小さな影は偵察する
主不在の玉座が青い月光浴びて鈍く光る。
スニアンは拍子抜けした。
いともあっさり辿り着いた魔王の居室を後にする。
城内の警備は穴だらけだ、手抜きではなく手下が無能なのだ。
弱い王を頂に置く魔族達に戦力はほとんどないと思われる。
スイスイと小さな形のまま移動する。
時折、巡回兵のガイコツ騎士とすれ違うがまったく反応しない。
「魔力感知すらできないのか?」
リモネルが造った土傀儡以下という御粗末ぶりにスニアンは脱力した。
一戦交える覚悟で偵察していたのがバカらしくなる。
油断を誘う謀ではないようだ。
魔王側近の居室らしきを巡ってみたが、どこも主不在だった。
どんどんと階下へと進み最下層に辿り着いた。
紫色に灯された大部屋があった、いかにも怪しい空間。
部屋中央に質素なベッドがある、真ん中に膨らみがある誰かが丸まっているのか。
スニアンは姿を消して、壁を伝いスルスルと距離を詰めた。
寝具を囲むように魔族が数人立っていた。
会話はなくベッドの膨らみから嗚咽が聞こえてくるのみ、幾人か頭を振り呆れた仕草をした。
耳を澄ませて聞こえる声は子供のようだ。
「ふ・・う・・・余に期待するな・・・もう嫌だ・・・うぅう」
(この気配は魔王、しかしなぜ子供の声なんだ?)
もしや魔力消費を抑える為の苦肉の策なのではとスニアンは仮定したが。
(ただの幼児退行、それほどまでに疲弊している?)
「王よ、やはり天恵を賜るの聖女を食らうしか無いでしょう」
誰かが野蛮な言葉を吐く、スニアンはギリリと怒りを滾らせた。
側近らの魔力を感知してみた、しかし、どいつもスニアンの魔力に遠く及ばない脆弱さだ。
面倒なのでここで殲滅させても良いかと思ったがとどまる。
魔族もまた大精霊神が生み出した存在だからだ。
《神は等しく地這うモノを愛する》
教皇たる己こそ静謐を望まなければならないのだ。
(ああ、神よ。なんと美しく清澄な枷をくださる)
眼前の敵は禍々しい姿だというのに。
どういう経緯だろうと殲滅は躊躇う、それに頭を失った蛮族らがどのような愚行に走るかわからない。
その元凶を自分が作るわけにいかないと自重した。
膨らみがごそり蠢いて姿を現した。
「余が聖人を食らえば・・・力を授かれるのか?」魔王とは思えぬ無垢な瞳が揺れていた。
夕闇色の髪と瞳、そして青白い肌。背には漆黒の羽が畳まれていた。
流した涙は銀のように輝いた、線の細い容姿はとても美しい。
(堕天使・・・!?)
かつて知る歴代魔王達とは違う在り様にスニアンは慄いた。
数十年前、エルフ族から得た情報と合致しない魔王の姿に訝しむ。




