第22話一度きりのお願い
「最近魔法に真剣だけど、一体何があったの?」
魔法陣を書きながら、フィンネが俺に質問をする。俺は魔法陣を展開しながら、質問に答える。
「魔法を使えるようになって、もっと効率よく依頼を達成したいんだ」
これは嘘だ。俺はフィンネに合いたくて、魔法を習う時間を増やしているんだ。依頼を受け始めて2週間が経つが、俺は毎日、依頼と交互にフィンネに魔法を習いに来ていた。
「まあ、私は魔法を教えるのは楽しいからいいんだけど…毎日依頼と勉強じゃ体壊しちゃうよ?」
「大丈夫だよ。今のところ悪いところはないし」
「…そういう事を言う人に限って、後にひどいことになるのよ…」
フィンネがジっと見つめてくる。俺はこの目に弱い。この目を覗き込むと、吸い込まれるような浮遊感がでる。魔力が関係しているのか、それとも俺がただフィンネに弱いのかはわからない。
「うーん…じゃあ今度遊びに行かないかい!そうすれば気晴らしになると思うし」
我ながら名案だと思った。フィンネのアドバイスにかこつけてるから断りににくいし、フィンネと会う時間を増やせる。完璧だ!
「仕方ないわね…明後日の朝でいいかしら?」
「俺は構わないよ!場所はどこがいい?」
「案内もかねるから…ギルド前の噴水がいいわ」
「わかった!じゃあ楽しみにしてるよ!」
そう言って俺は魔法陣を消すと、部屋から出ようとした
「ちょっと!まだ教えてる途中よ!」
しまった!と俺はバツの悪い表情をし、また授業にもどる。
(明後日楽しみだなあ)
「――はっ!」
俺はここで目が覚めた。体には起きた直後特有の倦怠感と、眠気の中に吐き気を覚える。フィンネが生きていた頃の夢だ。最近はこの夢ばかりだ。最初にこの夢を見たのは魔物を始めて斬った日、それから魔物を斬った日は必ずこの夢を見る。
「うっ!」
俺は吐き気が抑えきれなくなり、宿に一つしかないトイレに向かう。いつもこうだ。この夢を見ると、魔物を斬ったときのことを思い出し、手に残る感触と罪悪感で吐き気が抑えきれなくなる。フィンネの魂を定着させる位魔物を斬ったとき、俺の体はどうなっているのだろうか。
「でも…やるしかないんだ」
俺は胃の中を空にすると、食堂に向かう。食べなきゃ体が持たない。それに、食事をするだけで多少の幸福感が得られるし。
俺は食事を終えると、部屋に戻り鎧を着込む。銀色の鎧で、中世の騎士が来ていた鎧をスマートにしたような見た目をしている。この鎧はミスリル銀と呼ばれる金属で出来たもので、軽くて硬いという単純な利点があり、魔力の伝達力が高く、魔法の発動を阻害しにくいというものだ。パッと見では普通の鎧を違いがわからないので、特に質問をされることはない。だが、
「そもそも、俺に話しかける人なんてそういないしなあ…なんか狂人とか呼ばれてるし」
俺が狂人と呼ばれる理由は、ハバキリの声が他人に聞こえないことを知らなかったのと、フィンネが生き返る!なんてことを吹聴したからだと思っている。実際には、それ以外の理由もあるのだが、俺はまだそれを知らなかった。
『俺の声が他にも聞こえると、作戦とか建てるときバレてしまうかもしれないだろ』
ハバキリが俺に話しかけてくる。
『それに、俺の回復能力は言いふらすものじゃないぜ、この能力だけで利用しようと近づいてくる輩はいるんだぜ?』
それはもっともである。
『まあいい。今日も魔物を斬って、フィンネ嬢のための魔力を貯めようぜ、なあ相棒?』
フィンネのことになると弱いことを知って、ハバキリはこんなことを言う。
「わかってる。行こう」
俺は2本の剣を腰に挿し、ハバキリを紐でゆるく結んで背中にくくりつける。今日も依頼を受けよう。
俺がギルドに行くと、鎧は着ておらず、ワンピースのような服で仁王立ちをした、仏頂面のティアがいた。昨日あんなにひどく扱ったのに、今日も来る元気があるとは。
「あなたに一つ言いたいことがあるの」
ティアがとても怒りに満ちた声で俺に言う。
「なんだ…?」
俺はできる限り愛想なしにティアに向かって声をかける。
「あなたがどんなに拒絶しても、私はあなたとパーティを組まなきゃいけないの」
どんな理由があっても、俺のようなやつと組んでもいいことがないし、俺の目的のためには一人のほうが都合がいい。どうやって断ろうかと考えていたら
「だから私はあなたにこう言うわ」
ティアはそう言うと、左の拳を心臓に当て、右の掌を左の拳の上に置く。一体なんだ?と思うと。
「一度きりの願いと、イシュタルの神スピルとクリエに誓う。どうか私、ティア・マドルとパーティを組んで欲しい。」
そう言って、ティアが頭を下げる。この時は知らなかったが、この行為は人に物事を頼む最上級の頼み方だそうだ。だが、俺はそれとは関係なしに思っていたことがひとつあった。
(こんなに正々堂々と頼み込んで来るとは…これじゃ断れない…)
俺はこういう、命令やお願いごとには弱いのだ。誰かが断りの命令をしてくれなきゃ俺は…
『いいじゃんか、組んでやれよ。困ったら適当に怪我させて退場してもらえばいいさ』
ハバキリは止めないらしい。ティアと始めてあった日にパーティを組むのはやめろと言ったのはこいつなのに…なんて手のひら返しを…しかたない。
「わかった。そこまで言うのなら、いいだろう。だが、邪魔だけはするなよ」
「それは依頼しだいね。私にここまで言わせたんだもの、やりたいことはやらせてもらうわ」
ティアはそう言うと魔法陣を出し、自分の体をくぐらせた。魔法陣が通ったところから鎧が出現し、体を通り切ると、頭まで鎧を着込んだティアの姿があった。
「さあ、依頼を受けましょう。あなたが選んでもいいわ」
「上から目線か…」
俺は呆れながらも、一つの依頼の紙を取る。内容は【特急依頼 魔物ラージドラゴンの討伐】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




