第六フロアは未確定について 〜 パラドックス 〜
【第6フロア:無月】
「やっと追いついたわよ」
「アラクネ?どうしてここに」
「何言ってるの?」
さも当たり前のように彼女は力強く答える。
純白の装束に黒い意匠を凝らし、両腕には紅い宝石が埋め込まれた漆黒の腕輪が付いていた。
「やっぱりやられっぱなしって私には合わないのよ」
言葉とは裏腹に小刻みに震える体は、虚勢で繕っていることを悟らせるがそれでも彼女はやって来た。
残り2分を切り、答えを出せないままのレインと状況を把握しきれていないアラクネの2人だが目指すモノは変わらない。
ーーー全てを取り戻しつつ、この惨劇を終わらせる。
そして可能性が2つここにある。
1つはレインの指輪が宿す【怠惰】の能力。
もう1つはアラクネの宿す【天魔】の能力。
「【スキル:賢者】【解析】」
両腕の腕輪を解析。
(それぞれが【アイテム複製】と【スキル抽出】。触れたアイテム1つ増やして、その【スキル】を使用できる2つで1つの能力。これなら)
「アラクネ!頼む、これを複製してくれ」
「え?出来るの?」
「やるならこれしかない」
アラクネはレインの差し出したアイテムに触れて複製。
「【強欲:空間掌握】」
その能力を抽出したタイミングでレインが指輪の【スキル】を使い、【聖杯】の能力を奪取したことにより小さいものを含めれば3つの【スキル】かアイテムを現実に持ち帰る権利を得た。
これを元にレインは即座に頭を回す。
「残り1分です!」
「選択する。【スキル:時間回帰】【スキル:万物創造】アイテム【大罪の指輪】」
「承認します!」
ナツキの発言を最後に《エンペラーオンライン》からプレイヤーが姿を消した。
【雨宮宅】
「・・戻ってきた」
ゲームの世界とは違う生身の感触。
仲間との感動の再会を果たし、無事に《エンペラーオンライン》の『全クリ』が完遂されたことを伝える。
ほどなくして目を覚ました久根も加わり雨宮、天童、雪原、音羽、久根、白鳥の6人が顔を合わせる。
「持ち帰ってきたのはこの指輪を含めて3つ」
獲得した【スキル:時間回帰】、【スキル:万物創造】、【特殊武器:大罪の指輪】を軸にした作戦を伝えると雪原が異を唱える。
「・・・作戦は分かった。・・・でも1つ聞いておきたいの。・・・涼真、この中で知らない人はいない?」
「どういう意味?」
「・・・分からないならいい。・・・ごめん話の腰を折ったね。・・・話を戻すけど涼真の作戦には賭けの部分がある。・・・まずはそこをハッキリさせないと」
「そうだな」
指輪を嵌めた手を前に突き出し、作戦を始める。
「【怠惰:夢想賛歌】」
パキンッ!と砕ける指輪。
それが能力発動の代償であることを理解した雨宮は、自分の仮説が1つ証明されたことを理解した。
【怠惰】の【スキル】が《エンペラーオンライン》で使用できなかったのは『現実世界でのみ使用可能』であることを意味していた。
砕けた指輪から伝わる能力は【事象の改変】。
レインがクリアするべき問題は大きく分けて3つ。
1つは全員プレイヤーの蘇生。
これは1周目同様に【スキル:時間回帰】による巻き戻しで解決する。だが再び同じ事を繰り返すだけになってしまう。
「これでゲームの内容を改変する。諸悪の根源『ゲーム内での死=現実世界での死』を消去する」
「待っ、待ってよ。ゲームの存在自体を無くすのは駄目なの?」
「それも考えたけど、おそらく『ナツキ』がいることが問題なんだ。ナツキの持つ【スキル:万物創造】は取り上げた。だけどナツキ自体を《エンペラーオンライン》から取り上げない限りはこの惨劇は真の意味で終わらない」
雨宮はこのゲームの本質を見抜いていた。
苦しみながら闘ったナツキの願い。
それがこのゲームを本当の意味で終わらせることが分かったからこそ、雨宮は全てを叶えることを願った。
「ナツキを現実世界に引っ張り出す」
「「「「ーーーッ!」」」」
「・・・」
全員が目を丸くするなか、雪原だけが訝しんだ顔を作る。
彼女もまたこのゲームの本質を理解しながらも、雨宮が出した結論を受け入れられない。
「どういうことですか?ナツキさんを現実世界に引っ張り出す?彼女はプレイヤーだったんですよね?お姉ちゃんみたいに《BOSS》にさせられたわけじゃ、」
「そういうことかよ。そうだよな。俺らナツキちゃんを現実世界じゃ1回も会ったことないもんな」
「つまりナツキは元々ゲームの中のキャラクターだったってこと?」
無言で頷く雨宮。
過去を取り戻すための力。
現実を書き換えるための力。
未来へ進むための力。
それが今の雨宮が手に入れた力。
「・・・パラドックス」
「どうした?シノブ?」
ポツリと呟く雪原に天童がツッコむ。
「・・・【時間回帰】で巻き戻せば、他2つの【スキル】はなかったことになる。・・・先にナツキを現実世界に引っ張り出して、ゲーム内容を改変した後に【時間回帰】を使えばそれらも巻き戻されてしまうんじゃない?」
雨宮の当初の計画は瓦解する。
雨宮は失念していたわけではない。だが時間のない中で導き出したのは答え故に視界が狭まっていたことも否めない。
客観的に、冷静に物事を俯瞰した雪原の指摘が突き刺さる。
作戦の練り直し。
雨宮は焼き切れるほど回した思考を再び稼働させる。
(確かに忍の言う通りだ。こんな単純なことに気づけなかった。どうする?どうする?どうする?)
深く考えを巡らせる雨宮は思わず目を閉じる。
だが、その肩をポンと何かに叩かれたことに気づいた。
「え?」
「っざけんな!頼れよ!」
「そうでござるよ師匠」
「いつも背負わせてごめん」
「あ、雨宮さんだけで悩まないでください」
「・・・いまは私達もいるから」
仲間達の発言が雨宮の思考に活力を吹き込む。
先程の【無月】とは違う。
ーーー1人じゃない。
その事実は雨宮にとって心を落ち着かせるのに十分すぎた。
「力を貸してくれ」
深く頭を下げ、再び上げた視界には満面の笑みで答える仲間達がいた。
「・・・問題を確認するよ。・・・プレイヤーの蘇生が第一優先として、ネックになってるのは巻き戻した副産物としてゲームも繰り返されてしまう。・・・だからこそ涼真はゲームから死の概念とラスボスだったナツキを取り除こうとしたんだよね」
「そうだ」
「んで手に入れたのは『巻き返し』『事象改変』『生産』。涼真の案も悪くないけど、そのパラドックス?ってのがあるから駄目なんだよな?」
「いまから願いを変更するのとはできないのでござろう?ならば3周目をするのも視野に入れてもいいでござるな」
「でも今回はかなりイレギュラーでしょ?本当なら6人のプレイヤーしか到達できない第6フロアに8人も入れたし、その内の1人は《熾天使》だ、し、、あれ?《熾天使》ってどうなったの?」
『全クリ』の衝撃で全員が忘れていたが、確かに《熾天使》の行方を誰も知らない。ゲーム内のキャラクターが現実世界に出てきているのであれば、それは宿主となっていた人物を乗っ取ってのモノか、はたまた新たな肉体を得ての顕現か。
「待ってください。だとしたら《熾天使》が入っていたプレイヤーは『☠GAMEOVER☠』の判定になってしまうのですか?」
「違う。《災厄》という《称号》を獲得しただけの状態なんだからプレイヤーは死んでいないはずだ」
「だとしたらプレイヤー本人の時間のみを巻き戻せれば」
「ーーーッ!」
(それならゲーム自体をやり直すわけじゃないから、他2つの【スキル】は消えない。だけど俺の【スキル】は対象を細かく選択できるほどの器用なものじゃない)
「みんな、どうだ?」
「・・・可能性は高いと思う。【夢想賛歌】で能力を改変して【時間回帰】の対象を絞る。・・・【万物創造】でナツキを呼び出せれば」
「本当の意味での『全クリ』になる」




