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4/15

スライム畜養に手を出す俺

 日を追うごとに慣れてきた。ただし、スライム猟に慣れたというよりは、重い荷車を引くのに慣れたかなと。


 網カゴの置き方はバッチリ分かった。昼間は藪の中にいて、夜になると藪から藪を移動しているのだ。これは夜中に見たから間違いない。


 だんだんとスライムの等級も見えてきた。


 S級は発光個体であればサイズとか鮮度とかは気にしてない。たぶん、発光成分に関わりがあるのだろう。


 A、Bの見分け方は、まだ完全には分からない。結構エドワードさんの選別を見てきたけど、本当にダメだ。


 とはいえ、俺はエドワードさんの弟子ではない。あくまで期間雇用だ。


 もうすぐ冬が来る。冬はスライムが取れにくくなる。そのときには契約終了となる。なんとなく未来の出来事だと思っていたが、まもなくそうなる。


「やはり厳しいでしょうか」


 俺はエドワードさんに聞いた。無理だろうなと思いながら。


「厳しい」


 やっぱり無理だった。


「すまんが他の仕事でもして食いつないでくれ」


 ええ。もとからそのつもりでいたので大丈夫です。お金も多少は貯まりました。


「冬はどうする?」


 エドワードさんに尋ねられて、俺の考えをぶつけてみた。


「スライムの飼育をしようかと思ってます」


「はあ?」


 エドワードさんは驚いていた。しかも否定的になっている。


「飼育してどうする?」


「スライムの適切な給餌、温度とかを見極めようと思います」


「その見極めとやらをしてどうする?」


 俺は一度大きめに息を吸って吐いた。


「目標はスライムの自家養殖です」


 しんとした。


「それは無理だろう」


 エドワードさんが言った。寡黙なぶん一言が重い。それにスライム猟の経験豊富な人の意見だ。その人にこう言われても、いいえ無理じゃないですと叫んで続行するのは、現実の見えない愚か者だ。


「無理じゃないです」


 そう、俺は愚か者だ。


「……無理な気がします」


 すぐに前言をマイルドにした。エドワードさんに楯突けない、それこそ無理です。


「ただ、思ったんです。雑魚扱いされますが、増殖は非常に早いです。それから、臆病なぶん、建物内で飼う方が育ちやすいんじゃないかとも思います」


「ふむ……」


 同意っぽい相槌にも聞こえなくはないが、表情を見ると否定的だ。


「それと、土地も広くなくていいですし、何より需要はかなりありますよね?特に冬は」


「しかし品質が良くないと買ってくれないな」


「そこなんです。D級ばかりになったら大損です。だからこそなんです」


 俺は身を乗り出すぐらいに食いついていた。


「エドワードさんはスライム猟をしないといけない。他のスライム猟師さんもそう。でも俺は暇です」


 エドワードさんが困った表情でこちらを見ている。


「エドワードさんに付いて仕事をして来て、スライムの知識も多少はあります。そして暇なヤツというのは、この世で俺だけな気がします」


 エドワードさん、苦笑し始めた。


「なにより、もっと高品質なスライムをもっと多く納入したいんです」


 ここでエドワードさん、苦笑はやめてくれた。


「口ではそう言っても簡単じゃねえぞ」


 当然のことを言われた。しかし――


「考えがあるんです」


 俺はさらにかぶせて言った。


「さすがにいきなり自家養殖は飛躍しすぎだと思うんです。でも畜養ならどうでしょう?十分なエサと快適な環境で、C級からB級に上げるようにするんです」


 エドワードさんの表情に、心なしか少しだけ本気の色が見えた。


「利益が出るなら、そこを足掛かりに自家養殖に繋げていきます」


「失敗したらどうする?」


「俺が一文無しになるだけです」


 エドワードさんが俺の顔を覗き込んだ。


「一文無しになるんだぜ?」


「前に戻るだけです」


「そうか!はっはっはっ!」


 エドワードさんの笑い声を初めて聞いた。豪快に笑っている。つられて愛想笑いをした。


「やるなら場所を貸そう」


「ありがとうございます」


 * * *


 俺は契約満了になる前から、試しにスライムの飼育を始めた。早く手を付けると事業化も早くなる。……どっちかと言うと見切りが早くなりそうな気もする(弱気)。


 D級と呼ばれる品質のスライムをもらった。これは飼料としては売れそうにないスライムだ。肥料としては買われるが、売価は安い。


 スライム飼育のとっかかりとして、D級スライムにエサを与えてどう変わるか観察した。


 これまでのスライム業界ではD級スライムの体質改善はなく、D級のまま生きていくものと考えられていた。しかし、与えたエサを食べる個体はC級への品質向上が広く見られた。その率も概ね半分。エサを与えるだけでD級の半分がC級になるのだ。


「へえ……これは驚いたな」


 驚くエドワードさんの前で俺は得意気だった。


「しかし……C級がB級になることはないのか?」


「えっと……」


 俺には答えられなかった。スローライフはお預けだ。

お読み頂きありがとうございます。


全15話の4話でした。


「俺」はスライムの畜養を試みます。


畜養とは、短期間飼育することです。

魚の場合は生け簀に入れたりして、エサを多く与えて太らせたりします。


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