廃ダンジョンで挨拶回りをしてスライム畜養を開始した
俺はダンジョンに大桶を三つ持ち込んだ。A、B、C級をそれぞれ入れるためだ。
ダンジョンに大桶を抱えてダンジョンに入る俺。絵面はシュールだったはずだ。
それからエサ箱。これは中身を盗まれないように厳重に施錠できるものを選んだ。これを持ち込む姿も、もちろんシュールだ。
大桶やエサ箱を設えた後は、ご近所回りだ。
ゴーストさんとは今後も仲良くしていきたい。
「これから近くでスライム養殖を始めます。よろしくお願いします」
「まあ騒音とか悪臭とかがなければいいよ」
ありがとうございます。
「何かご入り用なものはありますか?」
「そうだな……金貨をくれ」
俺は、は?なんで?と思った。固定モンスターは外に出られない。御用聞きに来てもらうのはありだろうけど、よほどお金持ちでないと来てくれないだろう。
「失礼ながら、何に使うんですか?」
「若い冒険者が経験値稼ぎに来るだろ?倒される度に金貨が出ていくんだ」
「なるほど」
「若いやつらにある程度のカネは渡してやらないと、やる気も出ないだろ?」
なんという気配り!よこしまなことを考えててすみませんでした……。
* * *
設えた後に、ダンジョンから出て宿屋に入った。その時、宿屋の主人に呼び止められた。今日の主人は、どことなく怒っているようだ。
「あんた、大桶を持ってダンジョンに入ったろ?」
――この言い方。敵意を持たれてる。
「え、ええ、まあ……」
俺は愛想笑いでごまかそうとした。
「ダンジョンに入る初心者が減ったらどうしてくれるんだよ……」
結構な口調で言われた。
それでも俺はニコニコするしかなかった。
――いまは我慢、我慢。
* * *
一泊してから俺はエドワードさんのところに行った。エドワードさんはスライムの選別をしていた。
「スライムを売って下さい!」
「売らねえ」
エドワードさんは作業を止めずに言った。
「そ……」
「タダで持ってけ」
エドワードさんが言った。俺はじっとエドワードさんの背中を見つめた。
黙々と選別作業を続けていたが、作業を止めて俺の方をみた。
「儲かったら分け前をよこせ」
「でも失敗したら……」
「そんな先のことを考えるな」
俺はハッとした。今はスライム養殖に心血を注がないといけない。失敗した時のことは失敗したときに考えたらいいーーそう言われた気がした。
「ずっと助けられっぱなしですね、俺……」
エドワードさんはまた背中を向けた。
「恩返しをしてくれるっていうなら、スライム畜養が成功してからにしてくれ」
「ありがとうございます!」
ポイ、ポイとリズム良くスライムが別々の桶に放り込まれている。エドワードさんは姿勢を変えなかった。
「成功させられる、お前ならできる」
* * *
俺は遠慮なくスライムをもらってきた。そしてダンジョンには、荷車ごと入った。
スライム養殖するならダンジョンは寂れているほどいい。盛況だったころのダンジョンに荷車を入れようものなら、ルール違反だとかうるさかったと思うし、場違い感が強くてできなかったと思う。
ザバーッ!
C級スライムを大桶に入れた。いまのところA級もB級もいない。大桶一つだけスライムで一杯になっている。
そして廃ダンジョンでのスライム畜養が始まった。
とはいえバケツで試したことを大桶でするだけだ。スライムが鳴けばエサを与えれば済む。あとは大桶がモンスターとか人間とかに襲われないようにするだけだ。
ただ、人間はほとんど問題ない。テントの中でいて、何か気配がしたら警戒するけど、人間だったら放っておく。
――ガチャ。
ドアの開く音が聞こえた。
――グエーッ!
テントの中にまでゴーストさんの断末魔が飛び込んでくる。またやられたな、ご苦労様。でもすぐに復活するから。
――ガチャ。
――グエーッ!
そうだった。同じパーティが何度も何度も襲うんだった。うーん、こういうのが続くのか。でも来るなとも言えないし……。
――ガチャ。
――グエーッ!
……我慢するしかないか。
俺は寝返りを打った。
* * *
――ゴトゴトゴト。
俺は異音で目を覚ました。
何かは大体分かる。テントの隙間から外を見ると、スライムの大桶を叩いたり引っ掻いたりするモンスターがいた。
――コボルトか。
養殖中のスライムを食べたいのだろう。大桶のフタを開けようとしているようだ。
しかしお前にはやらん。それは売り物だ。
俺は剣を抜いてテントを飛び出た。
ザンッ!
ここは地下一階の初心者レベル。エンカウントモンスターを一撃で倒せないようでは、元冒険者の名折れだ。
剣を納めながら、俺は考えた。
――コボルトって養殖できるのか?
いや、いや。なんでも養殖するもんじゃないよな。
* * *
エサやりとモンスター駆除と、ゴーストさんの悲鳴とが繰り返し続いた。
そして何日か経った。おそらく二週間ぐらいだろう。元の大桶からB級以上になったものを選別した。
やはり概算でA級が10%、B級が40%。エドワードさんの作業場で試したのと同じ数字だった。
うん、よくできた。
バケツを持って向かう先はエドワードさん。スローライフはたぶんその先にある。けど無いかも知れない。
お読み頂きありがとうございます。
全15話の第9話でした。
「俺」は攻略済みダンジョンでの畜養事業を本格的に推進するようです。
ゴーストさんは、実はいいやつです。
この元ネタは「マーフィーズゴースト」です。
やられる時の断末魔は、こちらはドラえもんの「オシシ仮面」です。
20歳でぇす☆
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