スライム畜養に手を出す俺
日を追うごとに慣れてきた。ただし、スライム猟に慣れたというよりは、重い荷車を引くのに慣れたかなと。
網カゴの置き方はバッチリ分かった。昼間は藪の中にいて、夜になると藪から藪を移動しているのだ。これは夜中に見たから間違いない。
だんだんとスライムの等級も見えてきた。
S級は発光個体であればサイズとか鮮度とかは気にしてない。たぶん、発光成分に関わりがあるのだろう。
A、Bの見分け方は、まだ完全には分からない。結構エドワードさんの選別を見てきたけど、本当にダメだ。
とはいえ、俺はエドワードさんの弟子ではない。あくまで期間雇用だ。
もうすぐ冬が来る。冬はスライムが取れにくくなる。そのときには契約終了となる。なんとなく未来の出来事だと思っていたが、まもなくそうなる。
「やはり厳しいでしょうか」
俺はエドワードさんに聞いた。無理だろうなと思いながら。
「厳しい」
やっぱり無理だった。
「すまんが他の仕事でもして食いつないでくれ」
ええ。もとからそのつもりでいたので大丈夫です。お金も多少は貯まりました。
「冬はどうする?」
エドワードさんに尋ねられて、俺の考えをぶつけてみた。
「スライムの飼育をしようかと思ってます」
「はあ?」
エドワードさんは驚いていた。しかも否定的になっている。
「飼育してどうする?」
「スライムの適切な給餌、温度とかを見極めようと思います」
「その見極めとやらをしてどうする?」
俺は一度大きめに息を吸って吐いた。
「目標はスライムの自家養殖です」
しんとした。
「それは無理だろう」
エドワードさんが言った。寡黙なぶん一言が重い。それにスライム猟の経験豊富な人の意見だ。その人にこう言われても、いいえ無理じゃないですと叫んで続行するのは、現実の見えない愚か者だ。
「無理じゃないです」
そう、俺は愚か者だ。
「……無理な気がします」
すぐに前言をマイルドにした。エドワードさんに楯突けない、それこそ無理です。
「ただ、思ったんです。雑魚扱いされますが、増殖は非常に早いです。それから、臆病なぶん、建物内で飼う方が育ちやすいんじゃないかとも思います」
「ふむ……」
同意っぽい相槌にも聞こえなくはないが、表情を見ると否定的だ。
「それと、土地も広くなくていいですし、何より需要はかなりありますよね?特に冬は」
「しかし品質が良くないと買ってくれないな」
「そこなんです。D級ばかりになったら大損です。だからこそなんです」
俺は身を乗り出すぐらいに食いついていた。
「エドワードさんはスライム猟をしないといけない。他のスライム猟師さんもそう。でも俺は暇です」
エドワードさんが困った表情でこちらを見ている。
「エドワードさんに付いて仕事をして来て、スライムの知識も多少はあります。そして暇なヤツというのは、この世で俺だけな気がします」
エドワードさん、苦笑し始めた。
「なにより、もっと高品質なスライムをもっと多く納入したいんです」
ここでエドワードさん、苦笑はやめてくれた。
「口ではそう言っても簡単じゃねえぞ」
当然のことを言われた。しかし――
「考えがあるんです」
俺はさらにかぶせて言った。
「さすがにいきなり自家養殖は飛躍しすぎだと思うんです。でも畜養ならどうでしょう?十分なエサと快適な環境で、C級からB級に上げるようにするんです」
エドワードさんの表情に、心なしか少しだけ本気の色が見えた。
「利益が出るなら、そこを足掛かりに自家養殖に繋げていきます」
「失敗したらどうする?」
「俺が一文無しになるだけです」
エドワードさんが俺の顔を覗き込んだ。
「一文無しになるんだぜ?」
「前に戻るだけです」
「そうか!はっはっはっ!」
エドワードさんの笑い声を初めて聞いた。豪快に笑っている。つられて愛想笑いをした。
「やるなら場所を貸そう」
「ありがとうございます」
* * *
俺は契約満了になる前から、試しにスライムの飼育を始めた。早く手を付けると事業化も早くなる。……どっちかと言うと見切りが早くなりそうな気もする(弱気)。
D級と呼ばれる品質のスライムをもらった。これは飼料としては売れそうにないスライムだ。肥料としては買われるが、売価は安い。
スライム飼育のとっかかりとして、D級スライムにエサを与えてどう変わるか観察した。
これまでのスライム業界ではD級スライムの体質改善はなく、D級のまま生きていくものと考えられていた。しかし、与えたエサを食べる個体はC級への品質向上が広く見られた。その率も概ね半分。エサを与えるだけでD級の半分がC級になるのだ。
「へえ……これは驚いたな」
驚くエドワードさんの前で俺は得意気だった。
「しかし……C級がB級になることはないのか?」
「えっと……」
俺には答えられなかった。スローライフはお預けだ。
お読み頂きありがとうございます。
全15話の4話でした。
「俺」はスライムの畜養を試みます。
畜養とは、短期間飼育することです。
魚の場合は生け簀に入れたりして、エサを多く与えて太らせたりします。
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