第六フロアは未確定な件について 〜 その瞳に映す景色 〜
【???】
宙を舞う瓦礫すら消え失せ、何も無い虚無空間にただただ漂う人物は目を閉じ、自分の運命を受け入れていた。
(楽しかったなぁ)
人の命が失われていることなど忘れ、純粋に仲間達との会話や触れ合いに一喜一憂していた。
《BOSS》戦を共にくぐり抜け、普通の女の子のようにアクセサリーに目を奪われ、そしてーーー恋に落ちた。
自分には許されない感情であることは承知していた。
入力されたプログラムが、最適な表情や感情を反映していただけかもしれないと分かっていながら、それでも自分に芽生えた感情だけは否定したくなかった。
ここでしか生きられない私が、ここでしか出来ないことを、ここでしか見れない夢を見た。
「きっともう逢えないんだろうな」
(これもプログラムされた言葉なのかもしれない。・・・・・・・だったら)
「ははっ、」
不意に笑みが出る。
声も出た。
頬が緩んだ。
体が震えた。
そして。
まるでエラーでも起こしたように笑っていたはずの顔に不釣り合いな涙が流れていた。
「分かってたのに、」
過ぎた願いだと分かっていたはずの自分を嘲笑ってしまう。
2周目で彼を見つけた時に殺し合う運命だと分かっていても感情が溢れて声をかけてしまった。
そこからはもう止まれなかった。
データの処理速度が追いつかないほどの嫉妬も味わった。
(アクネラさんには悪かったなぁ。すぐに蘇生アイテムが間に合ってよかったけど、前回も彼女のデータはクエストに組み込んだし、あるべきものがあるべきものに戻っただけ。それに今回はソラさんの立ち回りが凄かった。おそらくどこを切り取っても彼の行動が適切。貢献度だけで言えば随一。最初から私というラスボスの存在を警戒していたから情が湧く前に排除しようと動いていた)
【スキル:万物創造】。
あらゆる無機物を創る生産系最強の【スキル】。
それを駆使して闘った末、ナツキは敗北した。ゲーム内という制約で《BOSS》を含むモンスターを生み出し、プレイヤーを殺害してきたプログラムの私には贖罪をする機会はない。
ゆっくり。
ただゆっくり死を受け入れるだけ。
目を閉じ。
「・・・・・」
電脳世界を漂うデータとして誰にも見つかることなく。
「・・・・・」
静かに。
「・・・・・」
思い出を抱いて。
「・・・だ・」
溢れ出す感情を殺して。
「・・・やだよ」
ナツキは消えていく。
もうやり直しなど効かないと分かってしまったからこそ、蓋を開けてしまった感情は紛れもなく彼女自身が流したものだった。
「どうしてあそこであんなことをしたんだろう?」
もう何度目か数えるのも億劫になってくるほどの後悔の連続。
あの時に戻れたらどれだけいいだろうか?
もっと別の方法があって見つけられなかったのか?
言葉のチョイスを誤っていないか?
ほんの少しの勇気を出せていれば?
そんな夢のような話があったら、果たして幸せなのだろうか?
間違いのない選択が納得のいく結末となり幸せを迎えられるのか。
ーーーーこれはそれを証明するための物語ーーーー
それが今、1つの答えを出す。
「なら、こっちに来いよ」
「えっ?」
どこから声が聞こえ、咄嗟に返事をしてしまう。
ただ、諦めていた瞳に光を感じ、目を開けたそこには仲間であり、友であり、殺しの対象であり、そして最愛の人物が映った。
それは待ち焦がれ望んだ景色。
しかしナツキはそれをすぐに受け入れられなかった。
「レイ、ンさ、ん?」
「こっちでははじめましてだな。俺は雨宮涼真。お前は?」
「私は、」
ナツキは言葉に詰まる。
この状況は、雨宮達が様々な奇跡が重なってようやく掴み取ったもので、本来ならば自分に向けられるはずのない権利を譲ってくれたものなのだと察したからだ。
それでも、とナツキは心を区切る。
(もし神様がいて、私に贖罪する機会をくれたのだとしたらどんな非難も受ける覚悟をしていた。でも、いまだけは)
「私は凪月。夜刀神凪月です」
この場にいた全員が納得したわけではない。
だがこの場にいる誰よりも苦悩し、先導してきた雨宮が下した結論に異を唱えるものはいなかった。
「・・・凪月。・・・私達は解放されたと思っていいの?」
「はい。プレイヤー全2021名の生存反応とログアウトが確認されました。ログインダッシュの問題も取り除かれてます」
全ての問題を解決しての完全なクリア。
「《エンペラーオンライン》は『全クリ』されました」




