静かな怒りを孕んで
魔王城、とある一室
冷やりとした空間で、ある者が目を覚ます。
正確には寝たふりをしていただけなのだが。
「・・・肩こりなど何年ぶりかな?」ゴキゴキと体を解し、青銀の長髪をバサバサ振った。
黒曜石の隠し金庫の中でガラス瓶が転がる。
その横で小さな人物は足腰を伸ばし、軽く運動していた。
「目立っては拙いから大きさはこのままでいよう」
ガラス瓶には自分ソックリの人形を造って入れて置く、抜かりなし。
スニアンは尖った耳をピクリとさせてしばし思案する。
「あの悪魔は、なぜ魔王に私を献上しなかったのでしょう?」
魔力量を測ったが側近とはとうてい思えないクズだった、スニアンの魔力の1割もない。
謀反を起こしたところで瞬時に消し炭にされるだけだろう。
「いまの魔王は誰だったかな、うーん」
目を瞑り代々の魔王たちを頭に浮かべて数えた。
「ああ、80年ほど前の代替えはピヴァンスでしたね。世襲制にしてから魔族の弱体化が著しい」
歴代魔王達をエルフ族は常に監視してきた。
ハーフとはいえスニアンも情報共有はしている、スニアンは隠遁生活しているエルフ達へ人間界の情報を流していた。離れていても縁は切れるものではない。
「わたしのリモネルを狙うなど永劫の苦しみを与えても足りないです」
スニアンはわざと攫われていた、すべては敵の動向を探るために。
魔人ごときに捕まるなど侮辱でしかないが堪えてここに至る。
「もう少し待っていて愛しいリモ」
取り合えず、あの厭らしい♀魔人は百回ほど焼き殺してあげましょう。
***
「ひいっ!」
「なんだよ、煩いな」
下僕魔人の二人は日課の掃除中だ、魔族たちは瘴気を吐いているので壁がすぐに黒く汚れる。
ガシガシとブラシを掛ける、魔法で全部消すほど二人に魔力量はない。
「なんか背中に冷たい衝撃が走ったのよ!」
「あ?・・・また最近寒さが酷くなったからな」
魔王の治める魔国ヴォルフゲンドは代替えする度に気候が変動する。
現王ピヴァンスは歴代最弱と言われており、そのせいか大地は痩せて気温は下がる一方だ。
「む!不敬よアンタ!拾われた分際で」
「悪かった、そんなつもりは無い」
雑巾をジャバジャバ濡らし垂れてきた瘴気汚れを拭きとっていく。
「いつまでやっている、また朝餉を抜かれたいか?」
ベルマーが不機嫌に声をかけてきた、二人は大慌てで作業を続けた。
片付けをそそくさと済ますと、ささやかな朝ご飯を貪る。
下僕用の食堂にはなぜかいつもベルマーがいた、自分らと同じ粗末な飯をなぜ共に食べるのか?
ベルマーは珈琲というものを好んで飲む。パンやサラダはほとんど食べず、二人に下賜してくる。
優しいのか厳しいのかよくわからないとデザイアは思いつつ大好きなトマトを味わった。
残虐性を比べれば魔人デザイアのほうが強いと思われる。
「あのうベルマー様、質問をお許しください」
「・・・なんだ?」
「あのハーフエルフの処遇はどうなりますか?」
卑しい笑みで問うデザイアを一瞥して「貴様が知る必要はない」とあしらった。
デザイアは笑顔でさようで。と言った。
腹底では、あのスニアンを拷問して躾けた後、愛人にしたかったと叶うはずもない邪な願望を抱えている。
(獲ってきたの私なのに・・・。下っ端の手柄は掠めとられるばかりだわ)
「食え」とさきほど押し付けられた3個目のパンをガジガジとデザイアは食む。
キャラが全員腹黒になってきました。
聖女ってなんだっけ




