好事魔多し
俺はスライム畜養の準備を着々と進めた。早ければ早いほど収入が増える。なら早く始めないといけない。
エドワードさんが獲ってきたスライムのうちD級のものだけを貰った。冬になってスライムは減ってて、C級は売る方にまわした。
D級スライムに、まずは野菜くずのエサを与えて、半分ぐらいがC級になるまで待つ。数日後には思ったように昇格している。
そしてC級だけを残してエンドウ豆を与える。数日で、B級に昇格する。もう数日でA級も現れる。
これはもう病み付きになる。ほぼ価値がないはずのスライムにエサを与えるだけで高く売れるスライムになるんだから。
そうして初出荷の日。エドワードさんの目利きは確かだけど、それでも本当に等級通りに買ってくれるかまでは確証が持てなかった。
俺はエドワードさんと一緒に、ドラゴン牧場に持っていった。俺は恐る恐るだった。エドワードさんはといえば、いつもとそんなに変わりなさそうだった。
ドラゴン牧場のオーナーさんも、エドワードさんと同じくスライムの目利きは得意だ。そしてオーナーさんも等級に間違いないと言っていた。
ただ、万が一ということで、C級価格で買い取り、A級、B級と同じような効果があったら、差額を後払いするということで決まった。
「効果って何ですか?」
帰る途中で、エドワードさんに聞いた。
「俺もよくは知らないんだが……食い付きと栄養価らしい。何日か与えて様子を見るんだそうだ」
スライム畜養も、何日かエンドウ豆を与えないと分からない。同じなんだと思った。
* * *
数日後、ドラゴン牧場に納品に行ったら、オーナーさん、にこにこしてた。
「あんたんとこの畜養とか言ったか?あれのスライム、同じだったよ!あれはいいな」
俺とエドワードさんは頭を下げた。
「で、いくらだい?」
オーナーさんにエドワードさんが答えた。
「今回使っていただいたスライムは、A級で10杯10インです」
「20インのところ10イン?半額じゃねえか!?」
オーナーさんも混乱してるようだ。
「本当にそれでいいのか?」
「ええ。今回は初めてしたから……」
エドワードさんは表情を変えずに言った。オーナーさんは納得したようだ。
「なるほど。実験台だから今回は安いと」
「はい」
エドワードさんは頷いた。
「なら、C級として買ったから、差額の8インになるのか?」
「そうです」
「じゃあ、B級も半額なのか?通常は10杯10インだが」
「5インです。差額は3インです」
オーナーさん、歓迎してるんだけど、少し警戒もしてるように見えた。
「今回はあくまで特別価格で」
エドワードさんの最後の一言で、取引は成立した。
帰り道、エドワードさんがぽつりと言った。
「安けりゃいいってものでもないのか……」
俺もよく分からないから、頷くしかなかった。
「でも、あれでしょ?高くするとなんか落ち着かないんでしょう?」
俺はエドワードさんに尋ねた。エドワードさんは何も言わずに頷いた。こういうところが商売下手なんだろうと思う。俺もそうだが。
値付けは本格的な販売を始める前に決着させないといけない。でも、その前に大問題が吹き出すことになった。
* * *
しばらく後、厳冬期に入った初日の朝。
「なんだ!」
俺の声ね。本気で叫んだ。
「どうした!?」
エドワードさんが駆けつけてくれた。
そのときの俺は、多分、大桶をじっと見ていたんだと思う。大桶の中には、寒さに勝てなかったスライムの亡骸があった。生き残ったものはいない。
「見ての通りです……」
俺はエドワードさんに言った。正確には呟くぐらいの声しか出てなかったと思う。
「今回は納入の約束をしてなくて良かったじゃないか」
エドワードさんが慰めてくれた。その通りで、良かったとは思う。
スライム調達コストはただ同然。エサもゴミ同然のものを買ってる。費用は大したことはない。それに、今回は、この品質のものをこの数量で納入しますという約束はしていなかった。約束してないから反古にしたわけではない。
ただ、もし級ごとの数量の約束をしていたらと考えると、気楽にはいられない。少しずつか一気にかは知らないけど、信用をなくすのは確実だ。
「これはまずいです。今後のことを考えると……」
俺はなんとか口にした。
「厳冬期には諦めるか……」
エドワードさんが言った。俺もそう思う。
「春になったら畜養を再開しましょう」
俺が提案した。
「それまではスライム猟だけになりますが……」
エドワードさんは心配そうに尋ねてくれた。
「おまえはどうするんだ?」
エドワードさんには、スライム猟だけなら冬は雇えないと言われていた。畜養の試験をするから雇ってもらえてた。それができなくなる、ということは、俺は要なしだ。
「そんなことはないぞ」
エドワードさんが言ってくれた。
「ここまでたどりつけたんだから、春まで待てばいい。その間のカネは面倒を見れる」
エドワードさんからのありがたい申し出。俺はかなり揺さぶられた。しかし、俺は決心していた。エドワードさんは日雇いよりも長く雇ってくれた。口数は少ないけど疑問には真摯に答えてくれた。そのうえ吉と出るか凶と出るかが全く分からないスライム畜養をやらせてくれた。これ以上、俺は甘えていられないと思った。スライムが全滅したのを見た瞬間に、そう決めていた。
「春まではどこかで食い繋ぎます」
エドワードさんの目をじっと見つめて言った。エドワードさん、かなり驚いていた。
「さすがにそういう話にはならんだろう」
俺は微笑みを作った。
「いえ、これは、俺の矜持です」
「やけに難しい言葉を使うな……」
エドワードさんの、そこじゃない的な言葉に、少しだけ緊張が緩んだ。
「俺は、ここだけは譲りたくないんです。自分の足で立ちたいんです」
俺は少し鼻声になったと思う。
「また……春には雇ってください」
俺が言うと、エドワードさんは、頷いた。
「おう。待ってるぞ」
エドワードさんは俺の肩に手を乗せた。
スローライフよりも俺の明日は大丈夫なんだろうか……?
お読み頂きありがとうございます。
全15話の6話でした。
畜養はうまくいったんだけど、厳冬期には全滅してしまいました。
そして、春になるまで師匠のもとを離れる決意をします。
エドワードさん本当にいい人だったので、頼りっぱなしになるのに気が引けたのでしょう。
好事魔多しだけど、ここからどうなるんでしょう?気になりますね!?(強引)
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