第六フロアは未確定について 〜 全クリ 〜
【第6フロア:無月】
「レインさん、最後に1つお願いがあります」
6分間の死闘の末、ナツキは敗北を認めた。
とはいえプレイヤー側にとっても動ける者は少なく、半数は意識すら無い。精神的なモノも相まって、まさしく辛勝という言葉が相応しい。
「ーーー私を斬ってください」
その言葉がどんな意味を持っていたのかを即座に理解できたのは意識を保てていたレイン、ソラ、《熾天使》、シノブだけだった。
だが、シノブが片腕をなくしているとは思えない剣幕で叫ぶ。
「これ以上、涼真を傷つけないで」
いつもの間を置いた喋り方ではなく、咄嗟に出てしまったのが容易に分かるほど、彼女の中では許せない行為なのだろう。
だが、レインは容赦なく刀を構える。
揺らめく靄は緑色を帯び、真横にその線を引く。
パキンと鏡を割ったような音が響く。
レインですら何を斬ったのか理解していない。
「ありがとうございます」
何か憑き物が落ちたような穏やかな顔をするナツキ。
それに反比例するようにシノブの顔は影を強めていた。
【嫉妬:相対羨望】によってナツキを縛り付けている枷の破壊。
ナツキによる情報の開示と引き換えに、レインの中で誰かの記憶が失われることを理解していたからだ。記憶とは人を形作る上で不可欠な要素であり、既に《十傑》級の【スキル】と記憶を使い切った彼に残されたのはモノは少ない。
「残り時間は3分もありません。簡潔に話をしようにも厳しいので私のデータを渡します」
凄まじい速度でアイコンを操作し、メールを送るナツキ。
彼女にとっては、この時間すら奇跡。
本来ありえない時間をレインを含めた人物達が、文字通り命懸けで稼いでくれた。ボロボロに傷ついて、四肢を欠損した者さえいる。
(私には感傷に浸るような資格はない。でも許されるなら)
「もっと皆といたかったな」
偽りない涙が流れた。
それはナツキにはありえないバグとも言える現象。
タイムリミットを示すように、ナツキの体も崩壊を始める。
粒子となって崩れ始めた体を確かめるように目を瞑るナツキは、優しく話を始める。
「では全ての幕引きといきましょうか」
両手を広げ降伏の意を示す。
すると、一歩、また一歩と近づくレイン。
誰も2人の邪魔はしない。あれだけ好戦的だった《熾天使》すらもこの2人の間に入るのを躊躇った。それほどまでの空気感。
「迷ってごめん」
振り上げた【悪食魔剣】。まるで惜しむように時間が遅くなったとすら錯覚させるほどの時間をレインは体感していた。
刃が体を通り抜けた瞬間。
それが待ち焦がれたはずの『全クリ』の鐘が鳴った。




