
「夏休みにどこかへ行きましょうよ」
華は就活で忙しそうな四人を横目で見た。
「はい、いいですよ」
亮は華に誤解を与えるとも考えず答えた。
「それから、当分の間ここでドアボーイを
やっているので気軽にお店に入ってきてください。
高くて良いものを見て行ってください。
心が元気になりますよ」
「はーい」
みんなと別れた亮は野島真理子と一緒に歩きだした。
「電話番号教えますね」
「はい」
亮と野島は電話番号を交換した。
「水瀬さんとのデートの邪魔をしてすみません」
「いいえ、別にデートじゃなかったし」
「そうなんですか?付き合っていたかと思っていました。少なくとも
水瀬さんの態度を見ると」
「いいえ、ちょっと知りたいことがあっただけです」
「ああ、櫨場さんですね」
「ところで、野島さんの家はどこですか?」
「東西線の南砂です」
「えっ!魚勝のあるあの有名な砂町商店街あるところですか?
いいなあ」
「はい、安くて活気がある良い商店街ですよ」
美幸は妙に興奮している亮を笑った。
父秀樹が言う。商店街は魚屋、八百屋、肉屋、
それを加工した惣菜屋、焼き鳥屋、おでん屋、
その他飲食店、洋服屋などがバランスよく軒を連ね多くの
客が訪れている砂町商店街は理想の場所だった。
「僕の家より近いので送っていく必要が無いですね。
でも今度行きます商店街がやっている時間に」
「はい、團さんは?」
「僕は目白台です」
「じゃあ、うちの大学からも近いですね」
「はい、家から見えます」
「家から見える?」
美幸は亮がどんなところに
住んでいるか想像もできなかった。
「じゃあ、連絡お待ちしています」
「はい」




