スニアン大司教
華麗な仕草で礼をとるスニアン・グルトルテ大司教。
リモネルはなんとも言えない違和感を覚える。
満月の儀でしか会っていないはずの御仁に妙な親近感。
スニアンの邪気の無い笑顔のせいかもしれないが、こんな人だったろうか?
氷の荊を纏ったような人だったはずだわ。
「貴方は本当にスニアン大司教でしょうか?」
訝るリモネルに寂し気に眉を下げるスニアン、まるで捨てられた子犬のよう。
なぜかしら、彼の仕草にデジャブを感じて仕方ない。
青みががった長い銀糸を揺らし「貴女を恋い慕うスニアンでございます」と言った。
砂糖を吐くような台詞がスニアンの口から出たのを師団が驚愕して固まっている。
もちろんリモネルが一番驚いた。
「は、はあ・・・?メニアには奇病でも蔓延してるのかしら」
スニアンは甚だ遺憾だと頭を振った。
押し問答も面倒になり審判の門を潜って貰う。
もっとも弾かれた人はお帰り頂いく、スニアンと師団数名が入領できた。
とうぜんオランジェルとコルパは入れない。
憤慨したオランジェルは強行突破しようと何度も弾かれていた。
飽きるまでやってれば良い、スニアンの加護なしでいつまで粘れるか知らないけど。
魔物のお腹に入らないよう気を付けて?
「アレのことは放っておけば良い、数日は加護効果は保ちますよ」
宮殿に招いたスニアンはまるで主のようにシックリした。
白絹の調度品は彼の容姿に合い過ぎてリモネルは悔しいと思った。
美しい人はズルイ。
「ハーブティーは口にあいますか?」
フレッシュハーブが良い香気を放ち、部屋に充満していく。
「はい、たいへん気に入りました。」にっこり微笑み堪能している。
「なんかむず痒い、私の家なのに身の置き場がないわ」
「なぜです?」スニアンはハテ?と頭を傾いだ。
「さて、使節団を送ったメニアの意図を伺いましょう」
スニアンはリモネルの問に「どうでもいいのですが」と前置きして語りだした。
***
「なるほど・・・敵に塩を送れと」
スニアン大司教の前置きの意味を知りうんざりした。
「使者としては無責任な発言ですが、捨て置いて良いと思います」
大司教は王族への嫌悪を隠そうとしない、私を追い出した事に立腹してる旨を何度も言う。
「私は聖女なんでしょうか?帝国皇太子様は錬金術寄りだとおっしゃいました」
「ふむ、錬金も魔術も本質は同じです、使い手の素質差で変わるだけ」
「そうなのですか?」
「コルパは教師失格だ・・・。貴女の能力に嫉妬でもしたのでしょうね」
暗殺されそうになった事が蘇り、なんとなく腑に落ちる。
魔力と魔法の発動条件について学び直すべきとスニアンは進言する。
「聖魔法も使えるのでしょう?」
「はい、治癒魔法程度は・・・。診療所で難民を診ています」
「難民を無償で受け入れる度量は素晴らしい、慈愛に満ちたまさに聖女の所業です」
誉めそやす大司教に些かうさん臭さを感じた。
「救いの手は差し伸べました、でも反感と嫌悪を向けられました。善意って難しいですね」
その後、己に黒い思いが芽生えた事も隠さず伝えた。
「私は自分勝手な人間で腹黒なんです、俗物な自分が聖女だなんてあり得ない」
苦笑して告白した私に大司教は
「人は罪深い生き物なのです、心を歪め悪意を持つ悪鬼になる者は多い、それを正し導くのが教会の使命です。
ですが、大司教たる私でさえ私欲私怨は持ってしまうのですよ」と苦渋の顔見せた。
人は生き続ける限り罪を重ねると大司教は言った。
「それでも貴女は民を・・・人を救いたいですか?」
メニアの民を捨て置くのは出来ないと私は答えた。
「王家は滅びても民の命は救いたいです」
リモネルの決意に「貴女は立派な聖女です」と優しく笑んだ。




