グルトルテ教皇庁(閑話)
読み飛ばしても大丈夫な話です。
一応教皇不在中の事情を書きました。
―――その午後、リモネル達はグルトルテ皇国へ転移した。
危惧していたグルトルテ皇国の混乱は無かった。
敬虔な大精霊信仰と、スニアン教皇への高い忠誠心を持つ信徒達の心は揺るがない故であろう。
帰還挨拶の際、留守を預かっていた枢機卿が言う。
「国中枢機能が滞りなく回るのは精霊神の加護と教皇が齎した錬金の賜物でございます」
リモネルは最初はなんて謙遜をされる御仁だろうと思った。
しかし、教皇庁の各所を周りスニアンの規格外な能力に慄く。
彼の錬金による高機能な魔道具に驚いた、なかでも目を剥いたのは算室と呼ばれる所だった。
どのような絡繰りなのか、さっぱり不明な機具が室内にずらり並んでいる。
文書を読み取るという魔道具がするすると紙を飲み込んでいく。
「自動で計算してる」と聞いても頭を傾ぐばかりだ。
国庫を管理する彼ら司祭と修道士達は口々に言う。
「私共は各部から上がる予算案と使途の仕分けくらいで済んでおります」
「決算が楽で給金をいただくのが申し訳ないほどです」
楽とはいうが他にも山とあるだろう、勤勉な彼らには物足りないのかもしれない。
本職の祈祷と救済活動に専念できると喜んでいたので良しとしよう。
砂漠で農作業ばかりしてきたリモネルはカルチャーショックを受けた。
ただ、「そろそろ魔道具のメンテナンスをお願いしたく存じます」と言われた。
リモネルは10日後ほど待ってくださいと苦笑いで答えた。
***
枢機卿や司教達と労いの晩餐会を終え、従者を従え皇后の居室に入る。
結婚式当日が荒事になったため、かなり久しぶりの入室だ。
リモネルはベッドに座り時計を見た、23時過ぎ――自称スニアンの念話はあと1時間ほどで始まる。
ご丁寧なことに、あれから毎夜決まった時間に念話を送ってきている。
湯浴みを済ませ気配消しの幻惑魔道具を外し待機した。
十数分後、それが話しかけてきた。
―――
『愛しいリモ、元気かい?』
腹立たしくもそっくりな声色にリモネルはイラっとしつつ答える。
「ええ、元気にしているわ。スニアンは不自由してない?」
『俺は問題ないよ』
(ふん、スニアンは「俺」なんて言わないわ。)
毎回言い回しが違う気がする、数人交代で念話してるのだろうか?
成りすましの口調がなんだか荒くなっている気がした。
『満月が待ち遠しいよ』
「ええ、スニアン待っていてもうすぐよ」
何言か当たり障りない言葉を交わし念話を終えた。
「あー、気持ち悪い!腹立たしいわ!」
声は優しいのに向こうの気配は憎悪と殺意を綯交ぜにしている。
騙るならもう少し演技して欲しいもんだとリモネルは憤慨する。
リモネルは再び魔道具を身に付けて就寝した。




