廃ダンジョンでスライムを育てた
廃ダンジョンでスライム養殖。思いきった事業を思い付いたものだ。やるのか?やるさ。
俺はまずは宿屋の主人に、ダンジョンを使わせてもらえるようお願いした。
「ダンジョンの一部を貸してください」
「知らねえよ」
主人はにべもない。
ダンジョンは誰の持ち物というわけでもないんだそうだ。
このへん、主人はあまり悪人ではない。人によっては自分の持ち物でないのに賃借料をせびるだろう。
とにかく、ダンジョンに大桶を持ち込んでも良くなった。
場所は……地下一階の少し奥にしようか。
あるドアに手を掛けた瞬間、ドアの向こう側のことを思い出した。
――ここ、固定モンスターがいるぞ!
俺は落ち着いて、ノックした。
「ゴーストさんいますか?」
しばらくの沈黙。
「……いるよ?」
やっぱりいた。奥からくぐもった声が聞こえた。
「何でもないです」
俺はすぐに離れた。
ここは初心者が経験値稼ぎに来るところだ。倒されても倒されても出現する。
ということは、この奥あたりは意外と穴場かもしれない。みんなゴーストさんに目が行くから、その影で養殖ができそうだ。
俺はバケツを一つダンジョンに持ち込んだ。それにダンジョン内で捕まえたスライムを数体入れた。
後はエサを与えながら待つだけだ。ダンジョン内で待つのは好きではないが、昔はダンジョン内でキャンプをよく張っていたから嫌いでもない。
ただし暇。とにかく暇。
することと言えば、仕事しては、スライムにエサをあげることだ。それと、エンカウントするモンスターを倒す。これは趣味でなくスライムを護るためだ。ただ、このダンジョンのモンスターはドアの向こうに潜んでいる場合が多いので、ドアを開かない俺はほとんどエンカウントしない。
そして時刻が分からないのは致命的だ。ダンジョン内は昼と夜の区別がない。今が何時なのか分からない。今日が何月何日なのかも分からない。どれだけ時間が経ったか分からない時ほど時間はゆっくり進むものだ。1時間でも永遠に感じそう。
意外とありがたいのが、体内時計がしっかりしたモンスター達だ。スライムどもは腹が減ったら高い声で鳴く。決まった分量を与えているので、同じぐらいの時間が経てばまた鳴く。2回で1日だ。
時々モンスターが来るが、俺がいるから大丈夫。スライムを食べられないようにしている。
そうして、やはり時々ゴーストさんを倒しに来る初心者がいる。彼らが直接見えないところで養殖をやっていて、音だけ聞こえる。倒したらドアを開けて出て、すぐにまたドアを開けて入った。そうしたらゴーストさんが現れる。また戦う。
――正直言ってうるさい。
スライム養殖をやっている身からすると、ゴーストさん退治をして何が面白いんだと思う。
……いやまて。俺もあれは面白くなかったな。
スライムに野菜くずを与えながらぼんやり過去の自分を思い出したりもした。
そして数日後、俺はバケツの中を確認した。
スライムの等級を見てみる。スライム猟(手伝い)を始めてそんなには経っていないので、玄人とは言えない。しかし前からスライムは見ていたので、それなりにみる目はあったのだろう。自画自賛?そうだよ悪いか。でも全くの素人よりかは、冒険者をやってたぶん、知ってるとは思ってる。
で、俺の眼では、スライムはB級になっていた。
俺はニヤニヤが止まらなかった。ここで養殖ができる目星がついたんだ。少なくとも厳冬期でも問題のない温度だと分かった。
俺はもう、いてもたってもいられずに、バケツを持ってダンジョンを駆け出てきた。そしてそのままエドワードさんの家に向かった。
エドワードさんは驚いていた。
「どうしたんだ急に?」
「こいつの等級を見てください」
玄関でエドワードさんの前に立ってバケツを差し出した。バケツを差し出すのは、マナーはよく知らないけど、絵的にはたぶん失礼な態度だったと思う。
「まあまて」
エドワードさんが心なしか少しだけ笑っている。俺のバケツを取って、作業場にもっていった。俺もエドワードさんに付いて行った。
「……B級だな」
エドワードさんははっきりと言った。
「はい」
俺はニコニコしながら頷いた。
「どうした?どこで見つけた?」
「見つけたんじゃないんです」
俺はさらに笑いが止まらなかった。
「ダンジョンで養殖できそうなんです」
「え?」
エドワードさん、驚いていた。呆れていたのかもしれないけど。ダンジョンで養殖は不思議に思うだろう。
「どういうことだ?」
エドワードさんが興味を持ってくれた。俺はかいつまんで説明した。
「久々に行ったダンジョンが廃ダンジョンになってたんです」
「仕事が無かったのか」
「ええ。それでダンジョンの中に入ったんです。そうしたら……」
「どうなった?」
思ったよりエドワードさん、合いの手を入れてくれる。
「ダンジョン内の温度が安定してるんですよね。厳冬期なのに寒くない。そのために、厳冬期でもスライムとエンカウントするんです」
「ほうほう」
「ここまで来たら育てるしかないでしょ?」
エドワードさんは頷いた。
「まあそうだな。スライム畜養をやってるヤツならそう思うよな」
エドワードさんがゆっくりと呟いた。すぐに言葉をつづけた。
「それと元冒険者なのも幸いしたな」
そう。元冒険者でないとダンジョンに入らなかった。ある程度慣れているから地下1階でキャンプを張れた。冒険者とスライム猟師(見習い)の両方の経験が新たなスライム生産方法に近づけたのだと思う。
「こういうことができるのは、そうそういないぞ」
エドワードさんに褒められた。素直にうれしい。
「廃ダンジョンでの養殖は、もうちょっと頑張るのか?まだバケツ段階だよな?」
「ええ。大桶を入れようかなと思ってます」
うん、スローライフは、しばらくいいわ。
お読み頂きありがとうございます。
全15話の第8話でした。
「俺」は攻略済みダンジョンで畜養に手を染めました。そしてうまくいったようです。
まだ養殖ではなく畜養ですが、気温が安定していていいみたいです。
これから養殖までいけるでしょうか?もう少しかかりそうですね。
ゴーストさんとは今後どう付き合っていくのでしょうか?
きになりますね?(かなり強引)
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