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9/15

廃ダンジョンで挨拶回りをしてスライム畜養を開始した

 俺はダンジョンに大桶を三つ持ち込んだ。A、B、C級をそれぞれ入れるためだ。


 ダンジョンに大桶を抱えてダンジョンに入る俺。絵面はシュールだったはずだ。


 それからエサ箱。これは中身を盗まれないように厳重に施錠できるものを選んだ。これを持ち込む姿も、もちろんシュールだ。


 大桶やエサ箱を設えた後は、ご近所回りだ。


 ゴーストさんとは今後も仲良くしていきたい。


「これから近くでスライム養殖を始めます。よろしくお願いします」


「まあ騒音とか悪臭とかがなければいいよ」


 ありがとうございます。


「何かご入り用なものはありますか?」


「そうだな……金貨をくれ」


 俺は、は?なんで?と思った。固定モンスターは外に出られない。御用聞きに来てもらうのはありだろうけど、よほどお金持ちでないと来てくれないだろう。


「失礼ながら、何に使うんですか?」


「若い冒険者が経験値稼ぎに来るだろ?倒される度に金貨が出ていくんだ」


「なるほど」


「若いやつらにある程度のカネは渡してやらないと、やる気も出ないだろ?」


 なんという気配り!よこしまなことを考えててすみませんでした……。


 * * *


 設えた後に、ダンジョンから出て宿屋に入った。その時、宿屋の主人に呼び止められた。今日の主人は、どことなく怒っているようだ。


「あんた、大桶を持ってダンジョンに入ったろ?」


――この言い方。敵意を持たれてる。


「え、ええ、まあ……」


 俺は愛想笑いでごまかそうとした。


「ダンジョンに入る初心者が減ったらどうしてくれるんだよ……」


 結構な口調で言われた。


 それでも俺はニコニコするしかなかった。


――いまは我慢、我慢。


 * * *


 一泊してから俺はエドワードさんのところに行った。エドワードさんはスライムの選別をしていた。


「スライムを売って下さい!」


「売らねえ」


 エドワードさんは作業を止めずに言った。


「そ……」


「タダで持ってけ」


 エドワードさんが言った。俺はじっとエドワードさんの背中を見つめた。


 黙々と選別作業を続けていたが、作業を止めて俺の方をみた。


「儲かったら分け前をよこせ」


「でも失敗したら……」


「そんな先のことを考えるな」


 俺はハッとした。今はスライム養殖に心血を注がないといけない。失敗した時のことは失敗したときに考えたらいいーーそう言われた気がした。


「ずっと助けられっぱなしですね、俺……」


 エドワードさんはまた背中を向けた。


「恩返しをしてくれるっていうなら、スライム畜養が成功してからにしてくれ」


「ありがとうございます!」


 ポイ、ポイとリズム良くスライムが別々の桶に放り込まれている。エドワードさんは姿勢を変えなかった。


「成功させられる、お前ならできる」


 * * *


 俺は遠慮なくスライムをもらってきた。そしてダンジョンには、荷車ごと入った。


 スライム養殖するならダンジョンは寂れているほどいい。盛況だったころのダンジョンに荷車を入れようものなら、ルール違反だとかうるさかったと思うし、場違い感が強くてできなかったと思う。


 ザバーッ!


 C級スライムを大桶に入れた。いまのところA級もB級もいない。大桶一つだけスライムで一杯になっている。


 そして廃ダンジョンでのスライム畜養が始まった。


 とはいえバケツで試したことを大桶でするだけだ。スライムが鳴けばエサを与えれば済む。あとは大桶がモンスターとか人間とかに襲われないようにするだけだ。


 ただ、人間はほとんど問題ない。テントの中でいて、何か気配がしたら警戒するけど、人間だったら放っておく。


――ガチャ。


 ドアの開く音が聞こえた。


――グエーッ!


 テントの中にまでゴーストさんの断末魔が飛び込んでくる。またやられたな、ご苦労様。でもすぐに復活するから。


――ガチャ。


――グエーッ!


 そうだった。同じパーティが何度も何度も襲うんだった。うーん、こういうのが続くのか。でも来るなとも言えないし……。


――ガチャ。


――グエーッ!


……我慢するしかないか。


 俺は寝返りを打った。


 * * *


――ゴトゴトゴト。


 俺は異音で目を覚ました。


 何かは大体分かる。テントの隙間から外を見ると、スライムの大桶を叩いたり引っ掻いたりするモンスターがいた。


――コボルトか。


 養殖中のスライムを食べたいのだろう。大桶のフタを開けようとしているようだ。


 しかしお前にはやらん。それは売り物だ。


 俺は剣を抜いてテントを飛び出た。


 ザンッ!


 ここは地下一階の初心者レベル。エンカウントモンスターを一撃で倒せないようでは、元冒険者の名折れだ。


 剣を納めながら、俺は考えた。


――コボルトって養殖できるのか?


 いや、いや。なんでも養殖するもんじゃないよな。


 * * *


 エサやりとモンスター駆除と、ゴーストさんの悲鳴とが繰り返し続いた。


 そして何日か経った。おそらく二週間ぐらいだろう。元の大桶からB級以上になったものを選別した。


 やはり概算でA級が10%、B級が40%。エドワードさんの作業場で試したのと同じ数字だった。


 うん、よくできた。


 バケツを持って向かう先はエドワードさん。スローライフはたぶんその先にある。けど無いかも知れない。

お読み頂きありがとうございます。

全15話の第9話でした。


「俺」は攻略済みダンジョンでの畜養事業を本格的に推進するようです。


ゴーストさんは、実はいいやつです。

この元ネタは「マーフィーズゴースト」です。

やられる時の断末魔は、こちらはドラえもんの「オシシ仮面」です。


20歳でぇす☆


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