蜜に群がるのは虫だけじゃない1
ゴーレム暴露会が終わり、平穏を取り戻そうとしたリモネル。
解せない課題はいろいろ残るもののギルド運営を優先することにした。
スニアンことグロワールは通話魔道具を設置して、グルトルテ皇国へ戻った。
彼は去る前に大錬金術を駆使し、白絹宮殿のいたるところを改造施していた。
「便利ですから」ニッコリと圧を込めた笑顔でごり押しされた。
「便利ねぇ・・・?」リモネルは嘆息した。
手鏡風の通話機を見つめる。
改造されたのは、照明、窓、姿見、水瓶、円形のラグなど。
リモネルの寝室も改造しようとしたので「変態」と罵り止めさせた。
居間の壁には強引に作られた大きなアーチ窓。
どういう仕組みなのか、窓の向こうはスニアンの執務室の様子が見える。
目が合ったスニアンが手をブンブン振っている。
しかし、窓を開けると、いつものオアシスが点在する砂漠が広がっている。
「ふむ、空間が繋がったわけじゃないのね」
パタリと閉じれば窓枠にスニアンのドアップ。
「きゃあ!?」
び、ビックリした・・・・
リモネルはカーテンを設置し隙間なく閉めたのは言うまでもない。
「始終監視されてるみたいで居心地最悪よ」
「むぷぅ」とサンディが同意した。
手鏡からスニアンの抗議が聞こえたが知ったことではない。
「仕事してください!」
***
「パイナップル試食会は盛況だったようね」
ウカイル氏からの手紙には、皇帝がいたく気に入られ定期購入を契約したと綴られていた。
「皇太子様のコネを使ったわね、遣り手ねぇ」
「父さんは商魂逞しいのが長所で短所です」カインは呆れつつも感心する。
近頃は砂嵐も滅多に起こらなくなった、大きな被害もなく順調である。
砂糖工場の仮稼働から1週間後の事。
「んー砂糖の精製品質に悩むわ」
「うん、不純物はだいぶ減ったんだ、でも本来の良さを生かすべきかで意見が割れてね」
綺麗にしすぎると風味が減るのである。
「ねぇ、用途別に品質を変えて数種作れば良くない?」
「それは理想だね、だが量産ができないとコストが上がってしまうよ」
加工場の見学を兼ねて職人と会議したいとリモネルが主張した。
「わかった、ギルド長兼任社長様の仰せのままに」
カインが揶揄うので小突いた。
加工場はサトウキビ畑の真ん中にリモネルが建てた。
貯蔵庫は運搬に配慮して広めの空き地をとり、真っすぐ延ばした街道は交易路まで繋げた。
「職人頭をやらせていただいてます、アルグと申します。鑑定スキル持ちです」
彼は40代の元酒蔵経営者。
「サトウキビは素晴らしい食材です!天職になりそうです」
糖液から酒も造れると興奮していた。
「まあ、お酒が造れるなんて!市場が広がるわね!」
「はい、それから質問にありました工程についてですが」
工程で発生する問題点、人手とコストのすり合わせなどを協議した。
「煮詰める時の熱は大問題ね。すぐに空調の改善をするわ」
糖蜜を練っていた職人たちはふぅふぅと苦し気だった。
冷えたフルーツと飲み物、氷などを毎日無償提供することを約束した。
「職員用の食堂も設置するわ、もちろんご飯は無料です。それから医務室も必要ね」
福利厚生の充実は基本よね!
アルグは数点の砂糖を試食しましょうとすすめてきた。
メインになるであろう精製しない黒糖は癖があるがなかなかの味わいだ。
濾過などを経た液糖を結晶化させた砂糖は癖がなく食べやすい、紅茶に使うのに良い。
「うん、贅沢品よね。手間を考えると高価になってしまうわ」
かつて王室で使った記憶があるが、こんなに手間がかかるとは思わなかった。
精製の過程で出る黒い廃糖蜜はえぐみが多いが栄養価が高い。
「うん、美味しいというより滋養薬って感じね」
「はい、鑑定結果でも必須栄養素含有とでています」とアルグが言う。
カインは難しい顔でガリガリと品質と工程別の純利益の計算に没頭している。
味とコスパに悩む協議は数日かかった。
それから1か月、本稼働が始まった。
「成果はトントンだね、暫くは黒糖メインだから価格は抑えて販路を広げよう」
カインが帳簿とにらめっこしつつコスト削減に余念がない。
「そうね、糖類は他国でも作られてるから品質向上に努めましょう」
やっと農業商業面でギルドらしくなったかしら・・・。
ちょっと遠い目になったリモネルであった。




