魔王の城にて
《・・・なにも感じない、ここは何処だ?》
スニアンは霞がかった思考に落ちつつも自我は失わないでいた。
《わたしは・・・ああリモネル・・・キミを護れたのか?》
スニアンは少しの間藻掻いたが、再び意識を失った。
深く深く眠り、力をつけようとするかのように。
「あら、一瞬だけど目を開けたわ。すごいわ、さすが教皇様」
ふふふっと下卑た笑みを零し、魔人の女はガラス瓶中のスニアンを透かして見つめていた。
光に晒すとキラキラとそれは美しく煌めいて魅了する。
力を封じられたスニアンは本来のハーフエルフの姿になっていた。
「いい加減にしないか、それになんだその醜い姿は」
「はん?仕方ないでしょ適当な器がなかったのよ」
パチンと指を弾き妖艶な姿に戻る、青白い肌に暗闇のような髪をバサリと靡かせた。
すると器にされていた初老の女がゴロリと転がった。
「ふう、これもう要らないわね」
ワシっと女の頭を掴むとベランダへ引き摺っていく、無情にもぽいっと投げ捨てた。
ここは荒れ地の山に聳える居城、バルコニーの下は崖である。
男の魔人は嫌そうに眉間に皺寄せた。
「ふふ、だいじょうぶよグリフォンの餌になるでしょ。ほら!落ちる前に咥えて行ったわ」
アハハハッ相変わらずがっつきで獰猛ねぇと笑い転げている。
数十年前はお前も人間だったろうに。
魔人の男、名はアンガーと呼ばれている。人だった時の名は捨てた。
女のほうはデザイア。
主である魔王に拾われた孤児の彼らは、魔の力を授かり魔人として仕えている。
配下としは一番の下っ端である、滅多に謁見も許されない立場。
ゴミのような扱いが常である、それでも彼らは魔王を敬い崇拝している。
襤褸雑巾以下だった彼らに居場所をくれた、世に存在する意味をくれた。
城に一室も賜り飢える辛さもなくなった、なんの文句があろうか。
人族の奴隷に比べれば高待遇だと言える。
「勅命を果たせなかったのに、呑気なやつらめ」背後から憎悪の塊のような気配がした。
二人は慌てて床に伏せた、直属の上司である上級悪魔ベルマーが不機嫌なオーラで威嚇する。
「口を開くことを許す、言い訳を吐いてみろ」
「は、恐れながら申し上げます。聖女ではありませんが、その夫スニアン教皇を捕獲しました」
「ほう、片割れを連れてきたと」
面白そうに喉を震わせ嗤うベルマー。
不機嫌さは和らぎ空気が変わる、二人は漸く安堵した。
きょうも生きていける、それだけでうれしいと頭を垂れた。




