獲ったら売る
「行くぞ」
エドワードさんが言った。
「どこにですか?」
「売りに行く」
そういうと、大桶からたくさんのバケツにスライムを移し始めた。いっぱいになったバケツは順次荷車に積み込む。
見ていると、A、B、C等級が同じぐらいの割合を積んでいるようだった。S等級は少ないが全部をバケツに移している。D等級は出荷しないようだ。エドワードさんに言われて、俺はスライムが残る大桶に水を加えてフタをした。
「引け」
もちろんです、エドワードさん。俺は荷車を引いた。
――思ったより重い。これからドラゴン牧場まで一人で引かないといけないのかと思うと、もういやな気持ちになる。
ただ、前にドラゴン牧場でエドワードさんを見たときのことを思い出した。あれ、一人で引いてきたみたいだ。若い俺が音を上げるわけにはいかない。腹に力を入れて、一歩ずつ着実に前に進んだ。
ドラゴン牧場に到着した頃には、俺はへとへとになっていた。よくこれを一人で引いてるよな……日頃どういった物を食べてるんだろうか?
エドワードさんは牧場の建物に入った。すぐにオーナーを連れて出てきた。
「あれ、前に来てたよな?」
ドラゴン牧場のオーナーが少し驚いた表情を見せながら言った。
「はい。こちらで季節雇用でご厄介になっています」
「そうか。日雇いよりは安定するね」
俺はうなずいた。
「しかもエドワードさんは、かなりやり手のスライム猟師だ。しっかり勉強するといいよ」
「はい。そうします」
またうなずいた。エドワードさんに対する評価は俺だけが高いわけじゃないようだ。
「スライムを見せてもらうぞ」
オーナーはバケツの中を何度も方向を変えたりして見ていた。
「全体でいくらだ?」
「C級がバケツ10杯で2イン、B級も10杯で値段は10イン、A級3杯で6イン。合計は18インです」
C級とB級で5倍の値段差があると。A級は計算ややこしいな……1杯で2インだ。そうするとA級とB級で2倍の差があるんだな。A級とC級だったらで10倍か。結構差があるな……。
これだけ値段差があると、C級に入れられたスライムとA級スライムが同じスライムじゃないようにも見える。
「S級は?1杯6インだよな?」
「はい。今日は1杯しかないので6インです」
A級は1杯分だと2インなのでS級の方が3倍高い。A級のさらに上の等級はさすがに高額だ。ていうか、C級と比べたら30倍なのか……。
それなら、朝にエドワードさんが「量は多いが……」と言ってたけど、量より質を重視した方がいいと判断するのもうなずける。
オーナーは、S級と書かれたバケツを見た。バケツは、昼の日光に負けずにぼんやり光り輝いていた。
「S級は多く入らないか?」
オーナーがエドワードさんに尋ねた。
「ちょっと厳しいですね」
エドワードさんが答えた。
S級は高額なだけでなく量も欲しい。ということは量もそろえられたら、かなりの大枚をはたく心づもりがあるのだろう。
「頼むよ。光るスライムを食べると魔法が使えるドラゴンの魔力が上がるんだ」
言い切っているが検証されたことかどうかは分からない。しかし、少なくともオーナーはそう信じている。
「魔力を上げるためならご協力します」
エドワードさんも魔力は上がらないとは言わない。信じているのかも知れない。
「それと、A級も増やしてほしい」
「ええ。頑張ります。やはり品質のいい方がいい身体ができますものね」
「そう。これは本当に違いが出る」
二人の話を聞いていると、スライムの品質の重要さを改めて感じられた。
結局ドラゴン牧場のオーナーさんはエドワードさんの言い値でスライムを購入した。結構な値段になる。それでも欲しい物なのだ。
「S級とA級、頼むよ。共進会に向けて整えてるんだから」
「できるだけ頑張ります」
共進会ってなんだ?エドワードさんに尋ねようとしたが、オーナーさんと話し込んでいるので聞けなかった。
「帰るぞ」
エドワードさんが言った。俺は荷車を引いた。スライムが全部売れたので、とても軽い。足取りも軽く帰った。
でもまだ残っているものがあった。
作業場に近づくにつれて、スライムの声というか音というかが聞こえてきた。ドラゴン牧場に売りに行った残りだ。
C級がまだ結構残っている。D級もC級より少ないが、それなりに残っている。
C級の大桶に残っているスライムをバケツに入れ、荷車に積み込んだ。ドラゴン牧場に行った時よりもバケツの数が多かった。荷車を引っ張った。さっきまで軽かったぶん更に重く感じる。
なんとか市街地にまで到達したが、かなり息が上がっている。
市街地には市場があるが、それの外れで止まった。中心部は人間の食料品とかの店で、飼料は少し離されている。
俺は休ませてもらうことにした。しかしこれ、エドワードさんはいつもやってるのだろうか?だとすると……鉄人だ。
寝転がっているところ、交渉してる声と、バケツが触れ合う音とがした。
「帰るぞ」
しばらくすると、エドワードさんに起こされた。
――いや、しばらくじゃない。辺りが暗くなり始めていた。
「すみません……」
エドワードさんは怒ってもいないが、慰めることもない。俺は黙って荷車を引いた。
「今日の売り上げはいくらだったと思う?」
不意に聞かれた。
「ドラゴン牧場は確か24インでしたね」
「そうだ」
「市場に持ってきたのはC級が40杯ぐらいでしたか」
「そうだ」
「10杯2インだから、8インですね?」
正しく計算できているはず。自信を持って答えた。
「ドラゴン牧場ならそうなんだが、市場では6インだ」
「そうなんですか……」
市場は買い叩かれるのだ。
「だからドラゴン牧場の旦那は大事にしないといけない」
「そうですね」
俺は荷車を引きながら答えた。
お読み頂きありがとうございます。
全15話の3話でした。
普通に取引していますが、これを手伝いレベルの「俺」に見せるということは、エドワードさんは相当期待してるのだろうと思います。
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