聖女じゃありません
門を通れたのは全体の7割くらいであった。
弱者を装った盗賊団、乗っ取りを企てた貴族たちなどは当然弾かれて樹木や地面に伸されていた。
なかでも厄介だったのが王国の使者たちだ。
「王勅命を受け、平民リモネルを聖女再認定する旨を届けに参った、畏まって門を開け」
真っ赤な印璽封がされた書簡をふんぞり返って突き出した。
「お断りしまーす、帰ってください」
「貴様ぁ!王命に逆ら・・」
リモネルは懐から《高次呪詛盟約書翰》を掲げながら声高に言った。
「私は王国民ではないので、勅命だろうが従う義務はありません。そして、この書面の通り貴国は私の事情に介入できませんよ?」
使者たちは真っ青になった。
「高次呪詛盟約を破ると・・・ご存じですよね?」黒い笑みを向けた。
「そ、そんな!我が王はなんてものを!!」
使者たちは、こんな重要事項聞いてないのなんのと大騒ぎである。
高次呪詛盟約書翰は国家間で交わす重要書類の一つで、発行した国側が交わした相手の不利益になることを一切できない呪いが掛けられた書面である。
盟約の一つでも破ればその国は消滅する、呪いの効果は絶対である、故にほとんど発行はされない。
戦争後でもない限り・・・。
使者たちは韋駄天走りで自国へ帰って行く。
「魔物に気を付けてー?」
パチンと指を弾くと加護魔法が消え去った。
***
ゴーレム達に引率され、ぞろぞろと移民たちの移動が始まった。
彼らは広大な砂漠に併存するオアシスを眺めて感嘆していたり、恐れていたり忙しい。
恐縮している大人達をよそに、子供等はゴッツやマールを恰好の遊び相手に認定して纏わりついた。
「わああ高ーい」「きゃーブランコみたーい」など腕や肩によじ登って大はしゃぎだ。
大勢の移動は時間がかかり仮住まいの場所到着は明日になった。
西防御壁付近でも良かったが、王国に近すぎるため砂漠中央まで移動となった。
なにより結界拠点のファウ達の衛の邪魔になりかねない。
12か所の外周オアシスの一つに到着した、さきほどの審判門から3キロほど南に位置する。
「きょうはここでキャンプして貰うわ、女性方は食事の給仕を手伝って。男子はテントを立てて、冷えない様に毛布を敷くのよ」
バナナ葉の皿や器の物珍しさに食事は賑やかなものだった。
土の中で焼いたパンの実に子供たちが驚愕しつつ貪っていた。
「パンじゃないのに、パンみたーい」
「おもしろーい!」
「へんな実あまーい、なにこれ?」
「ねちねちあまーい」
「全員把握は無理のようね」
「識字率が低いのです、申し訳ない。ですが明後日までには纏めてみせます」
結界障壁の前で会話した老人、ジャジさんがしばらくの間、まとめ役を担うこととなった。
総勢約320名。
今後も増えることを覚悟しなきゃならないだろう。
「ジャジさん、半年は衣食住の保証はします。とりあえずは家族持ちと独身者の数を報告してください。砂漠は夜間冷え込みます、毛布は必ず全員配布できるように!」
「はいぃ!ありがとうございます聖女様!」
「聖女じゃないですーー!」
ジャジさんが額を土にめり込ませて土下座するので困る。
「「「「せいじょさまー、おやすみなさーい!」」」」
「聖女じゃありませーん、おやすみー」
リモネルは自分のテントへ雪崩込んだ。
「あーーー疲れた、メンドクサイ・・・」
寝仕度をしてたサンディがよしよしと頭をポンポンしてくれた。
「私は人と関わるの大嫌いなの・・・だからぼっちで砂漠にきたのよ?なんでこーなっ・・・」
睡魔に捕らわれたリモネルは寝落ちてしまう。
サンディは毛布をきっちり掛けなおして「むぷ。〇〇す・・み」と小さく言った。




