名物はソースの香とともに
入国手続き後、リモネル達は商人一行を装い首都を目指した。
本来は真っすぐに公邸へ赴く立場だが、お忍び周遊である旨をニンイート公へ先触れを出している。
謁見は帰路にてと約束を交わし無礼を詫びた。
思う所があっても、西大陸の6割を牛耳る大帝国の王太子率いる客人を咎められようもないだろう。
「粗末な辻馬車に王太子を乗せるなんて申し訳ないわ」
「それはお互い様だな、皇后様よ」
悪戯な笑みを零す二人とは真逆に居心地悪く顔を曇らすウカイル親子。
辻馬車を装っているが馭者も乗り合わせた客も全員帝国の従者である。
斥候部隊の影も合流しているので中々な人数。
砦では影は4名と把握されていたが、実はもっといたのだ。
留守番を言い渡された黒豹執事は不満顔で見送っていた。今頃は仏頂面でギルド執務をこなしているだろう。
「ナゼルフェン、あなた何人影を放っているの?」
「さてね、想像に任せるよ」
くつくつと揶揄うように笑うだけで答えようとしない、リモネルは膨れて流れる景色を眺めた。
(どうせならスニアンと来たかったわ)
***
首都まで半日、それまで数回ほど河川や小さな集落で休憩をとった。
飼葉を分けてくれた民家で名物だというネギたっぷりの焼き物を食べた。
「ほんまはタコしたいんやけどな」
「たこ・・・ですか?」
「ここは海から離れてるさかい、新鮮なのは週一しか食べらへんのや」
なんのことかよくわからないリモネルに「デビルフィッシュ」のことですとウカイル氏に耳打ちされた。
「あぁ吸盤のついたアレですか、食べられるんですね」
「首都へ着いたら絶対食べましょう」
どんな味だろうかとサッパリ想像つかないタコとやら、早く食べてみたいとリモネルは思う。
「呑気なことだ、本来の目的忘れるなよ」
そう苦言を吐きつつナゼルフェンはちゃっかり自酒を煽っていた。
冷えたエールとタコ焼きは良く合うんだとか、男達は盛り上がっている。
「どっちが呑気なのよぉ」
それから辻馬車に揺られ首都に着いたのはすっかり陽が落ちた頃だった。
しかし、首都は昼のような賑わいで繁華街は明るく魔道ランプがチカチカと眩しかった。
「帝国の街も大きいけど活気が違うわね!」
「商人が集まる国ですからね、事情が無ければ1週間は逗留したいところです」
「あら、ウカイルさんはここに待機なのよ?」
「え!?なぜですかー!」
ザインが「父さん」と呆れ顔で肩をポンと叩いた。
「ついでに同行したこと忘れたらダメだろう?」
さあ、宿を探そうとザインは父親の背を押して人波へ消えて行った。




