ギルマスは語る(大精霊神と聖女)
燻し銀のサラサラ髪を垂らし、琥珀の瞳を細め睨んでいる。
(田舎者か、確かにね)
ウカイル準男爵が挨拶を述べようとすると。
「挨拶はいい、時間の無駄だ。要件をのべよ」
うわー嫌いなタイプ、アホ王子より最悪だと、つい顔を顰めてしまう。
「小娘、威圧を向けるとは良い度胸だ。お前が話せ」
うぐっ、たしかに私が当事者ではあるけど・・・。
私はすうっと息を吸い。
「私はリモネル、わけ合ってグロワ・・悪魔の鍋に住んでおる者。こちらに伺ったのはギルド支部の設立を嘆願に参りましたが気が変わりました。田舎者風情がお耳を患わせた事お詫び申し上げます」
「さ、帰りましょう!」
驚愕するウカイル家を引っ張り退室しようとした。
「待て、悪魔の鍋だと!?おまえ・・いや貴女は聖女リモネルか」
椅子を倒す勢いでこちらへ迫ってきた、目で射殺す気かもしれない。
咄嗟に自身まわりに結界を張った、肩を掴もうとした手がバシリと撥ね返りギルマスが後ろへよろけた。
痛みに顔を歪めるギルマスは不快MAXな面持ちだ。
「なぜ私の事をご存じで?」
「ふ、帝国の間諜を舐めないで頂きたい、もっともあれだけの騒ぎだ、知らんほうがおかしい」
魔物森境界で揉めた一連を言ってるのだろう。
メニアシトラ難民の受け入れは確かに目立ち過ぎた。
「メニアの失策は各国に知れ渡っています、しかし極貧国など攻める価値なしと捨て置くようです。何れ砂漠化し滅びる運命」
急に敬語になったギルマスに疑念を抱いたが、聞き捨てならない事に反応した。
「砂漠化!?」
「おや、ご存じないですか。かつて悪魔の鍋には国があったのですよ、200年前滅びましたが」
疲弊したとはいえ、メニアシトラが消えゆく運命と聞き愕然とした。
「貴方が憂う必要はない、聖女を虐げた愚国が神罰を受けただけのこと」
「よくわからないわ・・・」青褪め震えるばかりの私。
「ふむ、貴方は世界の理に疎すぎる、僭越ですが教授いたしましょう」
***
大精霊神は世界を統べる絶対的存在である。
大精霊神は世界を創造した。
大地に命が息吹いた時、聖なる力を下賜した。
大精霊は彼らを等しく愛した、そして永劫の繁栄を約束したのである。
聖人は徳を積んだ者が精霊に祝福を受ける、聖女は清い魔力を持ち生まれた者へ大精霊から祝福を賜り使命を担う。
聖女の力は生涯を閉じると、次の聖魔法を持つ者へ継承される。
命あるものすべてが聖女を愛すれば等しく恩寵を賜る、これを反故し驕れば神罰を受け滅びる。
「滅びたのはアルロ王国と言います、聖女を虐げ都合よい国を運営し滅びました」
「そうでしたか・・・」まるでメニアそのものではないか。
「・・・聖典の一部引用して説明しました、聖女様は学んだはずですね」
「いいえ、私が王城で教えて頂いたことは少し違います」
神勅を受けた聖女は王族と国益と繁栄のため、身命を賭して生涯を王と国の為捧げる義務を担う者である。
そして民は王の恩恵を享受し国を支える礎と成れ・・・
「なるほど、愚国は聖女を奴隷か道具として扱ってきたのだな、王族だけが精霊神に愛される存在だとでも思っているようだ」ハハハハッと昏い笑い声でギルマスは王国を罵った。
「メニアシトラは王族こそが大精霊神の愛し子だと申しておりました」
私は当時聞いたままを伝えた、ギルマスは鬼の形相である。
「僥倖ではないか、神を愚弄する反乱分子を屠れるのですよ」
「しかし、捻じ曲げた教示を信じ生きてきた民に罪はありません」
極論で言えば裁かれるのは王族だけで良い。
「さすが聖女様、無償奉仕で難民を受け入れるわけですな」
「いいえ、私は聖女の資格などありません」
自分勝手だし、すべてを受け入れるほどの寛容さも優しさも持ってないわ。
都合の悪い国を捨てて一人になろうとしたもの。
「貴女は・・・ただの人間だ、聖人君子なんてただの理想です」
「え?」
授かった神力は貴女の思うまま使い、心の赴くまま救えば良いのです。とギルマスは笑った。
初めて優しい瞳をリモネルに向けた。




