第21話頭痛の種
――魔物 魔の力を持つ人ではない物全般を差す。一般的に知られている物ではスライムやゴーレム、ドラゴンなどがいる。基本的には自然に発生する現象のようなもので、繁殖や増殖などはしない。魔物は周りの生物を吸収して自分の力を強くするという本能をもつものが多い。理性は大小にかかわらずあり、ドラゴンは人間と変わらないほどの知能を持つ者もいる。人工的に作られた魔物もおり、ゴーレムはそれに当たる。人工的に作られた魔物は基本的に人間に使役されており、人間を襲うことはない。
ティアは今馬車に揺られていた。大和を追いかけていった結果、成り行きで馬車に乗ることになったのだ。
せっかくなので、と大和を観察していると、相変わらず頭が痛くなってくる。大和の格好はスタンダードな鎧で、甲を付けていないため顔が出ている。腰には2本の剣をつけており、背中には柄が長い剣を紐でくくりつけている。
(背中の剣に話しかけてると思ったら剣の飾りを覗き込んだり、急に魔法陣を出したと思ったらしまうし、落ち着きがないってレベルじゃないわ)
ティアは目頭を抑えようとした、だが鎧を着込んでいたので鉄鋼と甲がぶつかり、音をたてる。
(なんでこんな初歩的ミスを私が…!)
馬車が目的地に着く。テンカの街の南にある平地だ。ここに来たということはここに魔物がいるのだろう。とティアは考えた。大和が馬車を降りると、ティアも慌てて降りる。王都の馬車よりも幾分高い金額を払う。ティアが降りるのを確認すると、馬車はすぐに出発していった。留まっていると魔物に襲われる可能性が高くなる。それを恐れたのだろう。
(魔物の数が増えているから、この値段も仕方ないわね。テンカの周りだけこんなに魔物が増えた理由はあるのかしら?)
ここ最近、テンカの街の周りには不自然なほど魔物の出現数が増えている。魔物が見つけられると、すぐに討伐の依頼を出されるのだが、平均で月に5件くらいだった。だが、今は日に2件も依頼が来るのである。この急激な数の増加は人為的なものを感じるとティアは思っていた。そんなことを考えていると、大和の周りに魔法陣が浮かんでいる。何らかの魔法を使用しているようだ。
(なんでいきなり魔法を?)
大和の周りの魔法陣が消えると、南の方向に向けて歩き出した。ティアはそれについていく。
「なんでついてくるんだ?」
大和が無表情でティアに質問する。迷惑に思っているのかもしれない。
「あなたとパーティを組んでいるからよ。私、仕事は手を抜かないタイプなの」
「そうか…勝手にするといいさ。でも、魔物は俺が狩る。これだけは譲れない」
「勝手にすれば」
「……」
「……」
会話が止まる。気まずい空気だなと思いながらも、平地を歩いてゆく。
(なんで周りを探す様子もなしに歩いているのかしら?魔物がどこにいるかなんてわからないのに)
魔物を探す時は基本的にしらみつぶしになる。魔物によっては決まった場所にいたりするものの、大半は習性等がわからないまま討伐することが多いのである。
(そもそもなんの魔物か私知らないじゃない!)
「ねえ、さっきの依頼はなんの魔物の討伐なの?」
「ケンタウロスだ」
「ケンタウロス?あの亜人種の?」
ケンタウロス…亜人種と呼ばれる魔物の一種で、人間の上半身に馬の下半身を持つ。知性は持つものの、せいぜい子ども程度で武器を振り回すように獲物を襲う。亜人種の討伐を嫌う冒険者は多く、自分に近い見た目の生物を殺すことに抵抗を持つのは仕方ないと言われている。
「あなた人型の魔物を狩るのに抵抗は無いの?」
「魔物は魔物だ、形なんて関係ない。もしお前が人の形に化けた魔物でも抵抗なく切れる」
「…さいですか」
それは物騒な考えね。とティアが言う。ティア自身も人型の魔物を切るのに今は抵抗がないが、昔はあった。人は形に囚われやすいのである。
「……静かにしろ。近くにいる」
「……」
「あれだ」
大和が指差した方向にケンタウロスがいた。今は休んでいるのか、槍を足元において、水を飲んでいる。
「…なんか気がそがれるわね…でも今がチャンスかしら?」
「お前はここで見てろ、俺一人でいい」
「……わかったわ」
ティアの任務は大和の実力を見るというものも含まれている。これはいいチャンスだと思ったのだ。
「危なくなったら私も行くからね」
その言葉は大和の耳に入らなかった。
ケンタウロスは自分に近づいてくる足音に気づき、槍を構えた。
「こいつで間違いないよな」
『ああ、間違いない。この気配は魔物だ』
ケンタウロスの目の前に柄の長い剣を持った男が現れる。手元の剣に向かって話しかける姿は不気味だった。
「グエエエエエエ!!」
ケンタウロスが奇声を上げながら大和に向かって槍を突き出す。4本の足で地面を蹴り出したことにより、眼で追えるスピードではなかった。
大和は魔法陣を広げ、ケンタウロスの足を凍らせる。足が凍ってしまったケンタウロスは動けなくなり、その勢いのまま地面に叩きつけられる。
大和はハバキリを構えると、そのまま振りかぶりケンタウロスの首をはねる。さらに胴体を斬る。腕を斬る。凍った足を斬る。斬る。斬る。斬る。ケンタウロスの体はもはや肉片を言えるほど細かくなっていた。
ティアのいた場所に血の匂いが漂ってくる。
(なんでここまでするの…?)
首をはねた時点で討伐は成功しているので、ここまでする必要はない。大和の行為は意味のないオーバーキルだ。ティアは大和の顔を見る。そこには、満面の笑みを浮かべる大和の姿があった。
大和は剣の血を拭うと背中に戻し、ケンタウロスの首を持つと、来た道をもどっていく。ティアの姿を見かけると
「俺は一人でやっていける。こんな俺とパーティは組みたくないだろ?」
「…私を気遣ってるのかしら?」
「いや、お前を殺してギルドに目をつけられたくないだけだ」
(やっぱりこいつとは相容れないわ!)
ティアは大和とパーティを組まなくてもいいようにはどうするか考えながら、帰路についた。
最近予定が立て込み、忙しい上に頭痛が多発したため時間が取れませんでした。暇を見つけては修正と次の話を書く予定です。ここまで読んでいただき、ありがとうごさいます。




