第六フロアは未確定について 〜 虹を砕く一閃 〜
【第6フロア:無月】
かつて2000人を超えるプレイヤーが参加し、意気揚々と《エンペラーオンライン》にログインしたプレイヤーの中で、最終第6フロアへ辿り着いたものはたった6名。
《魔王》YAIBA。
《賢者》レイン。
《愚者》ソラ。
《魔弾》ドラゴン。
《星霊》カチュア。
《剣聖》シルファ。
そしてイレギュラーの《堕天》《熾天使》。
〈イレギュラーが起きすぎてる〉
フードの人物は、参加券すべての使用を感じると同時に第5フロアまでが崩壊したことを感じていた。
自身が創造し、配置した《BOSS》を含むNPCは、その悉くを打破される結果。生み出した【虹彩障壁】も既に2枚破壊されている中、フードの人物は目の前に集結した猛者に目を向ける。
怒り。
動揺。
復讐心。
考察。
感情の刃が突き刺さる中、事態を飲み込めていない者達を置き去りにするように《熾天使》が動く。
焔を放ち視界を塞いだかと思えば、上空から振り注ぐ重力の塊。
〈これだけでは破壊できないことは理解しているはず。つまり本命は〉
フードの人物の考えた通り、この目眩ましの間にソラが全員に状況説明を終え、それぞれのベストな位置に移動。
それは今までの関係を度外視して目の前の敵に当たるために組まれた利害の一致。残り5枚の障壁を逸早く破壊することが全員の共通認識となった今、各々の真価が問われる。
〈さすがに厳しくなってきましたね〉
ゆらりと腕を上げたフードの人物から顔は見えなくても驕りが消えたことを直感するプレイヤー達。
〈【スキル∶六刃】〉
放たれた空気を裂く6つの衝撃波。
先陣を切るのは最強のプレイヤーYAIBA。
全員の先頭に達、すべての衝撃波を【流水】で受け流し、間髪入れずに6人が攻撃を繰り出す。
《熾天使》の焔による目眩ましで視界を塞ぎ、シルファの天候操作による焔のブースト、ソラの【重力銃】で常に障壁にダメージを与え続け、本命のカチュアの【スキル∶光輪大砲】が障壁を1枚の砕く。
フードの人物とて油断していたわけではない。
完璧なタイミングで打ち出された攻撃の数々が意識の逸れを誘発し、障壁の破壊へと導いた。
〈今回も【神刀】所有者はあなたでしたか〉
夜空を切り抜いたような刀は、目の前で起きた惨劇も切り取る。
「【スキル∶盤面観測】」
〈最前線で闘っていたあなたに相応しい【神刀】ですね〉
「〈見惚れてる場合か?〉」
連撃の合間を縫って障壁に触れた《熾天使》とドラゴンによる0距離の最高火力によって4枚目の障壁が砕ける。
〈まさか。わざとですよ〉
フードの人物の発光。
その光景に、《黒龍》の【スキル∶爆龍波】を連想させたプレイヤー達に悪寒が走る。
「ソラ!カチュアさん!」
「【スキル∶座標転移】」
「【星霊結界】!」
レインの指示でソラが《熾天使》とドラゴンを転移させ、全員がカチュアの背後についたのと同時にフィールドが光に包まれる。
最高硬度を誇る【星霊結界】にヒビが入るほどの威力を持った光は盾の後ろにいるにも関わらず体を震わせるほど。そして光が止む。
残り3枚の障壁。
絶望的だった7枚の障壁の折り返し地点に届いたことに喜びを見せるものはいなかった。むしろここまでして破壊しきれない障壁の硬さに苛立ちすら感じているほど。
レインは仲間を見る。
(あの障壁を単独で破壊できるのは俺の【悪食魔剣】、《熾天使》の【絶焔】、カチュアさんの【光輪大砲】。ほかの皆も協力ではあるものの障壁を破るだけに至らない可能性が高い)
〈おい悪魔憑き。合わせろ〉
「ーーーッ!?」
《熾天使》の提案に面を食らうレイン。
まさかの共闘という選択肢に胸を躍らせる。
早鐘を打つ心臓を押さえつけ、【神刀∶月詠尊】を【堕天零剣】に切り替える。
〈仕方ないですね。【スキル∶銃王六刃】〉
「ドラ!」
「おらよ!」
隔てるように再生された複数の大盾を影にしてレインと《熾天使》は盾が砕けた瞬間に左右に散る。そして左右に分かれた中心からカチュアの大砲が轟く。
「【光輪大砲】!」
〈【特殊武器∶巨神兵の隊列】〉
フードの人物が取り出した小さな小瓶を叩き割ると、石を固めて象られた巨人6体の出現し、フードの人物の前で大砲を身を挺して防いでいる。
〈【特殊武器∶守護之盾】〉
削られていく巨人を見て分が悪いと判断したのか、黄金の盾を装備する巨人。
盾が出現した瞬間、まるで磁石同士の反発のように大砲と盾は触れ合うことなく巨人が振り上げたと同時に上空へ跳ね飛ばされてしまう。
〈【絶焔∶燦火】〉
続いて0距離から放たれる焔の砲撃。
すぐに巨人を向かわせるが、《熾天使》の二の矢が早い。
〈【絶焔∶弐炎神威】〉
巨人の黄金の盾が再び弾こうと試みるが、6体の隊列が噛み合わないのか焔が歪み、背後にいるフードの人物の障壁に届いてしまう。
そこに仕上げと言わんばかりに第三の矢が放たれる。
〈【絶焔∶一刀華焔】〉
〈耐えなさい!〉
地面ごと焔に飲み込まれた巨人は支えを失い、盾の加護を受けることができず消滅。だが最後に主を守ろうと投擲された盾が地面に刺さり焔の進行を一寸先で食い止める。
「【暴食∶天上晩餐】」
〈あなたを警戒していないわけないでしょう。【スキル∶威嚇咆哮】〉
《黒龍》戦で経験した【スキル】の強制中断。
意識を絶たれた一瞬で持続系の【スキル】は意味なく霧散する。
だが。
「今回は俺じゃねぇよ」
〈え?〉
上空から灼熱の光が挿し、振り返ったフードの人物は声を漏らした。
光の根元にいる人物は神でも従えるかのように巻き上げた焔を拳に溜め、勢いそのままに障壁を殴り壊す。弾かれた《熾天使》の焔を【暴風】によって纏めて力を上乗せして叩きつけたシルファこそが本命だったのだ。
5枚目の障壁破壊。
そして、レインの攻撃は止まらない。
【悪食魔剣】が止められることを念頭に置いたうえでの作戦であるため必然的に次の手を進める。
「【スキル:時間鈍化】」
【剣鬼】ののんの能力を使用したことで、鈍化した世界の中で唯一通常通りに動けるレインは【拳聖】の力を存分に叩き込む。
「【聖拳】」
防御が間に合うはずもなく、時間が戻った瞬間に炸裂する竜巻。
「硬すぎんだろ」
しかし障壁はヒビすら入っていない。
攻撃力の乏しいレインにとっての最高火力は【悪食魔剣】。それを空打ちさせられた今、残るのは【拳聖】の力を借りるだけだが、それでも届かない。
だが、攻撃力0でもレインには関係ない。
「【回帰】」
障壁に触れながら一言。
たったそれだけで障壁が存在しなかった時間に巻き戻せるのだから。
〈6枚目破壊がここまで早いとは驚きですが、〉
フードの人物がついに腰の刀を抜く。
抜き身の刀が空気に触れた瞬間、フードの人物の闘気が爆発的に噴き出す。
今までのがまるで遊びだとでも言わんばかりのその威圧感は、ここに辿り着いた歴戦の猛者達でさえも背筋を凍らせるほど。
〈これが私の【神刀:素戔嗚】です〉
それは新緑を切り取ったような大地の色を輝かせ、かの神が八俣の大蛇の尾から手に入れた日本三大神器【天叢雲】と同一のモノ。
厄除けの神としての側面を持つ神の名がついた刀をフードの人物が一振すると、遅れて8本の斬撃が乱れ飛ぶ。
〈能力は2つ。納刀時間に比例して使用者の身体能力の向上する【スキル:気炎万丈】と、あらゆる【特殊武器】を使用可能にする【スキル:森羅万象】。ラスボスである私に相応しい武器です〉
8本の斬撃に対しての処理は簡単。
YAIBAの【流水】により、完全に無力化された遠距離攻撃かと思われたが捌く度に脱力感が体を襲うような感覚に陥る。
〈【スキル:簒奪威光】。私の攻撃に触れると脱力感を付与するものです。アリアさんの《災厄》堕ちには驚きましたけど、現実の感覚をゲームに落とし込むというのは新たな着眼点でした〉
「お前のせいだろ!」
聖なる拳を輝かせたシルファが駆けるが、フードの人物は余裕を崩さない。
〈【スキル:嵐牙】〉
「【暴風】」
先程の8本の斬撃に対して竜巻を巻き起こし、束ねて掴み取る。
【スキル:天威矛砲】。
周囲の物を巻き込んで投擲された竜巻の槍は、【スキル】を攻略したとしても、巻き込まれた礫などが運動エネルギーそのままに激突する二段構え。
それは確実に最後の障壁を破壊するだけの一撃を秘めていた。
対してフードの人物が取った行動は意外なものだった。
〈これでいいかな?〉
フッ!と障壁が解かれ、両手で【天威矛砲】を受け止めるフードの人物だが、推進力に負け、後方に吹き飛ばされる、
吹き飛ばされながらも槍から手を離さないフードの人物。
やがて壁に激突する数センチ手前で止まる勢いに笑みを零す。
「やっと隙を見せたな」
〈甘いですね〉
障壁が消えた瞬間を狙い、重力の塊を落とすソラだが、消えきっていない推進力を利用して躱しきる。
〈【スキル:森羅万象】〉
【天威矛砲】は勢いを失い、固めた竜巻は解けることなく形を保ったままフードの人物の手に落ちた。
(もしかして、)
「他のプレイヤーの【スキル】所有権の上書き、か」
〈これですこれです。【拳聖】【聖女】【剣聖】という複数の《称号》が掛け合わされて作られた【スキル】が欲しかったんですよ。おまけに『修正』の能力まで付与されてる。これに【素戔嗚】の能力を掛け合わせれば〉
「【スキル:座標転移】」
「逃がすわけないでしょ。【スキル:岩石監獄】」
ガシンッ!と見えない何かがフィールドを囲ったが感じ取れた彼らは、ソラの反応からここからの逃亡が許されないことを理解した。いざという時の脱出装置として機能していたソラの【スキル】の完全封殺。
逃げ場なしで彼らに残されたのはたった1つ。
「全員集まれ!」
レインの号令で集結する仲間達。
【回帰】による巻き戻しを成功させるために両手を前に突き出し、【盤面観測】による未来視を行おうとした彼の目に絶望が映る。
これから放たれる斬撃はレインを避けて仲間の体を割断してしまう未来。【色欲:魅惑幻朧】による誘導を用いても、それは変わらない。
「フェ、【堕天零剣】」
【スキル】を斬る魔剣で少しでも攻撃を防ごうと整えるが未来が変わらない。
分岐する未来を覗き、最前手へ導くための力が、この場にいる全てを用いても絶望しか映さない。
〈もうよろしいですか?〉
死の宣告が告げられる。
投擲された【天威矛砲】は【神刀】の身体能力向上によって更に強力になり即席の攻撃では太刀打ちは出来ない。
そのためレインは【堕天零剣】を前方の地面に突き刺すことで【スキル】の能力を斬り裂く。
いかに強力と言えども【スキル】を斬る【スキル】を持つ魔剣には勝てず、代わりに夥しい数の礫が吐き出される。
各々、持てるアイテムを吐き出し、対処を見せるが間に合わない。
〈さようなら、レインさん〉
寂しさを感じさせる別れの言葉が吐かれ、フードの人物が振り返る。もう見なくても結末が分かっていると。
ーーーだが。
フードの人物が、思いもしないことが起こった。
解くのを忘れていた【虹彩障壁】最後の1枚が破壊され、自分の横を何かが通り抜けたことに驚きが隠せない。
〈ーーーッ!〉
再び、振り返ったフードの人物が視界に捉えたのは、誰1人『☠GAMEOVER☠』にならず生きていた光景。
未来視すら塗り替えた人物は呟いた。
「・・・反撃開始」




